第2話

 吐き気がする。


 どうやって家に帰ったのか、覚えていなかった。気が付いたら、カーテンの隙間から白い朝日が差し込んでいて、鳥の鳴き声が耳にこだましていた。


「……」


 俺は目を閉じ、ぎゅっと布団を頭の上まで引き上げる。


 何をしても、陽菜のこと、そして昨日見たあの光景が頭から離れなかった。


 陽菜、陽菜、陽菜陽菜陽菜陽菜


 どうして なんで 嘘だと言ってくれ


 自分が何をしたのか思いあたらないということが、一番の苦痛だった。何をしたんだよ、俺が。おまえに何をしたっていうんだよ――。


 怒りを通り越して、黒く危険な快感が腹の中でとろとろと燃えている。


 陽菜。陽菜。陽菜。陽菜。陽菜。陽菜。陽菜。陽菜。


 彼女の白い頬。ほっそりとした手。けれど意外と低い声。そして、俺を見つめる大きな黒い瞳。さらさらとした髪。花のような笑顔。


 ああ、駄目だ。


 こんな時にまで、彼女をいとおしく思う気持ちが溢れてとまらない。バカなのか。目を覚ませ。おまえは捨てられたんだ。


 学校に行きたくなかった。


 けれど、陽菜の前に顔を出さないということは、負けを認めるということだ。陽菜とキスしていた男にこれ以上、一ミリたりとも優越感を与えたくなかった。


 吐き気がする。気分が悪い。食欲がない。寝不足だ。


 それでも俺は、鉛のように重い身体を引きずって階段を下りて行った。

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