第七十九話 ユニークスキル交換

《エラン視点》


(そろそろ仕掛ける!)




 反撃の隙を与えることなく、ひたすらに《衝撃拳フル・インパクト》で攻撃を与え続けていた僕は、相手の動きが目に見えて鈍っているのを見極め、起死回生の一手に移ることを決めた。




 このままボッコボコにして、裸にひんいて、股間に“無能”と炭で書いてやるのも悪くないが、どうせこいつは死ぬまで復讐を辞めないだろう。


 降伏はまず有り得ない。




 かと言って、このまま殺すつもりも最初からない。


 こいつの犯した罪は、死では贖あがなえないレベルにまで積み重なってしまっている。




(まあ、なんだかんだ理由付けて、殺したくないだけなのかもしれないけど……!)




 ウッズと相対したときも、殺すつもりなんてなかった。


 ただ、あいつが意味の無い覚悟の内に倒れることを決め、使ったら必ず死ぬ《憑怪の石》を使ったというだけの話。




(殺さずに勝利する……そのために使えるのは、《交換リプレイス》しかない!)




 スキルを発動する手を緩めず、攻撃を与え続けながらもの思う。




 今から行おうとしている作戦は、実は報復者リタリエイターとの決戦が始まる段階から密かに考えていた。


 ただ、大きな問題が一つ。




 これは、成功するかわからないレベルの作戦だということだ。




(けど、やるしかない! 気負うな僕! ようやく、作戦実行に移れるんだ!)




 《交換リプレイス》を発動しても、エラーが出て作戦が失敗すれば、その分だけ相手に反撃のチャンスを与えてしまう。


 だから、エナの援護がないままスキル反動臨界症の症状に魘され、一方的に嬲られていた段階では、失敗のリスクを負って試すことができなかった。




 激戦に加え、舌戦もあった。


 少しでも相手から意識を逸らしたら、斬り捨てられてお陀仏だっただろう。


 


 しかし、今はエナが背後にいる。


 スキル反動臨界症に陥り、HPが削れたとしても、肩に乗っているとーめちゃんが回復してくれる。




 事態が僅かに好転したことで、ようやく失敗しても何とかなる状況になった。


 むろん、時間はもう残り少ない。




 金色に渦巻く空全体には、青白い亀裂が広がっていて、赤黒い稲妻が走っている。


 数分後には、ダンジョン丸ごと消え去ってもおかしくない。そんな雰囲気。




(だから、ここで打って出る!)




 覚悟を決め、《交換リプレイス》を起動した。




「《交換リプレイス》――《衝撃波ソニック・ウェーブ》を捧げ、我が手に《報復リタリエーション》を!」


『コンディション・エラー。交換が出来ませんでした』


(くっ、やっぱだめか!)




 薄々わかってはいたが、ユニークスキルは交換対象外のようだ。


 そもそも、ユニークスキルを手に入れられるなら、間違いなく《交換リプレイス》は全ユニークスキルの中でも最強に位置してしまうだろう。




 交換失敗の隙を突いて反撃しようとしてきた報復者リタリエイターは、エナの放った炎の飛ぶ斬撃を受け、防御に徹する。


 その間に体勢を整えた僕は《閃光噴射フラッシュ・ジェット》の光線をぶっ放し、牽制けんせいしながら打開策を探る。




(元々、このスキルは、同じスキル同士じゃないと交換できないのが鉄則。通常スキルと魔法スキルの交換さえできないのに、ユニークスキルを通常スキルや魔法スキルと交換なんて、できるはずが……うん? 待てよ)




 情報を整理している内に、あることに気付く。


 同じスキル同士じゃないと交換できない。裏を返せばそれは――同じ種類のスキル同士なら、交換できるということだ。




「一か八か! 《交換リプレイス》――《交換リプレイス》を捧げ、我が手に《報復リタリエーション》を!」




 刹那、眩い光が僕と報復者リタリエイターの胸元で弾けた。




『な、なんだ……この光は!?』




 瞬間、僕と報復者リタリエイターの胸から眩い光の玉が抜け出し、それぞれ互いの胸に吸い込まれていく。


 自身のステータスを確認すると、ユニークスキルの欄には、《交換リプレイス》の代わりに、《報復リタリエーション》が明記されていた。




 賭けの部分が大きかったが、何とか上手くいったようだ。




『な、何が起きて……!? お前の玉が俺の身体の中に入って……!?』


「なんかその発言ちょっと卑猥ひわいチックだからやめてくれない?」




 さて。


 まだ何が起きたのか理解していない報復者リタリエイターのために、答え合わせをしてあげるとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る