第10話 シエル・バトルモード
「……私の、胸に触って」
薄い胸を張って、無表情にこちらを見上げるシエルの姿にはほのかな犯罪のにおいがする。
「えぇ!? マジで……シエルのぉ……?」
「私の時とリアクション違くない!?」
「余所見はさせぬぞッ!」
巨大な角をこちらに向けて、ウシ型の怪物が迫ってくる。
「早くッ!」
「……ごめん!」
巨大な角が俺の体に触れる直前、俺は小さな胸に触れた。
確かに小さいが、ないわけではない。膨らみかけたものが、こちらに言い知れぬ感触を与える。その次の瞬間、俺の体は光に包まれる。
「もらった!」
「っ!」
体が地面を転がる。傷は……ない。
自分の体に目をやった。銀色の鎧が視界に入る。ルナよりも装飾が少なく、細く見える。
鎧に刻まれた模様はトラを思わせる。手を開き、握る。
「銀色のトラ……ってところか?」
『紅葉、私の鎧はルナとは少し勝手が違う。気を付けて』
「ふん……銀色の鎧か。情報とは少々異なるが構わぬ! 行くぞオラァァァァア!!!」
戦車を思わせる巨体がこちらに向かって迫ってくる。真正面から受け止める。ことはあえて避ける。俺は真上に向かって飛びあがった。
「ッ!! うぉ!? 何がどうなってるんだ!?」
『私はスピード自慢。紅葉用、と、いうより人が操作するように調整するのはちょっと時間がかかった』
「なるほどな!」
体が軽い。まるで、自分の体が自分の体ではないようだ。
「チッ! 厄介そうだな!」
こちらを見上げるネオの頭に空中からかかとを落とした。そのままその頭を踏み台に、俺は後ろに回り込む。そして、がら空きの背中に思いっきりこぶしを叩き込む。
「……」
「その程度かぁ?」
「マジ!?」
『もっと連続で攻撃しなきゃダメ』
「そういうことは早くいえよな!」
敵がこぶしを振り上げるのをしっかり視認してから俺は素早く飛びのいた。そんな瞬間離脱が可能になったのは敵の動きがのろいせいばかりではあるまい。
『忘れてた……』
「忘れてたなら仕方ないな!」
地面をけって勢いよく駆け出す。振り下ろされた腕の隙間を潜り抜けて先ずは腹部に一撃を。当然、鉄塊のような肉体はびくりともしない。二発目、結果がその程度で変わるはずもない。
三発、四発、次々に攻撃を叩き込み俺は一度飛びのいた。今度は背中。
自分でも驚くほどのスピードで攻撃を叩き込む。
「ぐぅおぉぉ……ちょこまかと……!」
「おい! このままじゃ決め手に欠けるぞ!」
『……あ、武器。ある』
「それを早くいってくれ!」
『忘れてた。腕のパーツに触れてほしい』
「右か?」
『左。紅葉はエッチ』
「マジで何なんだよお前ら!」
いったいこの状態のとき、どこがどうなっているというのか。少し怖い気がするので深くは聞かない。俺は言われるがまま、左の腕に触れた。
あまりにまばゆい光があたりを満たした。
「こ、これは……」
気が付けば両手の先に剣のような機関が装着されていた。それ自体が光っているかのように思えるほどに美しい刃には、どうやらちゃんと実態があるらしい。
『敵は混乱中、今のうちに切り刻む』
「おい! 爆発は……!」
『それができないほど素早く切り刻むの』
「めちゃくちゃだな!」
「ぬぉ! 矮小な餓鬼どもが!」
ネオが叫び体をフラフラさせながらこちらをにらんできた。とどめを刺すならばいまだ。俺は剣を構えて駆け出すとそのふところに潜り込む、巨大な体を何度も切り刻んだ。
「がはっ! ぐぅぅぅぅううううおおおおおおおおお!!!!」
『後ろ!』
「オッケー!」
シエルの声に従い、その体に切り傷を刻み込んでいく。もっと、もっと。もっと。
「ハァァァッ!!!」
剣を思いっきり振り下ろす。ネオの掲げた腕が、振り下ろされることはなかった。
巨大な体が、チリとなって崩れていく。爆発さえもせず、チリになった敵は灰になって消えていく。
「……これが」
『私達の力』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます