第十二話 リーダー追放

《ウッズ視点》


「お前の言う通り、俺がアイツに《標的誘導ターゲット・インデュース》をかけて、サイクロプスがヤツを狙うように仕向けた」


「どうして、そんなことしたの?」




 エナが、にじり寄って聞いてきた。




「あの場で、ああする以外に方法があったと思うのか? 出てきたのはSクラスのモンスターだ。ランクCの俺も、Bのお前でさえ太刀打ちできない相手だぜ? ヤツを囮に利用しなけりゃ、間違い無く俺達は全員死んでた。感謝されることはあっても、責められることをした覚えはないがな」


「ふざけないで。あなた、人を殺した自覚はあるの?」


「もちろん」




 俺は即答した。


 


「だが、もう一度言うぞ。俺があいつを切り捨てなきゃ、お前等は全員殺されてた。一人の命か大勢の命、俺はその二つを天秤に賭けただけだ」


「そんな……だからって、エランくんを切り捨てていい理由にはならないわ!」




 ああ、なんでこの女は、あんなクズの命一つで騒ぎ立てるんだろうか。あんな荷物持ちとしてもおぼつかない、何の役にも立たないゴミクズを庇うなんて、バカバカしい。




「あんた、妙にアイツを庇うな。惚れてたのか?」


「なっ!?」




 とたん、エナの顔が赤くなる。が、図星なのか怒っているのか判断が付かないうちに、「茶化さないで!」と叫んだ。




「エランくんは、凄く優しい人だったのよ! こんなところで、死んでいいはずないじゃない!」




 何を甘ったれたこと言ってるんだ、この女は。




「ここはダンジョンだぞ。常に死と隣り合わせの魔窟だ。いつでも死ぬ覚悟くらいできてるだろ」


「じゃあどうして、パーティ全員の命を預かるあなたが、身を呈して守らなかったの? いつでも死ぬ覚悟ができてるんでしょう?」


「なんだと……?」




 はらわたが煮えくりかえる。


 この女、俺が代わりに死ねば良いとでも思っているのか。




「このパーティで最も必要ない人材を切り捨てただけだ。お前等だって、俺の判断が正しいと思うだろ?」




 俺は、側で聞いていたメンバー達に問いかける。


 しかし――なぜか皆、一様に眉をひそめて黙っていた。




「たしかに、リーダーが言うことも、間違ってるわけじゃないと思う」




 静寂を破るようにして、リシアが呟いた。




「だろ? だから――」


「でも。エランさんをあやめて、それが正しかったって言い張るのは、おかしいと思う」




 リシアは、きっぱりとそう言い切った。


 基本的に、俺の後ろから付いてくるだけで、俺の言動を否定したことのないリシアが。




「なんだよお前まで。お前も、アイツの代わりに俺が死ねばよかったと思ってるたちか?」


「違うよ、そういう意味じゃない」


「じゃあ、どういう意味だよ!」




 リシアの肩をつかんで、強く揺さぶる。


 


「わかんねぇのか、リーダー」




 目元に傷のある大柄の男――アルクが、リシアの肩から俺の手を引きはがした。




「あんたが下した判断は、確かに最善なのかもしれない。だが、その結果エランを死なせて、それをさぞ英断かのように語っているのは、おかしいだろって話だ」


「つまり、あんな無能の死に心を痛めてやれ、と?」




 冗談じゃない。


 あんなヤツ、とむらう価値もないじゃないか。




「少しも反省してないなら……私、もうあなたには付いていけないわ」




 ふと、耐えかねたようにエナが呟いた。




「は? 冗談でもやめろよ、そういうの。お前は一応、このパーティの最高戦力だろうが」


「俺も、はっきり言って付いていきたくねぇな」




 エナに同調するように、アルクが言った。




「あんたの傲慢や横暴は、前々から気になってたが、今回の件ではっきりした。あんた、頭おかしいぜ」


「は? なんだよお前まで」




 エナやアルクの発言に端を発し、周りのメンバーも口々に呟きだした。




「以前までこのパーティにいたアース、あんたにこき使われて辛いからって理由でやめたんだ。確かにあいつは個人ランク低かったし、戦闘には向いてなかったが、後方支援でみんなのために頑張ってた、良い奴だった」


「正直私も、今回のことは見過ごせない。エランさんとは話した回数も少ないけど、みんなのために頑張ってた印象があるから。そんな人を、無能呼ばわりして躊躇いなく切り捨てるなんて」


「ウッズくんは、個人ランクもウチより上で凄い人だと思う。でも……たまに冷たいから、怖いなって」




 ジースにセシル、リシアなど俺と比較的仲が良かったはずのメンバーですら、渋い顔をしてこちらを見ている。


 


「……ふ、ふざけんなよ。お前ら」




 なんでだ。


 なんで俺が悪いことにされる?


 


 なんだよその失望したような目は。俺はただ、使い物にならないクズのエランを捨てただけだ。


 悪いのは全部、切り捨てられるくらいの価値しかなかったアイツのはずだ。




「そんなに俺が嫌いなら、こっから出てってやる! 後悔しろよお前ら、リーダーが抜けたパーティなんざ、烏合の衆だ。いずれ俺が居なくなったことを悔やむ日がやって来る!」


「なんとでも言え。俺達はもう、あんたに付いていきたくねぇ」




 「ちっ」と一つ舌打ちして、俺は踵を返す。


 こうして俺は、追放しても足を引っ張りやがるエランを恨みながら、《緑青の剣》のリーダーの座を降りた。



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