未来予測

 平日のお昼時。街の中華料理屋。破格の日替わりランチが有名で、今日は青椒肉絲定食。オフィス街の近くにあるということもあり、この時間はいつも昼休憩中のサラリーマンで賑わう。二人掛けのテーブルが5つ、6人掛けのカウンター。老夫婦とその娘(娘といっても歳は49歳だが)の三人で切り盛りしている。

 店には小さなテレビがあり、客はみな、そちらに視線を奪われている。奪われているというよりかは、そこぐらいしか、視線を置く場所がないのだ。テレビではお昼の情報バラエティが放送されている。疑似生放送感を売りにした番組で、平日の帯番組を堂々とやり遂げている。


 先輩「脚本家って占い師だよな」

 後輩「…はい?」

 先輩「脚本家って占い師だよな!」

 後輩「聞こえてないから「…はい?」じゃないんですよ」

 先輩「あぁ聞こえてた?じゃ聞き返さないでよ」

 後輩「わかりました。じゃ、聞き返しません」

 先輩「…それは違うじゃない」

 後輩「なんなんですか、難しい人だな」

 先輩「いやせっかく思いついたんだから、深堀りしてよ~」

 後輩「わかりやすいかまってちゃんじゃないですか…じゃどういう意味ですか?脚本家は占い師って」

 先輩「二つの職業に共通しているところがある」

 後輩「どこですか?」

 先輩「少しも考えもしないで上司に聞くなんて、甘っちょろいなお前は」

 後輩「深堀ってくれって言ったの先輩じゃないですか」

 先輩「それとこれとはまた別だよ」

 後輩「それでなんなんですか?共通しているところって」

 先輩「二つともな、未来を読んでいるんだよ」

 後輩「未来を読む?…確かに占い師はなんとなくわかりますけど、脚本家は…」

 先輩「まぁ確かに、占い師は想像通り、未来予知できるだろ?」

 後輩「そうですね、まぁ占い師にもよりますけど」

 先輩「脚本家も未来予知してるんだよ、テレビ番組の台本書く人とかまさに」

 後輩「どういうことですか?」

 先輩「だって、番組の脚本家って、出演者が誰で、放送される時間が何時で、ってのを考えた上で、その番組の進行を頭で想像して書くわけだろ?」

 後輩「まぁそうでしょうね、あんまり詳しくないですけど」

 先輩「でさ、その番組の中でさ、おそらくこのタレントさんはこんなコメントをするから、MCの人にツッコんでもらって盛り上げてもらおうとかを考えてるわけじゃん」

 後輩「そうですね…あ」

 先輩「気づいたか?」

 後輩「言いたいことがなんとなくわかってきました、だから脚本k」

 先輩「脚本家はそのタレントさんの性格を判断して加味しつつ、コメントや行動を予想して台本を書いているってことじゃん」

 後輩「言わせてくださいよ、考えてわかったんだから」

 先輩「ダメだ、上司からおいしいところ取り上げちゃ」

 後輩「会社の業務じゃないんですから」

 先輩「でも俺の言いたいことわかってくれた?」

 後輩「はい、なんとなく、でも脚本家イコール占い師とはならないんじゃないですか?」

 先輩「なんでよ」

 後輩「だって、脚本家は未来を見てたとしても、その筋書き通りの動きをタレントや芸人に指示するじゃないですか、支配しているんですよ未来を」

 先輩「…んで?」

 後輩「占い師は、支配まではしないでしょ?それであの人たちは統計学でそういう結果を出してるんだし」

 先輩「お前現実主義だな、彼女に嫌われるぞ」

 後輩「そんなことないですよ、彼女とは仲良くしてます!…そんなことじゃなくて」

 先輩「おい、俺は一回もイコールなんて言ってないぞ?脚本家って占い師みたいだな、ってだけで、その逆の、占い師は脚本家みたいだな、ってことにはならないぞ」

 後輩「今更細かいこと気にしないでくださいよ、先輩こそ奥さんと仲悪いんじゃないですか?」

 先輩「なんだお前、占い師のつもりか?」

 後輩「じゃ図星なんですね」

 先輩「あっ、、、」

 後輩「ご馳走様でした!」

 先輩「お、おごってやるから、未来を見るのはやめてくれ」

 後輩「家で相当やらかしたなこの人」

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