第七話 出会い、不思議な少女

「んなぁっ!?」




 あまりの衝撃に、思わず《ズーム》を切ってしまった。


 ドクドクと、心臓が大きく躍動する。




 み、見てない! 僕は断じて、女の子の裸なんか見てないぞ!


 そ、そうさ。今のはきっと見間違い……




 暴れる心臓をおさめるように深呼吸を数回して、僕はまた《ズーム》を起動した。




 洞窟の出口の向こう。


 まず見えたのは、ゲル状の大きなモンスターだ。たぶん、形からしてスライムだろう。


 そこから少し視線を横にずらすと……スライムから伸びる薄緑色の触手に拘束された、肌色成分たっぷりの女の子がいて……




「……見間違いじゃなかったぁあああああああ!」




 興奮やら罪悪感やらが一気に胸に押し寄せて、思わず叫んでしまった。


 よくよく見れば、多少貧相な胸元やお尻など、大事な部分は辛うじて布きれで隠れているが、もうほぼ100%裸だ。




「た、助けて! 誰か!」




 女の子の必死な叫びが聞こえて、一気に動揺が冷める。


 そうだ。スライムは、女の子を襲って服を溶かすモンスターだと聞いたことがある。




「おのれハレンチな!」




 許せん! 


 僕は、アイテムの大量入手で重くなったリュックを投げ捨て、スライムめがけて走り出した。


 同時に、入手したばかりのスキル《速度超過スピードアップ》を起動する。




 《速度超過スピードアップ》。


 起動してから30秒間、移動速度が3倍になるスキルだ。ただし一度使用した後は、再び使用できるようになるまで3分間のCT《クールタイム》を要する、時間制限付きの即席強化インスタント




「だけど、今にも18歳未満閲覧NGになりそうな女の子を助けるには、十分すぎる時間だ!!」




 瞬間、走る速度が一気に上がった。


 洞窟の冴えない壁の凹凸が、所々から顔を覗かせている水晶が、みるみる後ろに遠ざかる。




 風の吹かない洞窟で、向かい風を感じる。


 出口がぐんぐんと近づき、洞窟を抜けた。




 山のように大きい薄緑色のスライムが鎮座しているのは、だだっ広いドーム状の空間だった。ドーム内の壁には等間隔で松明たいまつが配置されており、まるで儀式上のような怪しさを醸し出している。




「く、苦しい……!」




 スライムの触手に拘束されている少女は、もがきながら苦悶の声を上げた。




「その子を離せよ、ハレンチモンスターッ!!」




 スキル《衝撃拳フル・インパクト》。


 スライムのたもとへ一息に飛び込み、3倍の速度でかさ増しした拳を抜き放つ。


 衝撃波が渦を巻いてスライムの胴体を抉り、ゲル状の肉体を吹き飛ばす。




 スライムの身体は四方に飛び散り、空中に浮いている状態で拘束されていた少女も解放される。




「か、解放された……って、きゃあ!」




 拘束を解かれた少女は、重力に従って落下する。




「おっとぉ」




 落ちてきた少女を、間一髪横抱きに抱える形でキャッチした。




「あ、ありがと……」


「なんのなんの……あ」




 図らずもお姫様だっこをする形になり、今僕は、端から見たらとんでもない状況になっていることに気付く。


 何せ彼女は、一糸纏わぬ姿だ(僕の名誉のために、大事な部分が隠れていることは強調しておこう)


 僕の目の前には、絹のように滑らかで、雪もあざむく真っ白な肌があり――なおかつ、その体温をダイレクトに感じている状態なのである。




 つまり現状――いかがわしい場面にしか見えないのだ。




 慌てて彼女を下ろし、「怪我はない?」とそっぽを向きながら問う。




「うん、どこも……って、あれ?」




 視界の端に、少女が自分の身体を顧みて硬直している姿が映った。


 それから「きゃああああっ!」と悲鳴を上げて、その場に蹲まる。


 


「な、なんで? なんで私裸なのっ!?」


「たぶん、今ぶっ飛ばしたあのモンスターのせい……」




 なるべく少女を見ないように、散らばったスライムの残骸を指さして……今度は僕が硬直した。


 倒したはずのスライムの破片が、うねうねと動いているのだ。




「げっ! 生きてる!?」




 想定外の事態に驚いている僕の目の前で、スライムの破片は独りでに集まり、元の形を取り戻していく。




 《衝撃拳フル・インパクト》が効かないとは。


 なかなか骨のある軟体生物だ。




「下がってて」




 少女を庇うように立ち、山のような薄緑色の怪物を見上げた。

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