第11話 能力
地底人は、フローラの声に反応し、フローラの方へと素早く向く。
ローラは、朦朧とする意識の中、左手で神野の服の襟口を掴みながら右手を伸ばして、神野の口に指を入れる。神野が科白を述べる事をなんとか阻止した。
「おふぇの、おふぇの、、お、おえぇ、、」口の中に突っ込まれたローラの指が邪魔をして、上手く科白を発する事が出来ない神野は、えずきながらリピートする。
フローラは、振り返ってきた地底人を見下ろした。そしてその、自分の背丈の半分程しかない地底人に、笑いながら言った。
「フフ、にしても不憫な体つきですね。後ろから見たら、まるでどんぐり、
前を向いたら、顔があるどんぐりですわ。」
「じゃあ、どんぐりじゃねえか!」地底人は叫ぶと、フローラの懐に狙いを定め、飛び跳ね、一瞬でフローラの前に飛来し、爪をフローラの腹にめがけて突き出した。
しかし、爪は、フローラの体に当たると跳ね返り、地底人は体ごと後ろへ押し返され、床に着地した。
「何で爪が、刺さらん!」フローラに押し当てた爪を見る地底人。
その瞬きの最中。
地底人の頭の上に、フローラの右足のかかとが振り下ろされた。
フローラは無表情で、地底人の頭に踵落としをしていた。
まるで巨大な岩が落ちてきた様な、凄まじい破壊音と地響きが、ローラの家に容赦なく響いた。地底人の体は足から、床にめり込み、頭まで床に埋まった。
「おえぇ、おえぇぇ、、」神野の口は何も動じずにまだ動いていた。
だが、ローラはフローラの一撃の振動で、とうとう意識を失った。
倒れ行くローラの体をフローラが一瞬で支え、抱え上げた。
「ローラ様、、温泉で見失ったので、家で待ち伏せしようと思っていたのに、私より早く温泉から移動して、、そしてまさか、私が待ち伏せる事を知っていて、逆に待ち伏せてくれたなんて!そして、私の為に、こんな胸熱展開を用意されていたなんて!!」
フローラは、気を失っているローラの顔を見つめながら言った。ローラの愛情、と勝手に決めつけ、感動に浸るフローラの、目から涙が流れ出た。
ローラの傷口に手を当て、止血の魔法を発動させるフローラ。
「お、俺の名前をまだ教えてなかったな!」神野は正常に科白を述べた。
そして、続けた。
「俺の名前は神野だ!良く覚えておけ!」
床に埋まっていた地底人が、神野の声に反応し、床から急いで這い出ると、叫んだ。
「お前!今何て言った!何野って言った?!」
フローラは、驚いて地底人を見入った。
普通に動いている地底人。
フローラは潰す位の力を込めていた事、そして確かな手応えを感じていた事を思い返した。先の一撃、しっかり当たっていた。しかし、あいつは動いている、目の前で。
チート勇者達の死を超え、強く成り過ぎている自分。その自分の攻撃を受けて、無事でいられる者等存在する筈無い、そう思っていた。
そして、その地底人の叫び声に反応し、ローラの意識が戻った。ローラはゆっくりと目を開ける。しかし、依然として朦朧としたままだった。
「早く、口を、塞がないと。」ローラは朧げな視界の中に、口を探し、見つけた口に手を当てようとした。神野を守る為に、と。
フローラは、ローラのその手を握った。
その後ろで、騒ぐ地底人。
「お前、お前だよ!なあ、今何て言った?!なあ!」神野に向かって、興奮して叫ぶ。しかし、神野は作者の指示通りの行動をし終えた為、また動かず、動じずだった。
「なあ!お前!なあ!お前!名前!」反応が無い神野に、執拗に問い詰める地底人。
「早く、口を。」ローラが、フローラに気づいて、張りのない声で言うと、
「そうですね、騒がしいあいつの口を閉じてやりましょう。ローラ様は、ここで休んでて下さい。」と、フローラは優しい声で答え、ベッドに近づき、ローラの体をゆっくり優しく、ベッドに置いた。
フローラは、違和感を感じていた。
それは、ローラの傷口が塞がらず、止血の魔法も効いていないという事だった。手に着いた、まだ生暖かい血に、そう感じ、そして、その証拠を見せつけてくるかの様に、ローラを寝かせたベッドのシートが血で滲んで行く。
まずい、本当に。フローラの頭にその言葉が浮かび上がると共に、フローラの体は意識で動くよりも早く、地底人へめがけて飛んでいた。
地底人が何も気づけない速度で、地底人のこめかみにフローラの膝が刺さると、地底人は吹き飛ばされ、家の壁を突き破り、更に空中を吹き飛んで行く。フローラも開いた壁から飛び出し、吹き飛び行く地底人に瞬きで追いつくと、フローラは両足で地底人を地面へ勢い良く弾く様に蹴り落とした。
地底人の体は、地面に強く打ち付けられ、地底人を中心に円状の亀裂が地面に発生した。
落下し、地面に着地したフローラは思った。
手応えはしっかり、ある、だが。。
地底人は、何も無かったかの様に、直ぐに起き上がる。
そして、言った。
「さっきから、お前は人を埋めたり、飛ばしたりするの好きなんね?痛くも痒くも無いんだが。」
お互いの攻撃が全く効かない二人。その奇妙な関係に、改めて違和感を覚えるフローラ。
そして、地底人から感じる違和感のうち、匂いの性質が違う事にも気づいた。
(この世界のもの、では無い匂い、私とも違う、匂い)そう感じ、考えたものの、
(まずい、ローラ様が、、早く治療しないと。)ローラの事がよぎり、焦るフローラ。
(ローラ様が、このままだと死んじゃう。)鼓動が早くなり、今にも泣き出しそうな顔になる。色々な打開策を考えても思いつかなかった。
(何でも良い、この手に、守る力を!)フローラはそう願い、藁にもすがる思いで、左手に集中した。
(なんでも良い!奇跡を!)そう願いながら、強く瞼を閉じた。
すると、フローラの意識の中に、語りかける何かが現れる。
(助けて欲しい?)
奇跡が起きた!フローラはそう思った。そして答えた。
(うん!欲しい!)
(まず、貴方は?とかじゃないんだね。)声の主はそう返事をして、フローラの返答を少し待っていたが、また述べた。
(僕は、君が勇者達を殺して吸収したチート能力のうちの一つだよ。その節はどうも。)
(いえ、こちらこそ。で?)フローラは答えた。
(君が手にした能力を、僕以外全て放棄して、元の勇者達に返してあげるなら、僕だけは力になってあげるよ。主から無理矢理引き離し強奪した君なんかに、力を貸してくれる能力なんかいないよ。)
(なるほど、全てか。で、君は何の能力を私に与えるのだ?)フローラは答えた。
能力は答えた。
(奇跡の一手、だよ。)
(分かった、良いだろう。しかし、
奇跡の一手、ダサいな。名前を変えよう、神の一手だ。)フローラはそう答えた。
(てか、何でずっと偉そうなん?!それに神の一手の方がどう考えてもダサいやろ!)
能力はそう言いながら、目を瞑るフローラに眩い光を見せた。
慌てて目を開くフローラ。そのフローラの体から、様々な色の光が放出され、どこかへ飛んで行く。
暫くすると、それらは収まり、フローラの体にはただ一つだけの光が残った。左手に残った、その光がフローラに言い放った。
(さあ、見せてやれ、奇跡の一手を!)
「うっざ、命令すんなし。」フローラはそう言って、光る左手を目の前で強く握った。そして、唱えた。
「我に力を!神の一手!」
(ふざけんなやー!勝手に名前変えんなー!)そう言って、左手は更に強く光を放った。
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