第2話「2人目」


「吉田リオン20歳…死因は飛び降り、自殺かい?」

「女神様とはいえ状況が飲み込めてない人間に対して偉く失礼だなアンタ」


目を覚ました私が最初に目にしたのは、真っ白な空間と私の正面に立つ見たことないレベルの美人な女の人だった。


彼女は女神らしく、死んだ私を転生させる役割を担っている、とのことだが。


「それに、自殺じゃない、自殺しようとした女の子を止めようとしたら巻き込まれて落ちたんだ」


私は、自宅マンションの屋上で飛び降り自殺をしようとした少女を助けようとした結果、突然手すりが壊れ、少女と一緒に落下した。


地面に当たる瞬間と、落下中、笑う少女の姿を覚えている。

…何故か、少女の顔だけは浮かんで来ないが。


「…またか」

「また?」

「さっきも来たのさ、君と同じく、存在したい者を助けようとして死んだ人間が」


女神曰く。

最近こう言った不審死が相次いでいるそうだ。

確かに生前、ニュースでは事故死の話をよく聞いた気がする。


「んで?私はどうすればいいんだよ?天国か?地獄か?」

「…死んだってのに、随分余裕だねぇ」


余裕。と言われればそうかもしれないが、別段理由はない。

私の両親は早くに他界しているし、私自身結婚もしていなければ彼氏もいない。

死んで後悔する理由がないのだ。


「さっぱりした性格だね、貴女に迫られる選択肢は2つだよ。

1つは、一から現世に産まれ直す方法。

2つは、異世界に転生する方法、後者の場合は貴女が死ぬ直前の存在がそのまま転生した姿になる」


…なるほど、記憶を無くして生まれ直すか記憶と体を持ったまま生まれ直すか、か。

そんなもん後者に決まってる。


「今更学校やらなんやらめんどくさい」

「…ほんとに、さっぱりした性格だね」


ほっとけ。

割り切って生きないと損しかないのはこの20年で学習したんだ。

なら私は私の生きたいよう生きる、ただそれだけだ。


「いいだろう、なら転生特典を2つ、選びな、大抵の無茶には応えてあげるよ」


ラノベじゃあるまいし、まさか自分が異世界転生物語を描くことになるなんてね。


しかし、特典、それも2つ、か。


「私が望むのは剣才と炎熱系スキルの無制限だ」


異世界転生、聞けば魔王云々の世界との事だ。

魔王討伐にはさほど興味はないが、かと言って簡単に死にたくは無い。

それなりに剣が使えれば生きていけるだろう。

炎熱系スキルも同じだ、魔法にせよ技術にせよ、火は使えるに越したことはない。

生活においても必需だし。


「あはは、現実的でいいね、気に入ったよ」


なぜか女神からは絶賛された。

何言ってんだコイツ。


「それとこれは、私からのプレゼントだ」


そう言って女神様に渡されたのは、袋。

腰に下げるタイプの麻袋だった。


「それは"ストレージボックス"と言ってね、所持アイテムが無制限になる、持っておいて損は無いから使いな」


なるほど、それは便利がいい、薪や食糧を持ち歩くのにはもってこいだな。

これに関しては女神に感謝するとしよう。


しかし、この女神は何故ここまでしてくれるんだ?


「簡単さ、貴女の死は本来訪れるはずのない想定外だからさ」


なるほど、よく言えば弔い。

悪く言えば同情、という訳だ。


生き死にの話で同情など、文字通り情けない話だが、貰えるものは貰っておくとしよう。


「心の準備は済んだかい?」

「残念ながら、準備する心がないんだ、転生させるなら早くしてくれ」

「…わかった」


女神がそう返事をすると、私の足元に大きな魔法陣が浮かび上がる。


「次の世界で貴女がどう生きようが、当然貴女の勝手だ、だけど、願わくば、魔王を討伐する勇者が貴女であることを願うよ」

「なにそれ、誰にでも言ってんの?」

「ははっ、仕事だからね」

「女神は正直者なんだな、気が向いたら魔王討伐してやるわ」


お互いそう笑いながら、私は意識の底に誘われる。

次に目が覚めたとき、私の眼前に広がるのは多分、異世界の景色になる。


私は内心ワクワクしながら、目を閉じ、意識を委ねた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

拝啓父さん、異世界転生したけどパーティ全員転生者なので心置きなく無双できてます。 @vivion5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ