第3話 始まり
初めてのキスは……なんの味もしなかった。
レモンの味? まさか。何かの味を感じる間もないほどに、衝撃的な展開、まさに青天の霹靂だ。
「な……ぁ……何してるのよアンタッ!」
「何って、人間が相手の体に唇で触れて行為を伝える行為、接吻、即ちキスだけど?」
「そういうことを聞いてるんじゃないわよ!」
「……!? い、いまの……ぁ? え?」
そっと、自分の唇に触れる。ほのかに残った自分のものではない熱の感覚。温かいような、くすぐったいような。どんな感覚なのか、もはや自分でもわからない。ただ、間違いないのは。
彼女いない歴イコール年齢のこの俺が、こんな美女にキスされた。という一点であった。
「これから彼とは長い関係になる。そのためにまずは関係を構築すべき。その構築の上で最も大切なのは敵意がないことを伝えること。或いは好意があることを伝えるべき」
「……。いや、でもこれは……」
「私は自分のやり方で彼と関係を構築する。ルナはルナのやり方で好きにすればいい。だからこの話はおしまい」
「ぐぅ……」
ルナ、それが金髪の彼女の名前なのだろう。うめく彼女をしり目に、銀髪の少女はこちらに向かって手を差し出した。
「私はシエル。お願い、私たちと一緒に戦って」
「ぁ、どうも……しんじょう」
「紅葉。貴方のデータは確認できただから名前は大丈夫。貴方のことは身長体重、スリーサイズから性癖まで理解している」
「ちょっと! アンタどこまで!」
「ルナは黙ってて」
ぴしゃりと言い切るシエルの言葉に、ルナはそのまま呻きながらも口を閉ざした。先程まで得体の知れなかった二人の関係性が徐々に見えてきた。
それに伴って、俺の心には、一つの安堵のような感情が芽生えてきた。この二人は、得体の知れない怪物などでは消してないのだと。
だが。
「まぁ、色々言いたいことはあるんだけど、先ずは説明してくんね? あの化け物のこととか、君らのこととか……あと君は服、着てもらえるかな?」
「先ずは、何から話すべき?」
かくして、美少女二人、プラス俺と言う、何とも夢のような状況での話し合いは俺の自宅で行われることとなった。
まぁ、その美女二人……の内訳は肩や布をまとっただけの不思議ちゃんでもう片方は俺のジャージを無理やり身に着けた人物なのだが……。
だが、まぁ、顔自体は二人とも疑いようのないほどの美女だ。それは間違いない。
「何から……ってもなぁ……」
さて、そんなくだらない思考は端に置き、俺は首をひねっていた。
何かご質問ありませんか? と、来られてもこちらは何も知らないのだから困るといったものだ。
「アンタ馬鹿ね。何も知らないやつに何が知りたいですか? って聞いても困るにきまってるじゃない」
「ルナにしては正しい意見だと思う。でもじゃあどうするの?」
「先ずは自己紹介から始めるべきだと思うわ」
「それはさっきした」
「あれだと説明不足もいいところよ。何もわからないのとほとんど一緒。そうだったわよね?」
「あぁ、まぁ、実際な……」
「というわけで。私はルナ。で。このちっこいのはシエル。私達は。こことは違う世界から来た生体兵器ってところかしら」
「……」
別の世界、生体兵器。その単語一つ一つは目が飛び出そうになるほどに衝撃的なものであったが、納得はできた。
あんな体験の直後だからであろうか……。
「生体兵器ネオ……。私達はそう呼ばれていたらしいわ」
「……。ん?」
らしい、そんな言葉が、ふと耳に残った。まるで、情報を客観的に知ったような言い草だ。
「ネオは私達の元いた世界、で破壊の限りを尽くしてた。そんなネオの次世代機として思索的に作られたのが私達……。だったけど、私達は組織を離反した……。って、事になってる」
「なぁ、さっきから気になってたんだけど、その言い方、当事者間が全くないな。お前たちの話なんだろ?」
おれがそう尋ねると、二人は突然黙り込んでしまった。
「な、なんでだまるんだ? なぁ」
「記憶がないの」
「は? え? ごめん、いまなんて?」
「記憶がほとんどないのよ。私達。覚えてるのはさっき語ったことくらい、それと、私たちが装備するタイプのネオで、装備するのにはある程度適性がいるってことくらいかしら」
「私たちを装備するには胸に触れる必要がある。そこにスイッチがあるから」
と、シエルが付け足すように語ったが、結局のところ詳しいことは何もわからない。でも、分かったことはある。
「要はアイツらこの世界にも侵略に来てるっぽい感じだろ?」
「えぇ」
「そういうこと」
「だったらアイツら放置してたらこの世界やばいんだろう?」
「うん」
「そうね」
「じゃあアイツら、ブッ倒せばいいんだろ。分かった。俺、アイツらと戦うよ」
「アンタ覚悟決まりすぎでしょ。普通じゃないわね」
「私が言うのもなんだけど。私達は怪しいと思う」
「まぁ、最初はそう思ったけど、少なくとも悪い奴だとは思えないんだよな……二人とも。あぁ。出来る事なら離反した理由くらいは知っておきたいけどな」
「……」
「それも思い出せない。と」
「……けど、覚えてることは、あるわ……」
「ルナ」
「……いつか、話さなきゃいけないことでしょだったら、早い方がいい。それが、どれだけ最悪なことでもね……」
「それは確かに、そうかも知れない。だけど……あれは」
二人の体が、震えていることに気が付いた。
「あぁ、いや、今は聞くのやめとく」
「え?」
「でも……」
「無理に聞こうとは思わねぇよ、女の子が震えてるわけだしな」
昔、どこかの漫画だったかアニメだったかで見た妙に気取ったきざったらしい口調。
「……幾ら紅葉でも、それはない」
無表情だったシエルが、ここに来て、初めて笑った。
「ふふ、そうねアンタには似合わないわ」
「何も二人してそう言わなくとも……」
気が付くと、俺たち三人は笑っていた。夏休みに入ったばかりのこの日。今までモブのような人生を送っていた俺の非日常な日常が、かくして、始まった……。
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