影武者

 新宿にある喫茶店。レトロな雰囲気でゆったりくつろげる喫茶店。24時間営業のため、一つのオーダーで3時間まで利用できるというシステムを採用している。喫煙もできる。私は吸わない。吸わないがたばこの匂いは嫌いじゃない。

 斜め前に座った男性。長い髪を後ろにまとめ結い、薄黒メタル眼鏡をかけた、太り気味の鼻マスクの男性。服は真っ黒。上も下も。真っ黒。ここでは影武者としよう。勝手に。なんかそれっぽいから。

 ホールのお姉さんが影武者にオーダーを取りにいった。そのときの一コマ。


 お姉さん「ご注文はお決まりですか?」

 影武者「あの、ここって3時間制ですよね?」

 お姉さん「えぇ、左様でございます。」

 影武者「あの、今二つ頼んで僕だけ6時間制にできませんかねぇ?」

 お姉さん「・・・はい?」

 影武者「だから、今二つ頼んで6時間続けて使うことできませんかぁ?」

 お姉さん「あっ、、承知しました。ではご注文を、、、」

 影武者「アイスコーヒー二つで」

 お姉さん「かしこまりました。お持ちするのは3時間で一杯ずつお持ちしましょうか?それとm」

 影武者「今二つください。」(食い気味)

 お姉さん「かしこまりました。では失礼致します。」


 影武者は何事もなかったかのようにケータイにイヤフォンを挿し、画面を横にして動画を見始める。お姉さんは不思議そうにオーダーのメモを眺めながら厨房に入っていく。


 ははーん、6時間ぶっ通しでなきゃいけない理由があるんだな。しかも店員さんに言わなきゃいけないぐらいの。相当の理由があるんだ。そうに違いない。


 ・・・なにもねぇじゃねえか。ずっとスマホで動画見てるな。

 おっ、タブレットを取り出した。ああ今からか、大事な用事。早とちりして申し訳なかったな・・・やっぱ動画見てるじゃねぇかよ。なんで機種変更したんだ。機種変更はケータイショップだけでやれよ。


 私は何食わぬ顔でブレンドコーヒーを啜る。「ズズズッ」という音に上記の想いを載せながら。コーヒーはすっかり冷めていた。


あ、もうすぐ3時間。出なきゃ。また来るか。

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