第4話 フローラさん。
追いかけっこをしていた小鳥達が、
ローラの家の窓枠で休憩する頃、
朝の陽が、ベッドで寝ていたローラの横顔を照らす。
服と布団をはだけさせながら、すやすやとローラは寝ていた。
その家の外では、
「ぎゃあ!」
剣で胴を真っ二つに切られたゴブリンが悲鳴をあげる。
周りのゴブリン達が威嚇を始める。
「ふん、こんな雑魚を、何であたしが相手しなきゃならないのかしら。」
長い紫色の髪を風に靡かせながら、10代半ば頃の年の少女が言い放った。
光沢銀の鎧を上半身に、白い膝上スカートを身に纏ったその少女は、一人でゴブリンと戦っていた。
ローラは、ゴブリンの叫びと人の声で目を覚ました。
「何だか騒がしいなぁ。」
ローラは窓辺から外を覗いた。
「ゴブリン、いっぱいだなぁ。」ローラは重い瞼に堪えられず、
また横になった。
外の少女はまた言い放った。
「全く、ギルドだか何だか知らないけど、」
少女は右手に構える剣に、左手をかざす。
剣は、重低音を放ち始めて振動、
青白い光を徐々に強く放つ。
やがて、その洗練された程に清白な白さと、交わる不気味な青さが周囲の者達の視界全てを飲み込んでいく。本能の危機が発動するゴブリン達。逃げようと必死なゴブリン達。
しかし、ゴブリン達の結末は既に決まっていた。
「このチート能力を持つ私に、こんなゴブリンストーリーなどいらないわ!
私は、早くドラゴンを倒したいの、よ!」
少女が、光と振動をしっかりと蓄えた剣を力強く重く鈍く、薙ぐ、一周させる。
剣筋に従って、光と重い振動が解き放たれ、広がる光と振動は当たるもの全てを一方的に破壊した。振動の後を追って、ゴブリンの、様なものが辺り一面に飛散した。
振動は、周囲の木々にも到達、破砕し、
やがてローラの家に到達、一文字に破砕した。
「ひぎぃ!」
強烈な振動がベッドと空気から発せられ、ローラは悲鳴を上げた。
その、ローラの目の前で、存在していた天井や壁は、一瞬にして砕け、消し去られた。
「あきゃあぁ!!」
その現象を見たローラは、頭を抱手で抱え込み、小さく丸くなって叫んだ。
「まあ、こんなものね。」
少女は、剣を鞘に戻し、辺りが片付いた事を確認して言った。
その少女に、後ろから声をかける人物。
「ちょいとお待ちを、お嬢さん。」
その声に素早く反応する少女。
素早く屈み前に飛び跳ねる、着地した足を軸に体を反転、声の主に向き直った。
血のボルテージを上げながら、少女はその者に叫んだ。
「だ、誰だ!」
この私の背中を取るなんて、、気配は、対峙してる今でさえ感じない、、
何者だ、こいつ!
少女はそう思いながら、早くも滲む額の汗を素早く手の甲で拭った。
「わたくし、名を、
フローラと申します。」
グレーの落ち着いた色合いの髪、綺麗なポニーテール。眼光を鋭く発して、30歳手前のまた落ち着いた表情と空気を纏う女、フローラ。
メイドドレスのスカートの裾を手で上品に軽く開かせ、足を軽く曲げると、
フローラは一礼した。
少女は、フローラの落ち着き様に、上手さを感じながらも食い下がる。
「わ、わたしに何の用だ!」
フローラは、一礼をゆっくり引き下げ、また、ゆっくりと息を吸い込み、
述べた。そして、述べながら、一歩ずつ少女に近づいていく。
「私の、ローラ様に、謝ってもらい、破壊した家も、元通りにしてもらいます。」
「私の、ローラ様?ローラという者なんて知らない!」
そう言った少女の言葉を切り裂く様に、
フローラは鋭く動く。指が空気を切り裂いて鋭く伸びる。
フローラは、方向を指さして示した。
少女はフローラを警戒しながら、その指の先を目で追った。
示された先には、家の上半分が無い、家のなれ果てがあった。
その方向から、微かに、人の泣き声がする。
フローラは、何かを思いつくと、誰にも見せずにニヤリと笑った。
(そうだ!ローラ様にまた雇ってもらえるチャンス、これはチャンスだ。
怯えるローラ様の前に、颯爽と現れる私。身を挺して、ローラ様を守る私。
傷だらけで瀕死になりながらも、敵を追い返す私。
ローラ様は、私を抱き上げ、そして私はローラ様の膝枕の上へ。
私は囁く、ローラ様を守れて良かった、もっと近くに居たかったです、と。
ローラ様は泣きながら、これからも居てね、と。
尊。大尊。OK,ヒアウィゴー。)
フローラは少女に伝える。
「お前が壊した家は、私が直してやろう。その代わり、お前にはやって貰いたい
事がある。」
少女は、自分のせいで人に損害を与えてしまった事実を受け止め、
フローラに申し訳無さと、自分の無礼を恥ながら答えた。
「まずは、すみませんでした。私のせいで、あなたのお知り合いの方のお家が。
お知り合いの方は、気配からは、お怪我も無く、ご無事な様ですが。」
フローラは、反応した。
「お、お尻、お尻で、会う?」フローラはぶつぶつと一人で言った。
フローラは、下品な言葉に反応してしまう。
フローラは、ローラとお尻を勝手に想像する。
そして叫ぶ。
「尊!」
少女は、突然叫ぶフローラに反応した。
「ど、どうしました?」
「君も、良い趣味してるじゃないか。君、名前は?」
フローラの問いに、
「私は、パインと申します。良い趣味、ですか?」と、パインは名乗った。
「だっさ。」
「え、何かおっしゃいましたか?」
「それよりパインさん、やって貰いたい事の件だが。」
「はい、フローラさん。」
「私が合図したら、あの家を襲うふりをして、
家の前に立ち塞がる私を本気で斬って下さい。」
「え、斬る?!
そんな事出来ません!」
「大丈夫、私強いから。パインさんの斬撃も残念ながら効かないわ。」
そう言い張るフローラに、パインは苛つきを覚え、自身の素性を説明した。
「申し訳ございませんが、こう見えても私は、
ある作者様に書いてもらった主人公でして、
【令嬢最強チート】としてやらせて貰ってます。ですので、
モブとは違うんです。はっきり言って、フローラさんがいくら強くても、
私の斬撃をくらったら無事では済まないですよ。残念ながら!」
腰に手を当てて胸を張り、語尾を強めたパイン。
それに対して、フローラはゆっくりと目を軽く押さえながら、静かに答えた。
「258人。」
「何ですか?258人て。」
「258人、それはね、
私が昨夜倒した、
チート主人公、悪役令嬢主人公達の数だよ!
おかげで、私のレベルメーターはカンストしてもなお加算される膨大な経験値によって、泣きながら吹き飛んでいったよ!」
フローラは昨夜の、【作者様の知らない酒場の亭】の一件を回想しながら語った。
「な、、プレイヤーキラーだと?!」パインは動揺を隠せなかった。
「おかげで、あらゆるチート能力と悪役令嬢を吸収してしまったんだよ!私は!
鬼、そう、私は赤鬼だ!」そう言うと、フローラは高笑いする。
「‥‥おの、れ!」パインは、フローラの纏う異物の違和感に納得しながらも、
プレイヤーキルを許せないという正義感に、感情を突き動かされていた。
「だから、本気でかかってきなさい。令嬢何とかチートの、パインさん。」
パインは、渾身の一撃を放ってやる、と覚悟を決めて、
そして、
必ずフローラをこの手で葬ると決心した。
その頃ローラは、恐怖と泣き疲れで、またうとうととしていた。
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