第42話 王都へ
「ないねぇ」
ヘンリー先生の答えはガックリくるものだった。
そうだよなぁ、そんな都合よくいかないよなぁ。
「ですよねぇ、わかりました。ありがとうございます」
「でも……」
諦めて席を立とうと思った時、ヘンリー先生がこちらを見据えて言った。
「僕の
「先生の
「うん、王都にいるんだ。お忙しい方だから会えるかわからないけど……」
先生のお師匠様……
忙しくて会えないほど有名な人なら、もしかしたら作れるかもしれないな。
「その人にお願いすることは出来ますか?」
「まぁ、緑珠の危機はいずれ国の危機にもなるし、放って置くわけにはいかない事だから頼むことは出来ると思う。……そうだな、時間もないし僕が頼みに行ってくるよ」
そう言ってヘンリー先生は席を立った。
「みんなの所へ行こう。今の話、隊長にもした方がいいからね」
食堂へ戻り、ヘンリー先生が先程の話を隊長にする。
「なるほど、それならすぐに準備はできるか?このあとすぐにケイレブに王都に戻ってもらうんだ。その時一緒に行った方が護衛も兼ねられるし都合がいい」
「わかりました、準備してきます」
くるりと身を翻し、ヘンリー先生は調剤室へと戻って行った。
「あの、隊長」
「ん?」
ケイレブが隊長に声をかけている。
「王都で薬が出来上がるまでは、
「まぁ下手にこっちから手が出せないから暫くは観察してるしかねぇが……それがどうした?」
ケイレブがちらっと俺とロバートを見た。
「あの二人も、ちょっと王都に連れていきたいです」
「へ?!」
「え、俺たちも?」
隊長も驚きに目を見開いている。
「それは……まぁ……こっちの戦力的に二人も抜けるのはちょっとキツいが、それとしても連れていきたい何かがあるのか?」
「さっきの
『適性検査?!』
俺とロバートと、何故かライアンの声がハモる。
「ケイレブ、なんでこいつらなんだ?俺も受けてぇんだけど、その適性検査ってやつ」
「じゃあライアン。無属性の闇の魔力発動してみて」
「闇の魔力?」
ライアンが魔力を集中させる。
え、ちょ、ライアンが闇の魔力なんて出したら俺たちみたいに糸じゃ済まなくない?!ここにいるみんな魔力吸われちゃうんじゃないの?!
慌てて止めに行こうとして、ライアンは肩を竦めた。
「って、出るわけねぇだろ?闇の魔力なんか使えねぇよ」
え?
俺とロバートは顔を見合わせる。
あれ?じゃあさっきの糸……
そう思って、森の中でのニコラスの言葉を思い出す。
──無属性魔法の一つだよ。なかなか使える人がいないって言ってたけど、もしかしてハヤテ使えるのか?
「ロバート、ハヤテ。さっきなんかやってたよね?もう一度見せてもらってもいい?」
ケイレブに言われ、俺とロバートは
指先から黒い糸を出す。
「お前ら……!」
「え、闇の魔法?!」
「黒い糸?」
食堂中がざわめく中、ケイレブは俺たちと隊長を交互に見て、ニッコリ笑った。
「てことでこの二人、闇の魔力に適正アリなんで、王都行きよろしくお願いします」
「いやいやいや、闇の魔力って言っても俺もロバートもこの黒い糸が限界ですよ?!」
「発動できることが条件なんだよ。その魔力の大きさは関係ないんだ。悪いけどもう出発するから二人とも準備、急いで!」
と、食堂から追い出されてしまった。
「え、いや……ロバートどうする?」
「どうするって言っても……なんかもう決定事項な感じ?」
「だよなぁ」
俺たちは装備を整え、食堂へ戻る。
「よし、準備は終わったか?」
食堂では王都に向かうための食料が用意されていた。
それをみんなで外に繋がれていた馬へ載せている。
……馬?!
「え、待って……もしかして馬で行く?!」
「?そりゃそうでしょ?馬車じゃ時間かかっちゃうし」
「ちょ、俺馬とか乗ったことないんだけど?!」
馬なんて小さい頃、動物園のポニーに乗った以来乗ったことないよ……
「ホント?じゃあちょうどよかったかな」
ケイレブが、馬たちを指差す。
「思ったより人数増えたから馬の数足りなかったんだ。ロバート、ハヤテも一緒に乗せてやってくれ」
「おっけー。ハヤテ、前と後ろどっちがいい?」
「いやいやいや!」
馬に二人乗りってめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!
あー!スピード出る馬車があればいいのに!あ、それは車か!じゃあ台車に乗って引っ張ってもらうとか?!
よく分からないことをぐるぐると考えて、
「あ!引っ張ってもらえばいいんだ!」
「え、引っ張る?」
俺は一旦詰所に戻って、倉庫にしまってあったロープ替わりの
普通のロープもあるんだけど、俺はこっちの方が手に馴染むんだよな。
その
「ここから王都ってそんなに狭い道走らないよな?」
「まぁ、魔物に襲われるとか特殊な環境にならない限りは街道を行くけど」
「じゃあ俺、これに掴まってくから引っ張ってってくれ」
「
ロバートが
「え?ハヤテ走ってくつもり?王都まで結構距離あるけど魔力足りる?」
「いや、こうする」
足の裏に風の魔力を集中させ、五センチ位浮く。
止まってると、集中しないと回転で吹っ飛ばされそうになるけど、馬に引っ張ってもらってればそんなに魔力の消費も集中力も要らなそう。
「これなら馬も重さそんなに感じないだろ?だから二人乗りは勘弁して……!」
「……これが聞いてたハヤテの
なにかケイレブが言っている。
アレってなんだ、アレって。
「うーん、これならいいか。馬の負担も減るしな。ただ、街道から逸れて森の中を行く時はロバートに乗せてもらうんだぞ」
「……ハイ」
「まぁヘンリーもいるからそんな無茶な走りはしないと思うけどな」
「面目ない、森の中はなるべく走らない方向でよろしくね」
それぞれ自分の馬に乗り、俺はロバートの馬に括りつけた手綱を握ったところで、
「じゃあちょっと王都に報告いってきます。応援要請かけたら俺はすぐ戻りますね。ロバート達はもしかしたら場合によっては少し王都騎士団預かりになると思います」
「わかった。気をつけて行ってこいよ」
隊長が軽く手を上げる。
「隊長、ちょっと行ってきます!」
「ハヤテの面倒はちゃんと見ておくっす」
「薬、早めに作ってもらって持ち帰りますので」
ぐるっと他のみんなの顔を見渡す。
『じゃ、行ってきます!』
──こうして俺は、この世界に来て初めての
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