第18話 圧倒
「ついに来たか、青空と月……その二つがついに僕のもとに」
「それはない。俺は、今ここにシエルを取り戻しに来たんだからな」
「フフフッ! アハハ! 面白いこと言うね? 誰が誰を取り戻すだって? まさか、君が青空を……じゃないよね?」
あたりの空気が一気に下がった気がした。まるで首筋にナイフを突き付けられているような緊張感。脳裏にちらつく敗北……。
「っ!」
『なんて気迫……こうしているだけでやっと……っ』
「アハハ。無理はない君らと僕とじゃ格が違う」
その刹那純白の霧が部屋を満たした。手を掲げたミストが笑う。つまりこれは、ミストの攻撃、或いは、攻撃の準備。
「行くぞ!」
目的はシエルの奪還。ならば直接まともに相手をする必要はない。
「……」
ミストが、にやりと笑った、その瞬間、体が床にたたきつけられる。
「ぐぅっ!」
「フフ。学びなよ。いくら月が優秀でも中身が今の君じゃあ猫に小判ってやつだ」
頭上でミストが指を鳴らした、体が自動で持ち上がり、強く締め付けられる。
『はぁ……はぁ……なに、こいつ……っ!』
「ぅ、ぐ……前と同じだ……なんだ、こいつの能力は……!?」
「はぁ。やめた方がいいと思うけど? 無駄なあがき」
「ッ!? グゥッ!? アァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!」
肩に凄まじい激痛が走る。力が入らない、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……。激痛を逃すために叫び、もがく。体がが解放されて床に落ちる、膝をついて何とか息を吸い込んで、吐き出す。
『――!!!』
ルナが何かを叫んでいるが、その内容はうまく聞き取れなかった。気が付けば、立ち上がったミストが目の前にいる。
「フフ。アハハ……随分と間抜けだなァ? まさか、ちょっとした覚悟や気の持ちようで僕にかなうとでも? だとしたら考えなしにも程があるってものだ。その程度でどうにかなるものな訳がないだろ? さぁ、これ以上痛い思いをしたくなかったら月を置いてここをされ」
「……」
「と、痛みで声を上げることもできないって? じゃあ待ってあげるよ。僕はこれでも優しい方だからね」
ミストは両手を広げて笑う。数秒間の沈黙、それだけあれば十分だ。
『「ゴールドキャノンッ!!!!!」』
顔を上げて叫ぶ。兜の先端から黄金の光が放たれた。起立する光の柱がミストの体
をまっすぐ上に吹き飛ばす。白い霧が霧散して、あたりの光景がクリアになる。
「シエル! ぐぅっ!」
『まずいわね。立てる?』
「問題ない……咥えてでも連れ帰る……ッ!」
『シエル!ほら! 早く起きなさい……ッ!』
「……ぁ……ルナ? 紅葉も……。なんで?」
シエルが、ゆっくりと目を開けた。良かった、すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られるが腕をまともに動かすことすら叶わない。
「説明は後だ。もう大丈夫……本当にすまなかった。さぁ、一緒に帰ろう」
「そうさせるとでも思ったか?」
空から、声が降ってくる。見上げれば、穴の開いた天井から一つの影が見下ろしてきていた。
「あの程度でこの僕を倒せるとでも? 」
ミストがにやりと笑って手を掲げた。それと同時に純白の霧があたりを満たしていく。
「っ!」
体が持ち上がりミストの目の前に移動した。それに驚く間もなく腹部に重たい激痛が走る。投げ飛ばされるように天井を転がってそのまま道に堕ちた俺はもうまともに動こうとしない体に鞭を打って何とか起き上がる。
ミストが屋根の上から降りてくる、まるで靄の鎧をまとっているようで、その姿がろくに見えない。
「まぁ、今の一撃は中々重たかったけどね。それでも、君は僕には勝てない」
「ハァァァッ!」
動け。体は、足はまだ動く。左足を軸に、右足を大きく回して頭に向かってけりを入れる。当たった。
確かな手ごたえ。それを確認するためにミストに目を向ける。
「なるほどね君はつまりその程度で僕を倒せたと思った訳だ」
体が締め付けられて持ち上がる。ゆっくりと、四肢が開かれていく。視界がチカチカするほどの痛み、耐えきれない。
「ッ!!」
体が大きくはじけるような感覚。
「今のままの君じゃあ。僕の足元にすら届かない」
その言葉を最後に、俺の意識は闇へと落ちていった。
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