第十話 その頃、ウッズは……
《ウッズ視点》
ちょうどその頃。
ここは第7階層最奥にある《水晶の部屋》。
正八角形に切り取られた空間のあちこちに、半透明の水晶がある、ダンジョンの宝物庫のような場所だ。
攻略者ギルドで金貨と交換できるのは、何も魔鉱石だけじゃない。
水晶や通常の宝石、一部のアイテムも取り引きの対象となる。そんな場所で……俺は、信じられない現実を前に
「な、なんで……《水晶の部屋》の番人が、Bクラスのモンスターなんだよ!!」
目の前に立ちはだかるのは、人の背丈の二倍はある、犬に似た漆黒の魔獣、
こんな上層にいるのは、せいぜいクラスCまで。
クラスB以上は、二桁を超えないと現れない。――だというのに。
「どうしてさっきから、高クラスのモンスターばかり居やがんだよ!」
俺は、剣を構えながら叫んだ。
剣の切っ先は震え、視界が歪んで見える。
「ど、どうしようリーダーぁ!」
ついさっきも聞いたような台詞が、横に並び立つリシアの口からこぼれた。
リシアは、金髪と
その割にメンタルが弱く、不測の事態が起こるとすぐにあたふたし出すから、しょっちゅうイライラするが。
「知らねぇよ、俺だって!」
「ウチ、もう魔力残ってないよぉ! めっちゃピンチだよぉ!」
「俺だってHPが一割切ってんだ……クソが!」
周りを見まわせば、アルクもセシルも、ジースにカメルも。皆額に脂汗を浮かべ、絶望に天を仰いでいる。
「HPとMPを回復するポーションがあれば……っ! 誰だよ、持ってるヤツは! 早く出しやがれ!」
「も、持ってるのは確かエランさんのはずだよ! でも、あのデッカイモンスターと鉢合わせした辺りから、姿を見てないの」
「ちっ、あの野郎か!」
とことん使えないヤツだ。
よりによって、HPとMPを回復するポーションを全部持ったまま、下に落ちたとは。
「くそっ……あいつさえいれば、目の前にいるバケモンなんか……!」
うん? あいつさえいれば……?
(はっ? 何言ってんだ俺は……要らないから、役立たずだから、ついさっき切り捨ててきたばかりじゃねぇか)
この期に及んでエランの影がちらついたことに、イライラが募る。
そうだ。
俺があんなヤツを頼るなど、万に一つも有り得ない。
だから、俺が欲しているのはポーションだ。アイツじゃない。
それに、ポーションなんか無くたって、このパーティには切り札がいる。
「おい、エナ。コイツをさっさと畳んじまえ!」
俺は、後ろに控える女に指示を出した。
歳は俺と同じ19歳。ライムグリーンの長髪と知的な藤色の瞳を持つ、大人びたヤツだ。
柔和な物腰と大人びた性格で、パーティのマドンナ的存在でありながら、洗練された剣捌きを見せるエースでもある。
個人ランクは、リーダーの俺よりも一つ上のB。
リーダーの
悔しいが、コイツがいればBクラスの犬っころなんか怖くない。
さあ、頼む! 俺達の盾になってくれ。
ところが。
「ごめん。私、今そんな気分じゃないの」
エナは、小さく首を横に振った。
「は?」
耳を疑った。
この場を切り抜けられるのは、もうコイツしかいないのだ。
「何言ってやがんだ! リーダーの言うことが聞けねぇのか! お前はただ、黙ってこの忌々しいバケモノを倒せばいいんだよ!」
「そうやって、エランくんを見捨てたんでしょ……?」
「っ! なぜそれを、お前が……?」
たじろいで、一歩後ずさる。
それを聞いていたアルク達にも、動揺が走った。
エランを最下層に突き飛ばしたとき、他のメンバーは脇目も振らずにサイクロプスから逃げていた。
俺がエランを見限ったことは、誰にも気付かれてないはずだ。
なのに、なぜ……?
「気付いてないとでも思ったの? あなたが、エランくんを苛めてたことは、前から知ってた。でも、自分たちが助かるために、エランくんを見捨てる……そんなリーダーの言うことを、私は聞きたくない」
他のメンバーも、非難めいた顔や、驚きを隠せない表情を向けてくる。
「ちっ」
むしゃくしゃして、舌打ちをした。
ウザい奴が、面倒なことをしてくれたもんだ。
「だが、我を通せる状況じゃないぞ。このクソッタレモンスターを攻略できんのは、お前しかいねぇだろ。今闘いたくねぇとか、そんなことは俺の知ったことじゃない。闘わなきゃ、ここにいる全員がミンチになるぞ」
「……あなた、サイテーね」
エナは俺を親の敵でも見るような目で睨み上げて、腰に
それから、ゆっくりと
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