第33話 森の異変

音の方へ一気に駆けだす。

俺の緑珠守護団ここでの役割は異常を感知した時に何が起きたのかいち早く確認し、報告すること。

元の世界に戻りたい気持ちは強いけど、まずは自分の役目を全うしないと。

駆けつけた先で見つけたのはヒグマに馬のたてがみが生えたような生き物。

そのたてがみは紅く燃えている。

間違いない、詰所の本でしか見たことないけどコイツ、火炎熊イグニスウルススだ!

その火炎熊イグニスウルススは十数匹で群れており、至る所で咆哮を上げ、森に火を放っていた。

そのせいで、あちこちから火の手が上がっている。

とりあえず引き返し、隊長に報告に行こうと少し戻ったところで隊長と合流した。


「この先、火炎熊イグニスウルススの群れ発見!咆哮を上げ、森に火を放っています!」

「あぁ、来る途中ちらっと火が見えた。火炎熊イグニスウルススの群れだって?」

「はい、恐らく十匹以上はいるかと……」


気配を抑えつつ、ロバートとジェシカも加わった4人で先程の場所へ近づく。


火炎熊イグニスウルススが十匹以上ですって?アイツら家族で群れを作って、縄張り意識も強いから五匹以上では群れないはずなのに……!」

「とにかくこのままじゃ森が焼けちまう!ロバート、詰所行って応援読んでこい!上手く行けば途中でマシューかライアン捕まえられるだろ。俺とジェシカで火炎熊イグニスウルススは足止めする。ハヤテは火を消して行ってくれ!」

『了解!』


隊長の指示に従い、燃え広がり始めた火を消していく。

……予備の水の魔石そんなに持ってきてないけど、消火しきれるかな……?!


隊長とジェシカが火炎熊イグニスウルススを抑えている中、片っ端から燃えている木を消火して回ったけど、案の定途中で水の魔石の効果がなくなってしまった。

俺の魔力だけだととてもじゃないけど火が消せるほど水は出ない。


──どうする!?


何か水の代わりに消せるもの……

何かで叩くか?!

いや、そんな時間の余裕はない。

俺の魔法で消すにも風だと余計火の周りが早くなりそうだし。

あとは……


そこでふと気がついた。

──砂、行けるんじゃないか?!

確か火に砂をかけると消火出来ると聞いたことがある気がする。深く考えてる暇はない!

俺は未だに燃えている木に、土魔法を使って砂をかけた。

火は完全には消えないものの、燃え広がるのは防げそうだ。

とりあえず後でもう一度水で消火してもらうとして、今は延焼を止めよう!!


そう考えて、砂で消火しているといつの間にか火炎熊イグニスウルススとの戦いにライアンが参加していた。


水よ!洪水となれ!ウォーター


ライアンが声高にそう叫ぶと、辺り一面が滝のようなゲリラ豪雨に襲われる。

ライアンの魔法、強いとは聞いてたけど……マジか!

俺が砂で消したものの少し燻っていた火も完全に消火され、

めらめらと燃え上がっていた火炎熊イグニスウルススのたてがみも、濡れそぼっている。

たてがみの火が消えると、火炎熊イグニスウルススは咆哮で火が出せなくなり、ただの熊と変わらない、ただしちょっとやそっとの水ではたてがみの火を消すことは出来ないって、本には書いてあったんだけどな?

これがライアンの魔法……!強すぎだろ!

咆哮の使えない火炎熊イグニスウルススは呆気なく隊長達に仕留められていった。

……いや、普通のクマでもそんな簡単には倒せないからな?!緑珠守護団ここの人達の戦闘能力高すぎる……

ちなみに俺は手を出す暇がないまま終わった。


「いやー、ライアン助かった」

「いや、大事になる前でよかったです。ていうかこんな群れ、俺初めて見ましたよ」

「俺もだ」


討伐した火炎熊イグニスウルスス達を一ヶ所にまとめ、隊長達は火炎熊イグニスウルススの解体を始めた。

放っておくと瘴気が出るから、魔物を倒したときはそのままにせず全て焼くか、解体して持ち帰るのが決まりとはいえ、やはりまだ解体には慣れない。


「てか、隊長。この量どうやって持ち帰ります?」


積み上げられた火炎熊イグニスウルススは十四匹の山になっていた。


「とりあえず解体して、魔石を取り出したらまず毛皮など素材を持ち帰る。肉は焼却……と思ってたんだが」


ちらっと隊長の目線の先を見てみれば、ライアンとロバートの目が「肉!」と訴えていた。


「今持ち帰れない分はライアンに氷漬けにしてもらって、後から荷車で回収に来るか……」

『賛成!!』


やれやれ、と言う隊長のアイコンタクトを受け取り、俺も解体へ参加する。

何体か処理が終わったところで、ズズン、と何か聞こえた気がした。

ん?と思い耳をすましても何も聞こえなかったので、気のせいかと思い再度解体を始めようとしたところ、またズズン、と聞こえる。

これ、音と言うより衝撃音?

他のみんなも異変に気づき始め、周りを見渡した。


「なんか、嫌な予感がする……」


ロバートの呟きに誰もが共感し、俺とロバートは一度解体作業をやめ、緑珠の祠の様子を見に行くことにした。

守護の森ここでの最悪の事態は、宝珠に何かが起きること。

宝珠を守るのが緑珠守護団おれたちの仕事。


「じゃ、ちょっと見てくる!」

「行ってきます!」


俺とロバートは緑珠の祠へ向かって走り出した。

向かう途中も時々あの衝撃音のようなものが聞こえる。

訓練で、ロバートと併走しながらも多少会話ができるようになった俺はロバートに尋ねる。


「なぁロバート、あれ何?」

「いや、俺も聞いたことないんだよ。たまに森の主スフェーンが勢い余って崖に突っ込んだりしてる時、似たような音聞こえるけど、こんなに連続でぶつからないでしょ?」


いや、崖に突っ込むのかよ、森の主スフェーン……

そんなドジっ子キャラだったんかい。

そういや俺、森の主スフェーンに吹っ飛ばされたけど姿見てないんだよな。

どんな姿なんだろ?


俺の疑問は直ぐに解消されることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る