第48話 初めての街

「ほわぁ……」


目の前に広がる街並みを見て、俺は開いた口が塞がらない。

朝からずっと走り続け、ここに着いたのは太陽が地平線の彼方へ沈む時間。

薄紫に包まれたレンガ造りの街並みは、街の歩道のあちこちに設置してあるカラフルなランプで色鮮やかに照らし出されていた。


「すっ……げぇ綺麗……」


しばらく立ち尽くし、街並みに見とれていると、あとを着いてきていない俺に気づいたロバートが呼びに来た。


「ほらハヤテ、止まってないで行くよ。……ここ、綺麗だろ?ランプ作りが主力の街なんだ」

「魔法で灯りが付けられるのに、ランプ作りが盛んなのか?」

「だって魔法じゃここまでカラフルに出来ないでしょ?みんな綺麗なものを見たいんだよ。キラキラしてると気分が上がるしね」

「なるほどなー。確かにテンション上がるわ」


街中は緊急時や許可を得てないと馬やドラコに乗れないそうなので、俺たちは歩いて街を突っ切る。

その間、俺はひたすら周りの景色に圧倒されていた。


「もうすぐ一旦街を抜けるぞ。そしたら街を繋ぐ街道に出るからそこから馬に乗って、次の街が王宮のある首都だ。あと少し、頑張れ」


ケイレブの言う通り、街の外れまで来ると少し舗装された道が一本伸びていた。

目をこらすと地平線にまた灯りが見える。そこが目的地の王宮のある首都なんだろうな。


「ドラコ、あとちょっとだから頑張れ。よろしくな」


朝から走りっぱなしのドラコを労うと、「任せろ」と言う感じに角を擦り寄せる。

頭を撫で、背中に乗せてもらうと、ドラコは先程まで走っていたとは思えない颯爽とした走りで駆け出した。


ここの道は王宮に近いだけあってかなりちゃんと舗装されていて、今までの中で一番走りやすい。

あっという間に今まで見てきた中で一番高い建物の前にたどり着く。

その横に建つ二階建ての小屋をケイレブは指差した。


「おつかれ。今日はもう時間が遅くてみんなに挨拶できないから、一旦見張り小屋ここで休んで。それで明日の朝になったら王宮内にある騎士団の所に行こう」

「疲れた……それじゃ僕は先に休ませてもらうね……おやすみ」


歩くのもままならないほど疲れているヘンリー先生はヨロヨロしながらひとつの扉を開けると、扉を閉めるのも忘れ中のベッドへ倒れ込んで寝てしまった。


「ハヤテ、一階のあともう一部屋は君とドラコで使ってくれていいよ。俺とロバートは二階うえの部屋を使うから」

「ありがとうございます」

「じゃあまた明日」

「ハヤテ、おやすみー」

「おやすみ」


ケイレブとロバートを二階へ見送ると、玄関で待っていたドラコに声をかける。


「よし、じゃあドラコ。一旦キレイにしようか」


一度ドラコを外へ連れ出し、待てをさせる。

俺は、自分のシャワー用蓮もどきネルムボをカバンから取り出し、ドラコの身体に着いた泥を落とした。

異世界ここのタライを使った湯浴みはどうしても慣れなくて、俺は自分専用のシャワーヘッドを蓮もどきネルムボで作った。

茎に水の魔石と火の魔石を埋め込み、そこを握って魔力を流すことで適温のお湯がシャワーとなって出る仕組みだ。

もちろん俺の魔力が低いからできることであって、そこそこ魔力がある人がこれを使うと熱湯が出て大惨事になるけど。


ドラコの身体全体にお湯をかけたら、実は正体が掃除屋ラートゥスだった石鹸で全身を洗う。

一応、騎士団の偉い人とかいたらマズイからな、綺麗にしておかないと。

一通りドラコを綺麗にして、風魔法で乾かしてやると、部屋の中へ招き入れる。

そのまま、リビングで待たせ俺もサッと備え付けの湯浴み室で泥を落とし、ドラコを連れて部屋へと向かう。

そしてベッドへダイブした。


「うわ、ふかふか!」


さすが王宮の設備なだけあってベッドはふわふわのふかふかだった。

ドラコも足元のマットの上に横たわる。


「ドラコお疲れ様。この後お前をどうするのか明日多分決まるだろうから、明日は大人しくしてろよ?乗せてくれてありがとな、おやすみ」


──クオォ……


返事なのかなんなのか、小さく鳴き声を発すると、やはり疲れていたのか目を閉じドラコは眠ってしまったようだ。

その小さな寝息をBGMに、俺も眠りの世界へ旅だった。


翌日。

いよいよ騎士団の人たちと顔合わせをするということで、俺は朝から少し緊張していた。

挨拶のため、朝の鍛錬をしているという訓練場へ向かう。

ヘンリー先生は、ヘンリー先生の師匠せんせいと会うための手続きをしなければならないとのことで、起きてすぐ出かけてしまった。


先を歩くケイレブのあとを俺とロバート、そしてドラコでついていく。


教育が行き届いているのかドラコを見て悲鳴をあげる団員はいなかったけど、明らかに「なんだあれ」という視線は嫌という程もらってしまった……


やっぱ目立つよなぁ、森林竜シルワドラコ……

まだ森林竜シルワドラコということに気づかれていないのか、それほど騒ぎにはなっていないけど、バレたら大変そうだな……

そこも相談しておかないと、騎士団の人に迷惑かけちゃうな。


そんなことを考えながら歩くこと十数分。

訓練場の扉の前でケイレブは立ち止まった。


「この扉の中が訓練場になってるんだ。今日は騎士団長いるかわからないけど、とりあえず騎士団のみんなには挨拶しておいた方がいいからね。もし騎士団長がいなかったらドラコの件はもう少し見送りだな」


そう言って重そうな扉を開ける。


──うおお!!

──ヤァァァ!!!

ガンガンガン!!!


その瞬間、中から耳が張り裂けそうなほどの掛け声と、練習用の剣と剣を打ち鳴らす音が響き渡った。

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