第九話 魔除けのブレスレット
「お待たせ」
服と荷物を手に戻った僕は、クレアに服を渡した。
「サイズ、合うといいんだけど」
「ちょっと小さめな方が、エランくんの好みだったりする?」
「なんで?」
「だって、スカートとか短い方が、露出部分多くな――」
「あーはいはい。好みじゃないからさっさと着てくれ」
急に誘惑し出したクレアを適当にあしらい、着用を促す。
「んもう、少しは恥ずかしがったりしてよ。つまんないじゃん」
ぶぅーと膨れるクレア。
「あのね。君は一体僕に何を求めてるのさ」
「可憐な女の子の誘惑に照れる純粋むっつり系お兄ちゃん!」
「アホか」
呆れて一蹴する。
なんなんだ、この子は。
「大体さ、お前は既に露出度MAXでしょうが」
「あ、そっか!」
気付かなかった、とでも言うような反応をしつつ、クレアはジャンパースカートを着た。
「どう?」
フリルの付いた裾を握り、一回転してみせる。
薄黄色のゆったりとした生地が彼女を覆い、まるで春を感じさせる妖精のよう。
胸元の青いリボンはチャームポイントであり、かつ主張も強すぎず。落ち着いた雰囲気を内包するスカートだからこそ、かえって彼女の魅力を引き立たせる。
「う、うん。似合ってる。めっちゃ……」
「違うよ。そっちじゃない」
クレアは、ふて腐れたように頬を膨らませる。
「じゃあ何?」
「私の生着替えを見たご感想はいかが――」
「さーて、次進むぞぉー」
またわけのわからないことを言い始めたクレアを華麗にスルーして、ドームの奥にある新たな洞窟の入り口を目指す。
「あ、ちょっと待ってよぉ! ごめんてぇ!」
クレアの慌てたような足音が、パタパタと後ろから付いてきた。
――。
ぐぅ~。
洞窟の中を歩いている途中で、お腹が鳴った。
「腹減ったなぁ」
そういえば、橋から落ちるよりも大分前から、ご飯を食べていなかったっけ。
「さっきのバトルで、食べ物とかドロップしてないかな?」
望みは低いと知りつつ、ステータスを確認する。
◆◆◆◆◆◆
エラン
Lv 85 → 92
HP 2080 → 2400
MP 412 → 465
STR 380 → 405
DEF 291 → 310
DEX 120 → 132
AGI 145 → 155
LUK 99 → 104
スキル(通常)《
スキル(魔法)《
ユニークスキル 《
アイテム 《ナイフ》×1 《HP回復ポーション》×33→35 《MP回復ポーション》×26 《状態異常無効化の巻物》×20 《魔鉱石・赤》×22 《魔鉱石・黄》×41→45 《魔鉱石・青》×65→75 《スライムの核》×1 New! 《魔除けのブレスレット》×2 New!
個人ランクA
所属 《緑青の剣》(追放)
◆◆◆◆◆◆
――まあ、Sランクとはいえスライム一匹だし、レベルの上がり幅はこんなものか。
レベル自体、高くなればなるほど上がりにくくなるし。
「新しくゲットしたスライムの核って……食べれるのかな」
ざっと詳細を確認する。
スライムの核
スライムの中核を成す部位。そのままでは臭くて食べられないが、加熱することで食べられるようになる。
「あ、食べられるんだ」
リュックから、薄緑色の球をとりだした。
ぶよぶよした拳大の大きさのそれこそ、スライムの核だ。
「え、なんかマズそうじゃない?」
「皆まで言うな、僕もそう思ってる……ぶっちゃけ、あんまり気が進まない」
加熱すれば食べられるみたいだから、味に関しては一か八かに賭けるしかない。幸い、《
「あ、そうだ。そういえば、これもゲットしてたっけ」
リュックから、新たにゲットした二つのアイテムを取り出した。
それは、ブレスレットだ。
一つはオレンジ色、もう一つは黄色の宝石を丸くカットして繋いだ、高価そうなものだった。
「これ、二つも要らないし、一個はクレアにあげるよ」
「ほんと!?」
「うん。どっちがいい?」
「じゃあ……黄色で!」
嬉しそうに表情を綻ばせながら、クレアは黄色い宝石で作られたブレスレットを右手の手首に付けた。
僕は、残ったオレンジ色の方を左手に付ける。
「モンスターを倒すと、こんなオシャレアイテムも貰えたりするんだね」
「ただのオシャレ用じゃ無さそうだけどね。《魔除けのブレスレット》っていう説明があったし、たぶんモンスターを寄せ付けない効果とかあるんじゃない? ……正直少し胡散臭いけど」
「そうなんだ」
じゃらりと、クレアは物珍しそうに宝石の玉を指で弄る。
「それより、この辺で少し休んでいかない? お腹空いたから、食事して行きたいんだけど」
「え~、そのマズそうなのホントに食べるの?」
「まあ……これしかないし」
本当はビフテキとか食べたいけど、ここはダンジョンの最下層だ。食べ物が手に入っただけ、有り難い。
「クレアも食べる?」
「ううん、遠慮しとく。マズそうだし、あとお腹空かないし」
「そう」
ならば仕方ない。
僕だけで、味見……いや、毒味をすることにしよう。
そう思いつつ、近くに転がっていた岩に腰掛けた。
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