第13話 神を想う心
フローラは先程までとは違う手応えを感じ、追撃をかけた。
脚を開いてそのまま地底人に馬乗りになり、手に持った神野を振り回し地底人の顔面を殴打した。
ペチン、ペチンと殴打の度に音が鳴る。
そしてその度に、地底人も声を上げる。
「痛い!痛い!」地底人の頬が赤く少し腫れた。
「よし!効いてる!」フローラの士気が高まる。
しかし、単調になったのであろう、フローラの動きの隙をついて、視界を奪われた地底人ががむしゃらに暴れ、フローラを力強く下から拳で突き飛ばした。宙に舞うフローラ。
「ぐっ!」咄嗟に神野を盾に防ぐフローラだが、衝撃が貫通していた。
軽やかに着地するフローラだが、着ていたメイド服は、今の一度の衝撃だけで、神野を盾に受け止めていた右腕の部分から腰にかけて所々破損していた。それを見て、その破壊力を持つ地底人を強者であると、フローラは改めて認識した。
「何て力だ、こんちきしょう!」顔を引き攣らせ、はだけた服を払い、体に走る痛みを気にしながらも、目を輝かせ、そして噛み付く様な目線で地底人を見るフローラ。
まだこれから、という意気のフローラだったが、決着は、呆気なく訪れた。
「もう目が痛くて、無理!今日は帰る!」
そう言って、地底人は足元の地面に爪をたて、者凄い速さで地面を掘って行った。
「な、何だそれ!待て、逃げんなぁ!」フローラはそう叫び、地底人へ急いで飛びかかった。
だが、地底人の潜る速さは驚異的だった。
地底人の居た所には底が見えない程の深い穴がフローラに口を開けるだけで、程なくして、地底人の掘り進む音も聞こえなくなった。追うのは危険、と本能で察し、逃がしてしまった事実を受け止めた。
「しかも効いてたの、光の方かよ!バカー!」
フローラは穴に向かって叫んだ。
そんなフローラに、左手が語りかける。
(なあ、そんな事より、急がなあかんちゃうの?)
そうだった!ローラ様!と急いでフローラは飛び上がり、放物線を描きながらローラの家の前に着地した。
急いで家に入ると、ベッドで横たわるローラに手を当てる人物たちがフローラの視界に飛び込んできた。
その人物達、男と女。フローラにとって彼等は、知らない人達では無い、という程の、どこかで見た事ある人という認識だった。
彼等は、両手をローラに当てて、魔法を唱えていた。
「くそ、傷が塞がらないぞ!どうすれば良いんだ、ロイ!」
「もっと、もっとだ!もっと大量に魔力を注入すれば!」
「全治癒魔法が効いてないんだぞ!根本的に何か違うんじゃないのか!」
「それは試したさ、呪いでも何かの誓約でも無かった。回復薬も効かない。だから、後は魔法しか無い。そこらへん、イライザの方が魔法使いだから、何か分からないのか?!」
ロイという銀髪ロングヘアーの白く長いスーツとマントを纏うスマートな男と、イライザという金髪ショートの赤いドレスを今にもはちきらんばかりとする程のムキムキな肉体の少女が、ローラの前に膝をついて、両手をローラに当てながら言い合いをしていた。
フローラは無言でローラに近づき、同じ様に膝をついた。
「何で怒られなきゃいけ、うあーん!」イライザは、ロイに責められていると感じ、泣き出した。
「べ、別に怒ってないだろ!イライザは魔法少女なんだろ!だったら、魔法少女に魔法の事聞いて、何が悪いんだ!」ロイは泣くイライザに動揺して、語尾を強めた。
「やっぱり、めちゃくちゃ怒ってるじゃ、うあーん!」イライザは幼い容姿の通り、幼い子供の如く泣き喚いた。
「だから!怒って無いって言ってんだろ!」そう言って立ち上がり、ロイは子供の様に地団駄を踏んだ。
「大きな声出さないで、う、うあーん!」更に大きな声で泣き喚くイライザ。
そんな二人の間を割って入り、フローラがローラの元に跪いた。
白銀の髪をさらさらと踊らせ、所々が土埃に汚れながらも凛然とした横顔を見せるフローラに、二人は見惚れた。
「な、なんて綺麗な人。」イライザはフローラに緊張して、後退りしながら呟いた。
「はぁわ、たし、はぁロイで、す。チー!チートゆ、ゆゆうしゃで、す。」ロイはフローラに一目惚れして、上手くしゃべれなくなる口を無理やり動かし、握手の手を早々に差し出しながら話しかけた。
フローラは、二人には反応せず、ただゆっくりと、右手をローラの手に重ねた。
「ローラ様。」
ローラは顔が青白く、フローラの声にも反応しない。今にも消え入りそう、ふとそんな言葉が、フローラの頭に浮かんでしまった。フローラは戒めの為に、左手で持った神野の足で自分の頬を思いっきり、どついた。
ゴッ。
フローラに握られた神野の存在に気づく、ロイとイライザ。
「えっ!何このおっさん!」イライザは叫ぶと、神野をまじまじと見てまた叫んだ。
「本当に、おっさんだ!何でこんな綺麗なお姉様が、こんなおっさん、ひきづってるの!」
ロイは、フローラの左手から神野を剥がそうと、神野の頭を引っ張る。
「君!この清廉な女性に、なんて下品な事を!足を掴ませるなんて、どういう趣味だ!」
そんな最中、フローラの左手に宿った、奇跡の一手の能力が、フローラに語りかけた。
(フローラ、お前は奇跡の一手を望んだ。そして、このおっさんが現れた。そうやな?)
「ああ、そうだ。」答えるフローラ。突然喋るフローラに驚くロイとイライザ。
(お前は、何を願って、奇跡の一手を望んだんだ?)左手は優しくフローラに語りかける。
「ローラ様を救いたい、って。」
フローラの瞳は既に涙を流していた。
「私を、存在させてくれた、ローラ様を。私を、消えゆく私を救ってくれた、私の神様なの、ローラ様は。」
フローラは、この世界に誕生した時の事、そして間もなくロボットに吸収され、自分が消えゆく瞬間を思い出していた。
「そう、気づいたら、ローラ様が『良かった、また会えて。』って、抱きついてくれて。私に、価値をくれたの、ローラ様が。私がここに存在しても良いんだ、って思える様に力をくれたの。キャラクターなんて、いくらでも作り消せるこの世界に、こんな私を、繋ぎ止めてくれたんだ。もう、神様でしかないでしょ。」
震える声で言うと、フローラは涙の止まらない目を右手の腕で擦った。
(そうか。そんな事があったんやな。)左手は気の毒そうに、トーンを下げ、ゆっくりと述べた。
フローラは目をごしごしと腕で擦り涙を拭くと、強い口調で凛と、左手に話しかける。
「だから、ローラ様を救いたい!だから、力貸せ!」
(なあ、なんでいっつもそう、偉そうなんかなぁ。普通に言えへんの?トラウマになるわぁ、はぁ。)困った声で左手は答えた。
そして、続けてフローラに伝えた。
(それに、力はもう貸してるやろ。そして、お前の願いがそれなら、
その為にやっぱり必要って事やん、このおっさんが。だから、このおっさんが出てきた訳やし。俺にも理由は分からんけど。
で、お前も違和感を感じてるやろ?今日、色々と。)
フローラは言葉に反応し、感じていた幾つかの違和感を思い返す。そして神野を見て、フローラは目を見張った。
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