第11話 しばし休戦


「はぁぁ……なんか疲れたぜ……マジで。これから毎日こんな感じなのかぁ……?」

「さすがにそれはないと思いたいけど……あの、ミストとかいうのを倒すまではそうかも知れない」

「だとしたらしんどすぎるわね」


 家に帰ってきたのは、正午を回って少ししてからであった。たった数時間外出していただけだというのに、何だか一気に疲れてしまった。


「はぁ、じゃああれだな、ミストをボコすべきだな」

「とは言っても、どこにいるかもわからないのよ?」

「調査が、必要……」

「調査ってったって手がかりもないのよ? 私たちは記憶喪失だし……」

「手詰まり。状態」

「はぁ! やめだやめだ! なんかこういう話してると下腹のあたりが痛くなってくる……。俺、シャワー浴びてきていいか?」

「……それ、私も行きたい」

「あ、じゃあ先に行っていいぜ。ルナはどうする?」

「私も汗流したいかも」

「先に行く。というのはよくわからない。三人一緒に入ればいい」

「はぁ!?」

「いやいや。ダメだろそれはさすがに!」

「なんで? 問題ないと思う」

「問題大有りよ! そんなのだめに決まってるでしょ!」

「なんで?」

「なんでって……ソレは、えっと……。ちょっと、説明してあげなさいよ!」

「えぇ、俺……? ん、そうだなぁ……ん……男女が……」

「私達はこことは違う世界から来た。雌雄の概念は当てにならない」

「いや、だが……ん」


 言いかけて、俺は反論するための言葉を持たないことに気が付いた。うなりながらルナの方を見るが、同じ様にうなるだけで何も言えない。


「じゃあ一緒に入るってことで良い?」


 その問いかけを、俺は、俺達は断ることができなかった。



 先に風呂場に入った俺は椅子の上に座って一息をついた。見慣れた空間は、全く違うもののように感じた。


「オッケー。オーケー。落ち着け。俺、まぁ、まずは落ち着け」

 とは、言った物の、落ち着けるはずもない。こんな経験は初めてなのだから。

「はいるね」

「ッ! おぉ、おう!」


 風呂場のガラス扉が開いて、入ってくる。小柄な体の、銀髪の少女……。その姿は、当然ながら糸の一本さえも身にまとっていなくって、俺にはあまりに刺激が強かった。

 落ち着け、あまり見るな……。


「ね、ねぇ……やっぱりやめない……?」

「嫌ならルナは後でいい……」

「ぐぅ……」


 ひたと、もう一人が入ってくる。豊満な体。美しい金髪。


「ぁ……」

「じ、じろじろ見ないでよッ!」


 ルナが怒鳴るように叫ぶ。俺は「すみませんでした!」と謝りながら視線を逸らす。これは完全に俺が悪い。こうして、狭い部屋に美少女二人、童貞一人の何とも言えない空間が完成した。


「お、おれは取り敢えず浴槽入ってるから……お前らシャワー浴びとけよ! うんッ!」


 二人に背を向けて俺は壁を見続ける。

 足に力をグゥっと込めて一気に抜く。男のある場所を鎮めるための裏技だ。

 自動で調整されている浴槽は、程よく温かい。こんな時間からお風呂だなんて贅沢だな。などと逃避的なことを考える。


「隣はいるね……」

「おぉぅ!? じゃないが!? 何やってんだ!?」

「入浴?」

「ソレは見ればわかる!」

 一瞬視界の端に見えたシエルは不思議そうな顔をしていた。もうなんだ。何なんだこの子……。

「ルナも入りなよ」

「お断りよッ!」

「逃げるんだ」

「……」

「……ルナさん? 水かさが増えてるんですけど? まさか入ってくるつもりじゃ……ッ!」


 流石に、三人で入るとなると狭い。それはつまり、密着を余儀なくされることを意味していて……。


「あぁ……」


 のぼせているのか、興奮かもわからない。

 男の夢のような状況は、正に夢のようにあっという間に過ぎていった。

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