第47話 検問所

ドラコに乗ってひた走ることおよそ半日。

思ったより乗り心地が良くて快適だったのには驚いた。

しかも他の馬の動きを見ているのか、ドラコが自分で判断して走ってくれるので、俺はほぼ乗ってるだけ。

自動運転、快適すぎる……!


「もうそろそろ人里に出るぞ。まぁ街中は抜けないつもりだからまだスピードは出して走れるけど、もう少し首都に近づいたら速度が出せなくなるから気をつけてくれ」

「了解」

「僕は早く首都部に入りたいよ……」

「頑張れヘンリーせんせー!」


軽く言葉を交わしつつ、更に半日走り、俺たちは城壁に囲まれた街へ到着した。


「検問通るから、一旦馬から降りてもらえるか?」


ケイレブに言われ、俺たちは一度止まる。

俺もドラコから降りて背中を伸ばした。


「うわー、背中バキバキ……」


軽くストレッチをしていると、ドラコが足に擦り寄ってくる。


「なんだ?喉乾いたのか?」


少しくらいなら出せるかな?

両手を皿にして、そこに水を出してやる。俺の魔力だけだとコップ一杯くらいが限界なんだけどな。

それをぴちゃぴちゃ舐め始めたので、やっぱり喉が乾いてたんだろうな。


「ハヤテ、水飲み終わったらドラコ連れてこっち来てくれ」

「あ、今行きます」


水を飲み満足気なドラコを連れて、ケイレブの待つ検問所の入口へ向かう。


「全員揃ったか。では身分証か守護団の魔石を見せてもらおう」


門番らしき人が俺たちを一人一人調べていく。

その時、検問所から出て来てこちらへ向かってきていた別の門番がドラコを見て叫んだ。


「うわ!魔物?!」

「落ち着け!」


スパン!


叫んだ瞬間、ケイレブをチェックしていた門番が叫んだ門番を叩く。


「こちらは緑珠守護団の方たちだ。森を抜ける途中、この森林竜シルワドラコを保護したらしい。お前、魔物を見たくらいでそんなに取り乱してたら門番やっていけないぞ」

「すいませんっした」


謝りつつ、こちらと距離を開けているのでもしかしたら魔物に慣れてないのかもしれない。


「王都のこの辺りは魔物、あまり見ないんですか?」


気になったので、叩いた方の門番に訊ねてみた。


「あ、変なとこ見せてすまない。うーん、そうだな。この城壁の周りだとそんなに見かけないな。少し離れた森や近くの村なんかだとたまに出るらしいが。こいつはまだ他の場所に配属になったことがなくてな、魔物に慣れてないんだ」


そう言って先程頭を叩かれていた門番の頭を鷲掴みにして、ペこっと頭を下げさせる。


「こいつはジョン、俺はケインだ。よろしくな」

「あ、俺は緑珠守護団のハヤテです。こいつはドラコ」


頭を撫でながらドラコの紹介もしておく。

ジョン、と呼ばれた人はケインさんから解放され別の人たちのチェックをしに行った。それを見送り、ケインさんが再度俺たちに向き直る。


「よろしく。早速だがハヤテ、身分証か緑珠の欠片を見せてもらえるか?」

「あ、はい」


俺は首にかけていたチョーカーを外し、ケインさんに渡す。

ケインさんはそれを水晶玉のようなものに近づけた。


「お?なんだ、外に出るのは初めてか?」

「え、そうです」


なんで知ってるんだろう?そう思ったが、どうやら緑珠の欠片の魔力登録をしていなかったからわかったらしい。

そういえば欠片を貰った時に隊長がそんなこと言ってたな。


「なら、今から魔力登録するから、これを持ってくれ」


そう言ってさっきの水晶玉を渡され、緑珠の欠片も返される。


「じゃあ登録するぞ。欠片と水晶玉を近づけて、魔力を欠片を通して水晶玉に流してくれ」


こうかな?

俺は水晶玉と欠片をくっつけると、緑珠の欠片に魔力を込めた時のように、自分、欠片、水晶玉とぐるぐる回るよう魔力を流した。

しばらくしてケインさんに、もういいぞ、と止められる。


「はいお疲れ。これで登録は完了だ」

「へぇ、これ欠片を水晶玉に近づけるとどうなるんですか?」

「これか?企業秘密、と言いたいとこだが自分の情報くらいは見せてやる。こんな感じだな」


俺は欠片を水晶玉に近づけると、水晶玉の中を見せてもらった。


名前:ハヤテ

所属:緑珠守護団

加護:森の加護


……シンプルだな?そして、森の加護ってなんなんだ?


「あの、この森の加護って、なんですか?」

「え?」


ケインさんも、水晶玉を覗き込む。

そして、はっ、と目を見開いた。


「この水晶玉はな、基本情報しか見れねぇんだ。名前と所属の団。それが出れば、登録魔力と一致とみなして関所を通過できる。だから俺が見ても名前と所属しか見えない」

「あー、じゃあこの加護って本人しか見えない情報だったんですねー」


やべ、自分で個人情報漏らしちまった。

やばかったかな?


「これ、言っちゃまずかったですかね?」


冷や汗を流しつつ、ケインさんに聞いてみる。


「そうだな、そこはあまり言わねぇ方がいい。もしその話題が出たら信頼出来るやつにだけ本当のこと言えよ?」

「わ……わかりました……」

「よし!じゃあ登録も済んだし、ハヤテ通過していいぞ」


真面目な顔を引っ込めて、ニカっと笑ったケインさんに背中を叩かれ、俺は既にチェック済の三人の元へ向かう。

あ。


「ドラコってどうなるんですかね?」


振り返り、ケインさんに確認する。

ドラコは素知らぬ顔で俺のあとをついてきていた。


「あー、普通の魔物は王宮内に入れる訳には行かねぇから、城門ここの外で預かるんだけどよ、森林竜シルワドラコの場合は扱いが扱いだから下手に預かれねぇんだ。悪いがそのまま連れて行ってくれ。くれぐれも目を離すなよ?」

「わかりました!ありがとうございます!」


置いていく羽目にならなくて良かったと安心した俺は、ケインさん達門番に別れを告げ、とうとう異世界ここに来て初めての街の中へ足を踏み入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る