第22話 幻影世界
世界が軋む。世界がゆがむ。ノイズのように視界を遮る雨が、歪んだ……気がした。
「巡れ」
「ッ!」
視界が反転した。空は大地に、大地は空に……自分がどこにいるのかまるで分らない。
「吹き飛べ」
ミストの掌が腹部に添えられる。それだけ、たったそれだけの挙動で重たい衝撃が襲い掛かってくる。
「ガハッ!」
「落ちろ」
今度は背中に手が添えられた。その言葉と共に体が地面に向かって落ちていく。
翼を大きく広げ振動させても無意味、気が付けば俺は曇天を見上げていた。
「ぐ……何が……」
「のぼれ」
「ッ!?」
刹那。体が一気に持ち上がる。押しつぶすような圧力が体に襲い掛かって来る。
「引き裂かれよ」
「ガァァァァァァァッ!?!?!」
体が痛い。引き裂くような激痛とえぐられるような苦痛。まともに声さえも出せない。か細く浅い呼吸を何度も繰り返して何とか空気を取り込む。何が……何が起きている……。
『……。』
「?」
何かが、何かが聞こえる。真正面にはニタニタと笑うミストが見える。舞台は小奇麗な遊園地。何かが……。可笑しい。
「……!」
「ッ! あぁぁああああああ!!!」
雄たけびを上げて自分の体から見えない鎖を振りほどくように暴れる。これは、これは…………!
「幻覚さ」
「!」
「ただしちゃちな幻や虚像じゃない。僕の生み出した錯覚は肉体にダメージを与える。そして……!」
「ッ」
「巡れ」
視界が歪む。何が何だか再びわからなくなってくる。気分が悪い。吐き気が体を襲う。
「この能力から逃れることは不可能……! 君はもう既に、脳を僕の霧に浸食されているのさ……!」
「ぐぅ……!?」
「燃えろ」
「ぅぐああああアァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
体をマグマのような何かが包む。熱い、熱い熱い熱い……熱いッ! 気が狂いそうだ。解っている……これは幻覚。これは幻影、幻で、偽物で、わかっているのに熱い。体が、まともに動かない。体が、燃えていく。
「偽物だとわかっていても、逃れられるものではないさ……フフフ、愚かだね」
「固まれ」
「ゥ……」
マグマが一気に冷えて固まった。体が岩石に押しつぶされるように縛られる。動けない。何もできない……。骨がつぶされそうだ。呼吸が出来ない。
「できる事ならば君から敗北を宣言してほしいな。幻覚中はこっちも無防備になっちゃうんだ。君の心が折れてくれなきゃ月と空を取りに行けないだろう?」
「あぁ……」
「ん?」
「だろうな……。ここまでできるなら、最初からすればいい……。でもしなかった。お前にもデメリットがあるんだろうな……」
「……」
「俺がくたばらない限りは、二人には手を出せない。ここは俺とお前だけの世界。二人がさっきから一切しゃべら無いのがその証拠だ……」
だから、そう、だから……俺はハッキリと告げてやった……。
「俺は、アイツらが何とかしてくれると信じてる。だから、俺は絶対に折れないぞ……ッ!」
「ハァ……。いいだろう。ねじりつぶしてやんよ」
ミストの余裕顔が果てしない怒りに歪んだ。
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