第14話 媒介
「傷一つ、ついてないなんて。」傷どころか、服に綻びも出来ていない神野。ふと、自分と見比べる。自分の服は所々はだけており、肌も擦れて赤くなっている。
(せや、お前はボロボロなのに、直で攻撃受けとるこのおっさんは何とも無い。そして、このおっさんは息もしとる。せやから、こいつの時間も動いてる訳や。ただ動かないっていうだけで、このおっさんは怪我一つ負ってないんや。)
左手の意見を聞きながら、真剣な眼差しでおっさんを見つめるフローラ。
おっさんをじっと見つめるフローラを不思議そうに観察しながら、イライザは様子を伺った。
「あ、あの。このおっさんが、どうかしたんですか?」
突然、フローラは目を見開いた。
「そうか!いや、何となくだけど。分かった気がする。」
(ほな、ローラちゃんで試してみい。きっと上手く行くで!)左手の言葉に頷き、フローラは横たわっているおっさんの右手を、自分の右手で掴むと、徐にローラの傷口の上におっさんの手を載せた。
そして、そのおっさんの手の上に自分の手を重ねて、心の中で治癒魔法を唱えた。
「お願い、治って。」成功する気がしながらも、もし駄目だったら、と不安に押し潰されそうになるフローラ。
治療は、成功した。
傷口が収縮し始めると、フローラの顔に安堵の笑みが浮かんだ。
ローラの顔色も血色が良くなっていく。それを見て、
「おお!!さすが麗しい!」と、ロイは大声で叫び、両手で勢い良くガッツポーズをきめた。
「うわぁ!本当に治ってる!お姉ちゃん、カッコいい!」イライザは両手を組みながら、フローラに見惚れた。
程なくして、
「んぁ、ぅみん、ぁ。」わずかに開いた瞼から、辺りを見回し、ローラが呟いた。
「ロ、ローラ!」
「ローラ!もう大丈夫だよ!良かったね!」ロイとイライザがローラに駆け寄り、慈しみに溢れた眼差しでローラを見守った。
「本当に、、本当に良かった。」フローラは、喜びのあまり、その場で失神した。
それから、2日間、ローラとフローラは寝込んで目を覚まさなかった。
イライザとロイは協力し合って、二人の看病を行なった。
フローラは、ローラより先に目を覚ますと、ローラの事を二人に頼みつつ、一人になる為、外へと出掛けた。近くに川を見つけると、その川辺に腰を下ろした。
今回の件の整理をする為に、一人の時間が必要だった。
「地底人と、おっさん。いや、両方とも、おっさんか。」フローラは呟きながら、地底人が登場してからの事を思い返した。
地底人がローラ様を傷つけて、
でも地底人は私を傷つけられなくて、
そして私の攻撃も効かなくて。
地底人が、神の一手の光で目を痛めて、もがいてて、
そしたら、おっさんダイブが少し効いて、
おっさん殴打がぺちぺち、しか効かなくて。
終いには、目が痛いから!って地底人が逃げ出して。
いや、おっさん、必要あったのか?
あんな、必死でおっさんを握りしめて戦ってたのに。
と、思い詰め、フローラは今になって、とても恥ずかしくなった。顔を赤らめ、そっと、手で顔を隠した。
(いや、カッコよかったよ、あれ、おっさんダイブ?だっけ?名前も、お前がつけたんやろ?)
フローラは何も反応しなかった。それどころでは無かった。
フローラは、思い返す事によって、忘れようとしていた感情が蘇ってきてしまっていた。
必死だった、とは言え、おっさんの足は脛毛があって、それを生で握っていたのだ、一生懸命に。
フローラは、おっさんを必死に振り回す自分の姿が安易に想像出来てしまった。そしてその姿が中々消え無くなってしまった。
フローラは、自己防衛のために自我を滅することにした。
無になりつつある、フローラの心。
体から力が抜け、力無く目をとろんとさせ、口もだらしなく開く。
そこまでして漸く、心が無になった。
(まあ、なんしか、このおっさんを通じてやと、攻撃が効く、攻撃を受けてまう、回復させる事が出来る。このおっさんは、理由は分からんけど、媒介の役割をしてくれるみたいやな。)
(おい!何とか言えや!)
「いーわーわー、うーりー。ゔっ!」
左手の声を聞くだけでフィードバックする自分の姿。恥ずかしさが極まりつつあり、スストレスとなって激しい頭痛を伴う程となっていた。フローラはその激しい頭痛に苦しんだ。
(おっさん、、ダーイブ!!)
「うあっ、あ、頭が!」頭を抱え、激しく悶えるフローラ。
(せやかて、また地底人が襲ってきよったら、また戦うんやろ?ローラちゃん守る為に。おっさんで。)
「ほ、他に方法は無いのか?!」
(せやから、それを今考えとんのやろ。)
冷静になり、暫く考え込むフローラ。
概ね、地底人とおっさんと自分の相関関係を把握したフローラ。そして、疑問を口にした。
「何故ローラ様はあいつにやられたんだ?」
(うーん、それはまだ分からん!だいたい、おっさんを使わないと攻撃が効かない相手なんて初めてやし。そっちの方がイレギュラーやし。まあ、それを言ったら、おっさん使わないと回復出来ないローラちゃんの存在も大概やで。あれじゃあおっさんが居ないと生きていかれへんで。てか、お前はおっさん使いとして今のうちから、技磨いといた方がええんちゃう?)
「なあなあ、お前、今なんつった?!」顔に左手の平を密着させてぐりぐりと押しつけながら、今にも噛みつきそうな顔で怒るフローラ。
(うわ、こっわ。)左手は馬鹿にした様な口調で煽った。
「お前、ほんっと性格悪いよな。」
(主に似たんやろな。)
「このくそが!」そう低い声で唸るフローラ。
そのフローラに、遠くから駆け足で近寄ってくる者。その者が叫んで呼びかける。
「フローラァ!フローラァ!」
声の方を振り返るフローラ。その者の姿に、フローラは見惚れてしまった。
しっかりとした重みのある紫が、シルクの光沢感で更にエレガントに仕立て上げられた、気品あるドレスを纏って、裾を少し捲り上げながら精一杯に走ってくる。
髪も綺麗なポニーテールに仕立て、髪飾り、ネックレスにイヤリング、初めて見る姿だった。普段の青いカートルというワンピース姿に見慣れていたフローラには、とても衝撃的な姿だった。
まるで、本当のお姫様。フローラにそう思わせ、見惚れて声を失わせたその犯人は、ローラだった。
ローラは息を切らしながら走って、フローラの元に到達すると、勢いそのままにフローラへ抱きついた。
フローラのお腹に目一杯顔を埋めて、すりすりと顔を擦り付けた。
「フローラ、助けてくれてありがとう。あんな怖い奴相手に戦って、守ってくれてありがとうね。」
「いえ、滅相もないです。私が至らないせいで、ローラ様がとても危険な目に。ローラ様、お怪我は大丈夫ですか?」ローラの肩に手を添えて、優しく引き寄せながら、フローラは言った。
「うん!もう大丈夫だよ!」フローラを見上げて、にこにこと笑顔で答えるローラ。
「それは!良かったです!はぁ、はぁ。」ローラの笑顔の可愛さに、フローラは目眩がしてしまった。
「だ、大丈夫?」自分がきつく抱きついてしまったからだと思い、ローラはフローラに抱きつくのを止め、離れた。
フローラは、悪知恵が働いてしまった。
そうだ、ご厚意を賜れる絶好のチャンス!ローラ様との距離良し!顔の角度良し!お、おねだり、してみようかな。。
「い、いえ、これは、お姫様にキスをしてもらわないと、ぶっ!」フローラが話している最中、フローラの頬に拳が飛んできた。頬にめり込んだその拳は、フローラの左手。
たまらず、よろめくフローラ。
(何言っとんのやー!)
黙れ、と心の中で呟くフローラ。
鈍い音が、フローラの体から鳴った。
フローラは素早い手つきで無理矢理、自分の左肩の関節を外した。
左手が、糸の切れた操り人形の様に、だらんと垂れた。
「フ、フローラ!どうしたの、、左手ぷらぷらだよ?」
「の、呪われてるのです。だから、早く、キスを。」
左手は動かず、ぷらぷらとしている。
(お前、ローラちゃんは神様なんやろ!神様に何させとんのや?!)
黙れ!
使用人が主の愛を乞うて何が悪い!それに頬なら良いだろ!ご厚意の記しだ!早とちりしおって!下品な勘違いをするな!
フローラは心の中で、説教した。
(そ、そうか。ま、まぁ、ご厚意なら、たしかに。)
「ほ、本当にそんな事で治るの?」痛々しいフローラの左手の様を心配そうに見つめながら、問いかけるローラ。
「ええ!勿論です!それほど、主のご厚意には力がありますので。さあ!早く」フローラはローラに頬を差し出し、ローラの顔へと屈んでいく。
ローラの唇が触れる寸前、
「おーい!ローラァー!」遠くから叫ぶ声。
ふざけんなぁ!
フローラの怒りに満ち満ちた鋭い眼光が、叫び声の主を捉えた。
フローラはその姿を見ると、これほど迄にロマンチックな雰囲気をぶち壊す存在は、こいつ以外居ない、と思った。
その主は、フローラがトラウマ化しつつある、神野だった。
作者様の迷走が果てないので誰か助けて、ローラより 燈と皆 @Akari-to-minna
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