第35話 地底湖のその先に

突然崖の穴の中へ向かった森の主スフェーンに驚き、思わず乗ってしまいそのまま奥まで行ったことをロバートに洗いざらい話し、もう一発頭を叩かれたところで、隊長達の話し合いは終わったらしく集合がかかった。


「とりあえず奥の様子を見に行くことにした。ハヤテの見つけたその地底湖とやらまで案内頼めるか?」

「了解です」

「もし、途中で引き返してきた森の主スフェーン達と行きあったら、気配を消して刺激しないようにやり過ごす。いいな?では、出発」


俺たちは念の為辺りを警戒しつつ、崖の穴の奥へと足を踏み入れた。


「へぇ、思ってたより広い通路ねぇ」

森の主スフェーンが通れるくらいだからある程度大きいとは思ってたけどここまでとはなぁ」


ジェシカとライアンが感嘆の声をあげる中、俺はふとあることに気がついた。


「あれ?そういえば洞穴の中、明かりつけてないのに明るい……?」


そう、暗闇のはずなのに、うっすらと周りの様子が見えている。なんでだ?


「あ、壁が光ってるのか」

光苔ヒカリゴケ光虫ヒカリムシだよ。光苔は壁に生える光る苔、光虫はその苔を食べることによって自身も光るようになった虫。壁が光ってるのは光苔で、空中で所々光ってるのが光虫ね」


ロバート先生の解説が入る。

なるほどねぇ、だから穴の全体がふんわり光ってるのか。


「ハヤテ、分かれ道に来たがどっちに進むんだ?」


目の前に左右に分かれる道が現れる。

地底湖のあるのは……


「あ、ここはその右の、壁から木の根っこが見える方です。この後何回か分かれ道あるんですけど、全部分かれ道の壁を見ると壁に所々木の根が見える方に進んでいきます」

「壁に注目していけばいいんだな、了解!」


隊長が壁を見ながら進んでいく。

この洞穴、崖の中にあるから岩とか石で出来てるのかと思ってたら、結構壁から木の根がせり出してたりする。

多分この崖の上に生えてる木の根なんだろうけど、自然の力の強さを実感するなぁ。

そのまま何度か曲がりつつ、引き返してくる森の主スフェーン達とも会わないまま地底湖へ辿り着いた。

ただ、地底湖には森の主スフェーン森林竜シルワドラコも居なくなっていた。


「あれ?!何もいない?!」


地底湖は、俺たちが出たこの空間全てを埋め尽くすように湧き出ていて、湖の向こうへ回り込んで行くことは出来ない。

澄んだ水の底は、少し先から急に深くなって足が届くような深さではなくなっている。

森の主スフェーンの姿を探し、地底湖をよく観察してみれば、対岸の先に奥へと続く穴のようなものが見える。


「隊長、もしかして森の主スフェーン森林竜シルワドラコって泳げます?」

「実際に見たことは無いが、移動の時に川を渡らないと行けないところで見かけたりするから泳げるだろうな」

「あのー、なんか向こうに奥に続く穴が見えるんですけど、もしかしてそっちに森の主スフェーンたち、進んだかもしれないです」


俺が対岸の穴を指差すと、隊長の顔色が変わった。


「マズイ!あの先にもし穴が続いてるなら緑珠の祠の裏あたりに繋がってるぞ!」

「え?!」

「なら、湖渡った方が良さそうね!アタシが対岸までみんなを運ぶわ!まず隊長、失礼します!」


そう言ってヒョイ、と隊長を担ぎ、演習場で見せてくれた時のように見えない風を踏み台にしてジェシカは湖の上を渡っていく。


「え?!」

「おー、ジェシカそうやって湖を渡るか!頭いいな!」


ライアンが感心してるけど俺が驚いたのはそこじゃない!

あの筋肉の塊みたいな隊長を軽く持ち上げましたけど?!

呆気に取られてるうちに隊長を降ろしたジェシカが戻ってきて、今度はライアンを担ぎ、同じように湖の上を渡っていく。

……ライアンも結構、筋肉の塊なんですけど?!

開いた口が塞がらず、ジェシカを見送っていると、


「確か似たようなことハヤテも池の主シルルスの所でやってたよね?ジェシカの運び方、俺酔うから嫌なんだよ……悪いけどハヤテ、俺を向こうに連れてってくれない?」


ロバートが俺の肩を叩いた。

確かに俵担ぎは吐きそうになるよな。かと言ってお姫様抱っこも精神的ダメージあるしなー。

その気持ちはわかる!わかるけども!

俺、ジェシカみたいに軽くは持てないからな?


「おんぶでいいか?」

「いいよー!」


ロバートを背中に背負い、水面と足の裏の間に風を起こし、湖上を駆けていく。


「あら、ハヤテ自力で来てくれたのね!ロバート連れてきてくれてありがとう」

「ジェシカの運び方、俺酔うから嫌なんだよ!ハヤテが渡れて助かったー!」


隊長とライアンを見てみれば、少し酔ったのか顔色が悪い。

……俺、自分で渡れてよかった……


「ちょっとー、隊長もライアンもだらしないわねー。鍛え方が足りないわよ?!さぁ、休んでる暇ないわ!奥に行きましょ!」


ずんずんと穴の先へジェシカが進み、俺たちも後に続く。

こっちの穴は光苔が少ないのか、さっき通ってきた道より薄暗かった。

時々灯りライティングの魔法で辺りを照らしながら奥へ進むと、


ダァン!!


洞穴内に音が響いた。

これ、また森の主スフェーンたちが壁に体当たりしてる?!

音の方へ俺たちは一気に駆け出し、そこに辿り着いた時はちょうど、壁に大穴が空いた時だった。

その瞬間、洞穴内の空気が変わる。

緑珠の祠で感じた、清々しい空気に。

もしかして、あの壁の向こうって緑珠の祠?!


「急ぐぞ!」


穴の中には入らず周りをウロウロしている森林竜シルワドラコの合間を縫って、隊長を先頭に穴の中へ駆け込む。

そこはやはり緑珠の祠だった。


そして、目の前の森の主スフェーンは──


緑珠を囲っている祠を破壊して、切り株に生えている緑の宝珠を……


──飲み込んだ。

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