絵理が一緒に帰ってきた男

「愛花おはよ」

「あ、おはよ。…どうしたの?!目腫れてる…。パブロくん?」

「…うん。」

絵理は愛花になるべく心配かけないようにと、少し笑った。

「あのね…。昨日、私早退したでしょ?」

「うん」

「家に帰ってパブロと一緒にいてね…」

「うん」

「キス…したの」

「えぇー?!すごいじゃん!」

「ううん。パブロはね、熱のせいだから、忘れてって…」

「なに…それ…。ウソ…。ひどい。」

チャイムが鳴った。

「あっ!絵理、この話はまた後で…」


絵理は休み時間に、愛花に話を聞いてもらって少しは気が楽になった…。

「今日、ついててあげたいけど部活あって…。大丈夫?絵理」

「うん。大丈夫」

と笑って見せた。



一人の帰り道は思ったより、寂しかった。


「あのさ…」

後ろから突然話しかけられた。

びっくりして振り返ると同じクラスの小林君だった。

小林君はイケメンで、サッカー部で、ついでに頭も良くてクラスの人気者だった。

絵理は小林君とたいして話したこともなかったので、びっくりした。

「あのさ」

「?」

「谷川って、小さい弟いる?」

「?いるよ。幼稚園の年中…」

「あ!やっぱり!小林春乃って知らない?俺の妹で同じ幼稚園だと思うんだけど…」

「え?そうなの?!にじ組?」

「そう!にじ組!」

意外な共通点があって少し楽しくなった。


「うちの妹が、たかし君と仲良いみたいでさぁ。たかし君と一緒に遊びたいって、ずっとうるさくて。…どうかな?」

絵理は、自分はそれどころじゃないので、断りたかったが、せっかく声かけてくれたし、孝司も喜ぶかなと思い、了承した。


一方、パブロはまだ家で寝込んでいた。

(絵理、昨日すごい泣いてたな…。学校、大丈夫だったかな…)

パブロは、布団の中でそんなことをずっと考えながら過ごしていた。


玄関から、音がした。

(絵理かも…!)

パブロは重い体を引きずって、玄関まで行った。

そこにいたのは、絵理と知らない男だった。


「わざわざ送ってくれてありがとう」

絵理は小林君に微笑んだ。

「ううん。じゃ、あとで春乃連れて行くね。よろしくお願いします。」

「フフッ、こちらこそ」

絵理は、面倒くさいと思っていたが、ちょっと気が晴れた。

「バイバイ」

手を振って家に入ろうとした時、パブロに会った。

「おかえり」

「ただいま…」

そう言うと、急いで家の中に入ろうとした。その時、パブロに腕をつかまれた。

「あいつ誰?」

「…同じクラスの人だけど…」

「なんで一緒に帰ってきたの?付き合ってるの?」

パブロは矢継ぎ早に質問してきた。

「付き合ってないよ。でもさ、パブロに関係ないじゃん…」


「ん…そうだよな…。ごめん」

パブロはそう言って手を離した。

絵理は、また涙が出そうになったので、今度こそ急いで部屋に入った。


パブロはまた少し寝て、起きた。

「37.2°か。だいぶ良くなってきたな。」

(それにしても、あの男…。イライラする)


ピンポーン

(誰だろ?あ、絵理が玄関に行ってるみたいだな。…なんか話してる?!なんか家に上ってる?愛花ちゃんかな…。やべっ、殴られるかも…)


「谷川、急にゴメンなー」

小林君は玄関で靴を脱ぎながら言った。

「ううん。春乃ちゃん、こんにちは」

「こんにちは!」

「ちゃんとしてるねー」

「兄の教育がいいから」

「アハハッ。孝司が誰と仲がいいとか知らなかったから、誘ってくれて良かった」

「そっか。良かった」

「春乃ちゃんと遊べて、喜ぶよ」

「良かったー。谷川に話しかけるの迷ってたんだよね。谷川もいきなり話かけられてびっくりだよね」

「うん」

「ハハッ。でも良かったぁ」


(?…男、の声…?!)

パブロは急いで、声のする方に行った。

そこにいたのは、絵理と一緒に帰ってきた男だった。

小林君がパブロに気づくと、

「あ、すいません。お邪魔してます」

と挨拶をした。

「あ、あのね、小林君の妹が、孝司と仲良しらしくて。一緒に遊ぼうって…」

「ふーん。…」

絵理とパブロは少し黙った。

「ごゆっくり!」

怒った顔でパブロは自分の部屋に入ってしまった。

絵理は泣きそうだったが、グッとこらえた。

「谷川のお兄さん?」

「ううん。訳あって同居してる人」

「あぁー。なるほど…。」

「なるほど?」

「あー、2人、付き合ったりしてる?」

「ハハッ。ないない。…。振られたから…」

「そうなの?!」

「振られたてです」

絵理はなるべく笑ってみた。

「うーん。でもすごい敵意を感じた。

ふーん。絶対好きだよね、谷川の事…」

「…違うみたい。泣いちゃうから、もうこの話やめていい?」

「あぁ、ごめん…。…うーん…」

小林君は全然納得いってないようだった。


パブロは部屋で、ハラワタが煮えくり返っていた。

「あんの、ヤロー。一緒に帰ってくるわ、家まで押しかけてくるわ。腹立つー。何なんだ。あいつー」

パブロは心には留めておけず、つい声に出てしまっていた。

拳で枕をたたく。

「あー腹立つぅ。俺が言える立場じゃないとしても腹立つー!」

声を押し殺して、さんざん文句を言った。



「孝司と春乃ちゃん、楽しそうで良かった」

孝司と春乃を子供部屋に残して、絵理と小林君はリビングでお茶を飲んでいた。

「うん。あのさ…谷川ー。」

「うん?」

「うーん。やっぱり納得いかない。あの人」

「え?もういいよ〜。泣くよ?私」

「そりゃ困るけどー。もう一回ちゃんと聞いてみたら?」

「いや、ムリムリっ。怖い怖い」

「うーん。俺から聞く?」

「いやームリムリ!」

「谷川と関係なく、俺が勝手に聞いたって言うていで」

「ダメダメ」

「でもさー」

(しつこいな…おい)

「ねぇ…」

「…ハァ…、もう勝手にしていいよ。でも、私の意向ではないということははっきり言ってね…」

「OK」

小林君の顔は、ルンルンと輝いていた。

(あ、こういう人か…)






※別作『腹黒男子は遠恋中の彼女に片思い』に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る