第23話 止まない雨。青い空。そして、満月。
雨は、気が付いた時にはやんでいた。それでも空は、曇ったまま……。
私は、まるで一時停止のようにかたまってしまった状況を、シエルと共に見守っていた。
いや、見守る事しか、できなかった。
鎧としてこいつについている間私達は自分で動いたりすることはできない。この異様な空気を私達は黙ってみることしかできない。
『何かは……起きているはず』
『ええ。問題はそれが何か……。ということよ』
「ッ!」
『ちょ!? 大丈夫!?』
『傷は見えない。ただダメージを受けている……? いや、ダメージを受けている……と勘違いしている?』
『どういう事……?』
『……この前、テレビで見た催眠……みたいな』
『ああいうことがこいつの体に起きてるってこと? なら……』
『今、紅葉は冷めない悪夢の中にいる』
もしも、これが本当だとするならば、彼の体がダメージを受けることはないだろう。ただ、心の方はどうだろうか……。悪夢の中で、彼の心が壊れてしまったら……。
『外から何とかするしかないわね……』
でもどうやって……。その方法は出てこない。何か、この状況を打ち破って、こいつを元に戻して、ミストをぶっ飛ばして……。一緒に帰るための、何か……。
『ない……。わけじゃ、ない。と思う……』
『方法が……。ってこと?』
『うん……。この前テレビで見たでしょ……?』
『外から何らかしらの刺激を加えるってやつ? それもとびっきり新鮮で、目を覚ますほどすさまじいやつ。でもそんなのここで突然やれって言われても……』
『一つある。ルナなら……できる奴……。紅葉に……を、……して』
『ハァ!? アンタ正気!?』
シエルの言葉に、私は耳を疑って訪ね返した。廃遊園地のはるか上空に、私の声が響き渡った。
シエルは答えない、だけど、神妙な面持ちでうなずいている……ように見えた。
『やるしかない……ってことかしら』
『……うん』
思案を巡らせる、湧き上がってきたのは、ここに来てからの、たった数日間の記憶……。その数日間は、余りにもまばゆくて、あまりにも楽しくって……。
あまりに……。余りにも……。
そう、帰るんだ。皆で、三人で一緒に、帰るんだ。
『行くわよ』
『うん……!』
体が自由になる、体が宙に投げ出されて、私達は落下していく。すさまじい速さで、地面に向かって落ちていく。私の飛行能力がなくなったからだ。
『早く!』
シエルが叫んだ、落ちていく中、私はアイツの体を抱き寄せて兜を上にあげた。顔を露出させて、私は……。その顔に……。
みるみるうちに体が加速していく、現実離れした一秒のはざま、私はたっぷりと迷ってから、紅葉の唇にそっと……。
「はぁ……はぁ……」
体は、もはやまともに動かなかった。気が付けば鎧は消え失せて、俺は一人で立っていた。孤独。俺は今本当の孤独だ……。そして、押しつぶされそうな孤独の中で俺は怪物と相対している……。
「君は、もう一人だ……。それだというのに、なぜ折れない?」
ミストが両手を広げて尋ねてきた。一人……。何のなぜ折れないのか。そう問われて、俺は思わず笑ってしまった。
そうだった。聞かれて始めて、あることを思い出した……。
「……。じゃ、ねぇからだ……」
「ん?」
「一人じゃないからだ……! 俺には、仲間がいる。一人なのは、お前だ」
「……」
「俺は負けねぇぞ」
「あぁ、そうかい……なら……」
そこで一度言葉を区切り、腕を掲げた奴の目には、数えきれないほどの怒りと、僅かな悲しみがにじんでいるように見えてーー。
「壊れろ」
「ッ!!!! アグゥエェッ!!!!!」
その刹那、自分でも理解できない音が喉の奥から零れ落ちた、両膝と手を地面について、まるであえぐように口で情けない呼吸を繰り返す。喉の奥からすべての内臓が飛び出しそうなほどの『錯覚』。でもその錯覚は……俺の心を……。
「おぁえて……。だまるガァッ……!」
「……。壊れろ! 壊れろ! 壊れろ!壊れろ!壊れろ! 壊れろ壊れろッ」
何度も、無慈悲な命令が重ねられた、その度に内臓がうねるように痛み、体全体が溶けていくような悲鳴を上げる。
「はぁ……はぁ……ぉぇ……ッ」
こちらを見下ろすミストをにらみ上げて、ニヤリと笑ってから口を動かす。
この程度で、俺を壊せると思うなよ
その瞬間、ミストの表情がさらに変化した。ソレは、完全なる、無の表情。そして、アイツは手を合わせると……
「蜃気」
その刹那、俺の口の中に、何かが滑り込んできた。温かい、いや、むしろ熱いその何かは……俺の口を割って奥に進む。今まで受けたことのない刺激。これはミストによるものではない。外からの……これは、きっと、ルナの……!
崩壊、周りの景色が割れていく。まるでガラスをたたき割るように崩れ落ち、消えていく、一瞬、或いは永遠に近い時間、目を閉じて目を開けた。
目に映る、美しい金髪の女性。落下していくのが感覚で分かった。
刹那的なキス。何をすべきか悟った俺は、すぐさまルナの胸をもんだ。互いの存在
を確かめ合うような時間は一瞬で過ぎ去り、俺たちの体は光に包まれた。
「行くぞ……!」
『勿論!』
『私も……!』
腕をかざす。
金と銀の光が腕の先に集まった。
曇天に包まれた暗い世界に青空の元のような強い光が、月明かりのような優しい光が、同時に顕現する。
「ブッッッッッッッ……飛べェッ!!!!!!」
金銀の光が巨大な一線となって放たれた。虎の、或いは龍の咆哮のような異音が轟く。
わずかに遅れて意識を取り戻したミストと目が合った……気がした。
「このッ!!!!」
ミストが叫ぶ。その声は、光に塗りつぶされて消えていった。
おっぱい変身バトル~別にあんたのために胸もませるんじゃないんだからね~ 彩川 彩菓 @psyca_0314
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