第三十五話 脱出

 第三迷宮サードダンジョン《トリアース》の最下層に突き落とされてから、およそ七時間。


 ラスボスであるブル・ドラゴンを攻略した僕は、めでたく脱出の権利を得た。


 ――いや、それだけではない。




 単に最下層だけを攻略しただけではなく、7階層から89階層に続く、モンスターの巣穴がある縦穴を落ちてきた。運が良かったお陰でモンスターに襲われなかっただけとはいえ、七階層から88階層を攻略したことには変わりない。




 つまり僕は、最下層をクリアすると同時に、第三迷宮サード・ダンジョンも丸ごと攻略したことになる。


 最終的なステータスは、このようになった。




◆◆◆◆◆◆




 エラン


 Lv 248 → 326


 HP 6500 → 3205/8750


 MP 1020 → 1490


 STR 999 → 1255


 DEF 875 → 968


 DEX 226 → 280


 AGI 240 → 319


 LUK 172 → 210




 スキル(通常)《衝撃拳フル・インパクト》 《サーチ》 《飛行フライト》 《ズーム》 《速度超過スピードアップ》 《標的誘導ターゲット・インデュース》 《超跳躍ハイ・ジャンプ》 《硬質化ウェア・ハード》 《暗視ナイト・ビジョン》 《威嚇シャウト》 《衝撃波ソニック・ウェーブ》 《反発バックラッシュ》 《龍鱗ドラゴン・スケール》New! 


 スキル(魔法)《火炎弾フレイム・バレット》 《冷却波クール・ウェーブ》 《蒼放電ブルー・リリース》 《紅炎極砲フレア・カノン》 《上昇烈風ノックアップ・ゲイル》 《火炎付与フレア・エンチャント》 《閃光噴射フラッシュ・ジェット》 《積層土壁ラミネート・グランドウォール》 《氷柱雨撃アイシクル・レイン》New!   


 ユニークスキル 《交換リプレイス


 アイテム 《HP回復ポーション》×120→128 《MP回復ポーション》×44 《状態異常無効化の巻物》×38 《魔鉱石・赤》×78→99 《魔鉱石・黄》×106→176 《魔鉱石・青》×212→290 《魔除けのブレスレット》×1 《ガントレット(左手)》×1 《攻略の証》×1 New!


 個人ランクS


 所属 《緑青の剣》(追放)




◆◆◆◆◆◆




(HP、ある程度はとーめちゃんに回復してもらったけど、まだ回復しきれてないな。ポーション使うか)




 リュックの中で出番がないまま腐らせていた《HP回復ポーション》を取り出した。




 《HP回復ポーション》


 回復薬液が入った小瓶こびん。一つにつき、HPを即座に100回復する。




(HPを完全回復させるには、50本以上飲まなきゃいけないのか……うん、ムリ)




 そんなに飲んだら、お腹の中が海になる。


 とりあえず十本飲んで、あとは自然治癒に任せることにした。




 リュックの中に手を突っ込み、《HP回復ポーション》を取り出す。




「それにしても……ゲットしたアイテムにある《攻略の証》って一体なんだ?」




 宝箱からゲットしたアイテムなどを除き、敵を倒したことでゲットしたアイテムは勝手にリュックの中へ溜め込まれる仕組みだ。


 けれど、どういうわけか《攻略の証》らしきものが見当たらない。




 首を傾げていると、不意にクレアが僕の胸元を指さした。




「証ってやつ……もしかしてソレじゃない?」


「ふぇ?」




 自身の胸元を確認する。


 着込んだダークコートの胸元に、オレンジ色で縁をかたどった白い花の紋章がいつの間にか付いていた。




「うおっ!? ほんとだ」


「よかったね、エランくん! でも、せっかく最下層クリアしたんだし、私も何か変化が欲しいな~……あ、そうだ!」




 良いこと思いついた! と言いたげな表情をした後、クレアは急にスカートの裾をめくりだした。




「な、何してんの?」


「最下層クリアした記念で、衣装の雰囲気変えようかなって思って。スカートの裾めっっっちゃ短くするの! そうすれば、今までとは違う私になるし、エランくんも誘惑できて一石二鳥かなって――」


「や め て く だ さ い !」




 いきなり痴女ちじょになりだしたクレアを、全力で制止するのだった。




 △▼△▼△▼




 ――一悶着あった後、僕達は最下層を後にした。


 ラスボスを倒すとステージの端に扉が現れるのだが、それをくぐれば地上に戻れる仕掛になっていると聞いたことがある。




 その扉は、しばらく歩いていると見つかった。


 古代文字のような意味不明の模様がびっしりと描かれた、石の扉だった。


 


「本当に、ここを通れば地上って場所に行けるの?」


「え? う、うん。たぶんね」




 地上って場所。という、あたかも知らないような言い方が気になったが、彼女の不思議さを垣間見るのは今に始まったことではない。


 だから特にツッコミを入れることもなく、聞き流すことにした。




「さて……」




 僕は、深呼吸して扉を力一杯押した。


 ギギギギと音を立て、扉が奥に開いていく。扉の向こうは、不思議な白い光で満たされていた。


 たぶん、ダンジョン特有の空間湾曲が生み出している、空間の狭間だろう。


 ここを通り抜ければ――そこは。




「行こうか、地上へ」


「うん!」


『もきゅ!』




 肩にとーめちゃんを乗せたクレアの手を取り、扉の向こうへと足を踏み出した。

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