拝啓父さん、異世界転生したけどパーティ全員転生者なので心置きなく無双できてます。

@vivion5

第1話 「1人目」


「…知らない天井だ」


俺は、ゲーマーやオタクならば誰もが言いたいであろうセリフを、現実で言うことに成功した。まる。


いや待て、はて、さて、はてさて、ここはどこだ?

辺りを見渡すも真っ白い空間。

上も、下も、前も後ろも右も左も曖昧なこの場所で、何故目が覚める?


俺はどうなった?何があった?


寝ぼけながらにボケた後、覚醒した俺は若干パニックになりながら、今の状況を考える。


ーーーああ。

死んだのか、俺。


思い出した。

学校の帰り、俺は車に轢かれそうになった女の子を助ける為に、その子を突き飛ばして、車に撥ねられたのだ。


「てことは、死後の世界ってやつか、ここは」

「ぴんぽーん」


俺が、声に出して呟いたと同時にそんな声が聞こえ、目の前に凄まじいレベルの美女が現れた。


え、やば、何この人美人過ぎじゃね?


「君結構素直だねぇ」


美人さんはクスクスと口に手を当てて笑いながらそう言う。

その姿がまた可愛らしい。


…って。

あれ?俺口に出したっけ?


「出てないよ、出てないけどわかるんだ、何せ私は、女神様…だからね」


そう言うと美人さんは、気を取り直したかのように真顔になった。


女神様、ねぇ。


俺は輪廻転生を信じるほど信仰深くはないけれど、だけど目の前にいるのが女神様、ということは、俺は今から死後の選択を迫られる、ということか?


天国か、地獄か。


しかし、あれ?

それならば出てくるのは閻魔大王では?

これではまるで、異世界転生モノと同じではないか。


「まるで、ではなく、そのまんま、異世界転生だよ、私は君に、異世界転生させてあげようという交渉をしに来たのさ」


…うそん。

信仰云々以前にまさかのラノベパターンかよ。


「藤川カオル、齢17歳、本来貴方は今日この時間、死ぬ筈ではなかったんだ。

貴方の死は、我々天界にとっても不慮の死なのさ。」


ふぅん?

人を庇って死ぬ、てのが不慮?

よくある話じゃなくて?


「先程から人を庇って等と言っているけれど、なんの話かな?」

「え?だってほら、俺女の子が車に轢かれそうになったのを庇って死んだんだぞ?」


俺が今の状況を説明すると、女神様は少し怪訝そうな顔を見せた。

はて、どうしたのだろうか。


「…よく聞くんだ、そんな女の子は、どこにもいないんだ。

我々の報告では、貴方が突然車の前に飛び出した、という情報で伝わっている。」


…は?

いやいや、え?

そんなはずはない、俺は確かに女の子を…。


俺は事故当時の状況を思い出す。


女の子を突き飛ばして車に轢かれて、薄れ行く意識の中笑う少女…。


あれ?


''笑う少女"?


あの少女の顔…どんなだった?


「…近頃、こう言った不審死が多くてね。

原因は我々も調査中なのさ。」


つまり、だ。

天界の神様達ですら予想できない何かが起きている、と。


「その通りだよ。

そのため、天国にも地獄にも、死者達の行き場所がないのさ。」


だから異世界に転生させようとしている、と。


「そういうことになるね」


コホン、と。

咳払い1つした女神様は俺を真剣な眼差しで見つめ始めた。


「ようこそ、死後の世界へ、私は転生を司る女神、レティスという。

藤川カオル、残念ではあるけれど、貴方は現世での生命を今しがた終えた。

つまり…死んだんだ。」


その言葉と同時に、俺は膝から崩れ落ちた。


助けたはずの少女は存在しない?

俺の行動は無意味だったと?

俺は…意味無く死んだってことなのか?


そんな思いが、頭の中を駆け巡る。


「…貴方には 2つの選択肢があるよ。

1つは一から人生をやり直し、元の世界に生まれ直す方法。

もう1つは、人格、体、精神、知識をそのままに別の世界に転生する方法だ。」


天国か地獄かではなく。

輪廻か転生か、か。

ますます、流行りの転生モノ臭がするな。


「…父さんは」

「…貴方のお父上は、今悲しみに打ちひしがれているね」

「だろうな…男手1つでここまで育ててくれたんだから…」


心配なのは、今後の父さんのことだ。

自殺なんて馬鹿な真似、してくれなければいいが。


「それは安心しなよ、貴方のお父上の死期はまだまだ先、余程のことがない限りは、問題ないと、約束しようじゃないか」


そっか、なら安心だ。

起きたことを悔やんでも仕方ない。


「女神様、俺、異世界転生するよ」

「承った。それじゃ、好きな特典を2つ、自由に選んでくれ。

所謂転生特典というやつだね」


女神様は微笑みながら、俺に転生特典の説明を始めた。


拝啓父さん、先立つ不幸をお許しください。


貴方の息子は異世界転生します。

願わくば、異世界で無双出来ますように。

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