第32話 緑の宝珠②
階段を登りきると、この時期にしてはちょっと涼しいと感じる気温に下がった気がした。ただ、嫌悪感等はなく、それすら心地いいと思える感じだ。
そのまま少し歩いた先の地面に、大きな穴がぽっかりと口を開けていた。
苔に覆われた岩で囲まれたその洞穴の底の方に、石で組まれた祠のようなものが見える。
「守護の木はここから生えていたらしい。この岩穴のさらに頭上まで育っていたみたいだぞ」
祠の元へ辿り着き、上を見上げると洞穴の上が吹き抜けになっていて、空が見えた。
ここから上に伸びていたのか……!相当大きかったんだろうな。
「ほらハヤテ!これが緑珠だよー!」
石造りの祠の中を覗いてみれば、両手を伸ばしても抱えきれないほど太い幹だったんだろうな、という切り株と、その半分を占める形でミントグリーンの鉱石が埋めつくしていた。
その鉱石の中心にはハンドボール程の水晶玉のような物が埋まっている。
これが……緑珠……
「すげー、綺麗……」
見ているだけで、癒される。以前ロバートが言っていた気持ちが分かる。
森の中で森林浴をしてマイナスイオンをたっぷり浴びたような清々しさと、疲れた身体で温泉に浸かった時のようなリラックス感の両方を一度に味わったような、離れ難い気持ちになった。
「ね、凄いでしょ!緑珠!」
「あぁ、ロバートの言ってた通りだな」
「でしょ!」
得意げなロバートを横目に再度緑珠へ視線を移す。
いやー、ほんと緑珠見てて飽きない。ルームランプとかにして部屋に飾っておきたい!!
動かしたら疫病発生するから絶対やらないけど……
そんなことを思いながら緑珠に癒されていると、ほんのり光を帯びたような気がした。
見間違いかと思い、改めてよく見てみると、やはりぼんやりと光りながらチカチカと点滅している。
「え、なんか光ってる?!」
思わず後ずさり、近くにたまたまいたジェシカの後ろに隠れる。
「やだ、怖くないわよ。多分魔力の揺らぎが近いのね」
「
「数十年に一度起きる、魔力の大放出のことだ。どこで起きるか予想がつかないが、起きてしまえば大地震や津波、他にも想像もつかないような天変地異が起きる」
俺の呟きを拾った隊長が、説明をしてくれた。
「そろそろその魔力の揺らぎが起きる頃なんだよ。どこの宝珠の近くかはわからないが、大体宝珠の近くで起きる」
「次元に裂け目が出来て、渡り人が落ちてくる、なんてウワサもあるわよね」
「そういやハヤテが
ガッハッハッ、と大笑いしている隊長を見て、俺は背筋に冷たいものが走ったような衝撃に陥っていた。
それは、異世界から召喚されたような、つまり俺のような人が過去にもいたってことか?
その人は、どうなったんだ?
「ハヤテ?大丈夫?」
急に固まった俺を心配したのか、ロバートが顔をのぞき込む。
そのロバートの肩を掴み、俺はロバートへ詰め寄った。
「なぁ、渡り人ってどっかにいるのか?!その人どうなった?!」
その様子を見たジェシカが目をぱちくりさせている。
「やぁだ、ハヤテ。急にどうしたの?渡り人に会いたいの?」
「会えるのか?!」
ジェシカを振り返り、尋ねる。
「んー、多分無理ね。もういないと思うわよ」
「
「確か故郷へ帰ってしまって、もう誰も会えないって聞いたわよ」
それはつまり、もし渡り人が俺と同じ異世界転移者だとしたら元の世界に帰れるってことか?
「もし渡り人がいたとして、故郷に帰るにはどうしたらいい?」
俺の質問に隊長とジェシカは二人揃って首を傾げている。
その問いかけに答えたのはロバートだった。
「魔力の揺らぎが起きた時に、宝珠の近くにいると次元の裂け目に飲み込まれることがあるんだって」
ばっ、とロバートを振り返る。
「だから俺たちは魔力の揺らぎが起きる時は極力宝珠には近寄らない。まぁ、揺らぎのせいで宝珠が動いちゃうと大変だから近くには待機してるけどね」
「そう……か。ありがと、ロバート」
もしかしたら、帰れる……
この世界に来て、色々な人の優しさに触れて、このままここで生きていくのも悪くない。
……そう思ってはいたけれど。
向こうで16年生きてきた。
両親……友達……
突然別れた事に、気持ちの整理が追いつかなかった。
諦めたつもりだった。
もう会えないなら、ここでの人生を楽しもう。
そう思うことで気持ちにフタをしたけれど、もしまた会えるなら?
諦めなくてもいいなら?
俺は出来れば帰りたい!
友達とバカやったり、パルクールに夢中になったり。
……ただいま、と家に帰ったり。
いつか絶対、元の世界に帰る!
諦めることをやめた俺は、魔力の揺らぎについてもっと調べようと心に決めた。
更に詳しく魔力の揺らぎについて聞こうとロバートに声を掛けようとした時、
──ドドン!!
森に轟音が響いた。
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