バッテリーは漫才師

 12月。県立高校の野球グラウンド。監督が不在のためだろうか、部員たちはどこかのびのびと練習しているように見える。ブルペンでは、エースとキャッチャーがピッチング練習をしている。そしてその裏で、フェンスを挟んで部員二人がボールを磨いている。パチーン!とキャッチャーミットが鳴ったとき、片方の部員が、思いついたような顔をして、もう片方に話しかける。


 部員A「ピッチャーとキャッチャーってさ、漫才師で言ったらボケとツッコミだよな」

 部員B「急にどうしたん」

 部員A「いや、こいつらの練習見ててさ、なんとなく思ったんよね」

 部員B「集中しろよお前、M-1の影響受けすぎだろ」

 部員A「お前はさ、ピッチャーとキャッチャーで漫才するなら、どっちがボケてどっちがツッコみやると思う?」

 部員B「うちのエースに漫才させるなよ」

 部員A「そうじゃねぇよ、こいつらじゃなくて、ポジション的に、だよ」

 部員B「えぇ、、、ん~、ピッチャーがツッコミかなぁ。球投げてるのがツッコミみたいだし」

 部員A「マジ?俺逆だわ。ピッチャーはボケだろ」

 部員B「こんなところでライバル意識持つなよ」

 部員A「いやだってさ、キャッチャーはピッチャーのボールを受ける人だろ?ボケがないとツッコミは成立しないじゃん。ピッチングという漫才は、ピッチャーが投げて、初めて成立する。ほら、やっぱりピッチャーがボケだって」

 部員B「ピッチングを漫才にたとえるなよ」

 部員A「我ながらなかなかの文才発揮したな」

 部員B「お前、現代文の期末テスト欠点じゃねぇかよ。・・・じゃキャッチャーがツッコミってこと?」

 部員A「そう、ピッチャーが投げたボール、まぁここでいうボケを、キャッチャーがいい音鳴らして捕る。パチーン!って。それがピッチャーのボールを活かすんだから、キャッチャーは、ボケを活かすツッコミだろ」

 部員B「なに熱くなってんだよ」

 部員A「野球部員が野球を熱く語ることはおかしくないだろ」

 部員B「まぁそうだけどさ、、、」

 部員A「お前は何でピッチャーがツッコミやと思ったん?」

 部員B「説明しなきゃだめ?」

 部員A「当たり前だろ、俺だけ熱くなってるの恥ずかしいじゃん」

 部員B「恥ずかしい自覚あんのかよ」

 部員A「まぁいいじゃないの」

 部員B「んぇぇ、、まぁ暇だしな、、、ピッチャーが投げる球ってキャッチャーが決めるだろ?それってボケが考えて、ツッコミにツッコませるって構図と似てない?」

 部員A「・・・もうちょい教えてみてよ」

 部員B「なんだその言い方。いや、そのまんまよ、んで大概さ、漫才ってボケの人が作ってること多いじゃん。俺聞いたことあるもん、ボケの人はボケもツッコミも両方できるけど、ツッコミの人はボケれないんだって」

 部員A「それはそいつの技量によるだろ」

 部員B「まぁな?でもさ、キャッチャーがピッチングという漫才を、ハンドサインで組み立ててるわけじゃない。そのサインに、ピッチャーが持ってる変化球でそれに的確に応える。球種はツッコミのパターンだよ。ほら、キャッチャーがボケだろ。」

 部員A「・・・悔しいが一理あるな。」

 部員B「お前、詰めが甘いな、お前の野球と一緒だな」

 部員A「俺のプレースタイル関係ねぇだろ今」

 部員B「うるせぇざまぁみやがれ」

 部員A「うわ!監督だ、職員会議から帰ってきやがった、集合だって」

 部員B「続きはまた明日な」

 部員A「この論争にハマってんじゃねぇかよ」


 彼らは次の日以降、この話を一切しなくなった。ボールはひとケースを残して綺麗に磨かれていた。


 ボールとボール磨きの布って、漫才やるとどっちがどっちだろう。

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