第4話 グラウト
「服が欲しいわ」
ルナは腕を組んでそう言った。
「服なら今まさに紅葉からもらったのを着用していると思う」
「これ、胸のあたりがきついのよね……」
「あぁ……」
確かにそれはそうだろう。あの胸に俺のジャージは……少し……きついだろう。
「だったら裸で過ごせば?」
ここで爆弾を放り込んできたのはシエルだった。マジで何なんだこの子は。
「はぁ!? そんなこと出来る訳ないでしょ。そういうあんたは出来るの?」
「……」
「おい! 無言で服を脱ごうとするなよ!」
俺が慌てて止めるとシエルはきょとんとした顔でこちらを見つめてきた。どうにも不思議な子だ。いや、それでは済まない。変な子だ。
「まぁ、確かにいつまでもその格好でいさせるわけにもいかないな……」
俺のジャージに、何処で拾ってきたのかもわからないボロボロの布。この格好は普通によろしくない。
「ん、よし、じゃあ行くか!」
「どこへ行くの?」
「あぁ、この近くのショッピングモールだ!」
夏休み前日のショッピングモールにはいつもより人が多く感じた。そんな人の多い場所を、俺は両手に花。とも呼べる状態で歩いていた。
「……なんか凄い視線集めてるんだけど」
「そうだね。なんでだろうね」
「シエルがそんな格好してるからでしょ?」
「ルナのおっぱいがやたら大きいせい」
「……」
シエルにそう指摘されるとルナは顔を真っ赤にして自分の胸を両腕で覆った。
一応羞恥心のような物はあるのだろうルナに関してはだが。
そんなルナは突然人目が気になりだしたように体を小さく丸めていた。
「ちょ! 何見てるのよ!」
「見てねぇよ」
ルナにギャーギャーと指摘されて俺は顔をそらした。そしてその状況下、俺は逃避的にあることを考えていた。
「結局、服どうするかな……」
と、いう部分であった。というのも、生まれてこの方仲のいい異性などできたことがなかったわけで、異性に合う服。というのも全く分からなかった。
「それって私たちの方で選んで紅葉に買ってもらうのではダメなの?」
「それも考えたんだがお前ら二人で行動できるのか? 迷わないか?」
「あら、そうなるとずっとついてくるつもりなの? 下着売り場にも? 最悪なんだけど」
「お前らが迷子にならないように気にかけてやってるんだろうが……」
俺は、はぁ、とため息をついてから視線を上げて、立ち止まった。すると、人の行き来する中に、立ち止まっている人物が見えた。
紫色の髪、紫色のジャージを身にまとった、おとなしそうな顔立ちの少年。
「……?」
「見つけましたよ。裏切り者のお二方」
「ッ!」
「貴方は、えっと……。誰だっけ」
「クッ! 私の名前はグラウト! グラウトだ!」
「ぶっちゃけ私達、記憶がはっきりしてないのよね。最悪なことに」
「ふん、だったら思い出させてあげますよ!」
そう言って男は両腕を天高く掲げた。その刹那、グラウトと名乗った男の体は禍々しい光に包まれた。突如起きた現象に、辺りは混乱に包まれて。
「ハァッ!!!」
光が晴れた瞬間、そこに現れた怪物を見て、混乱は絶望に代わり、叫びがあたりに響き渡った。
「あ! さっきの化け物!」
「キフフフフ……最適化に少々時間がかかってしまいましたがそこはさすがの私……。数時間で仕上げてやりました……よッ!」
そう言い切るとともに、グラウトは丸太のように巨大な腕を振り下ろした、ショッピングモールを満たしていた人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ、俺たちは咄嗟に後ろに飛びのいたためけが人はなかった。
が、巨大な腕は、床に大きなへこみとひび割れを生み出していた。アレを受ければ、ただではすむまい。俺は冷や汗をぬぐいながら自分の半歩後ろの二人の様子をうかがった。
「シエル……アンタは?」
「……。ココは……」
「最悪……でも、仕方ないわね……アンタ」
ルナは一瞬顔を伏せながらも俺の間となりに来て、ジャージのジッパーを一気に下した。
「私の胸をもみなさい!」
「ぅ! やっぱりそれやらなきゃダメか!?」
「させませんよ!」
「いいから早く!」
一度目は、結果的には事故だった。自分の意志でとなると、やはりそれに触れるのはためらわれる。
「あぁ! もう! こうなりゃやけくそだ!!」
巨大な腕が振り下ろされるのが見えた。俺はそれと同時に目を閉じて、まっすぐ腕を突き出した。
まるで餅のように柔らかい脂肪が、俺の指を包みながらも跳ね返してくる。不思議な質感だった。
温かいそれの余韻を味わう間もなく、手のひらにある二つの餅はほどけるように消えていった。
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