第4話 世界

大学卒業後、新卒で入った職場に馴染めず

1年で退社、後に自殺。

気がつけばこの世界にいた。



「当時のそのままの状態で、今私が存在しているんです」









短いながらも重かった。

1分にも満たない言葉の羅列が、少しだけ

彼女の哀しみを帯びていた。

初対面の他人に話す事では無い。


異常な状況で、

フィクション以外で聞かない事を聴いてしまった。




「時間も日付もわからなくて、ここに来て何日経っているかはわからないです。少なくとも一週間は経ってますね…」





「話し辛い話だったと思う…ごめん。」


僕は彼女に対し、慰めの言葉も出なかった。



「いえいえ、私から話したので」






「実は…僕も恐らく死んでいるんだと思う

考え無い様にしていたけど、花澤さんの話を聴いて、ちょっと覚悟は出来たかな…」



簡単に経緯を話し、やはり現状

僕達は異世界転生をしていると結論づけた。



「災難でしたね…池松さん…」


「いや、人生に絶望しか無かったから…」















ふふっと二人で笑いが起こり、

少しだけ、価値観が近いのかと勘違いが出来た。


少しだけ。

少しだけ安心する。




「ちなみに、池松さんは魔法使えます?」



「えっやっぱりファンタジーな世界観なの?」



「蛮族っぽい輩に襲われそうになった時、ヤバいって思ったら使えました。相手を八つ裂きに出来ましたよ」



八つ裂きという単語を、

あっけらかんと話す彼女に少しだけときめく。



「どうすれば使える?」




「うーん…感覚です。例えば…」


「ほら」



彼女が指差した杉の様な木が一瞬にして

輪切りになった。


エフェクト的な物も見えず


ッパ


と、輪切りになるものだから現実感が無かった。





僕もやってみようではないか。


「………ッ!」


隣の木に念じてみる。








何も起こらなかった。







「まぁ…適性とかあるかもですし…とりあえず、練習しましょ!」






少しだけ、元いた世界の

やるせなさテイストを思い出し

少しだけ、

少しだけ僕は落ち込む。

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