第31話 緑の宝珠①

みんなで仲良く掃除屋ラートゥスを背負い駐屯地へ向かう途中、一台の荷馬車が俺たちを抜かしていった。

そして少し行った先で止まる。

御者台から降りてきたのはロバートだった。


「隊長!みんな、こんなところでどうしたの?てか何その荷物……」


ロバートの視線は各自手に持っているサンタ袋、もとい麻袋に注がれている。


「あら、いいところで会ったわねロバート!悪いんだけどコレ詰所に持って帰ってくれない?ほら、ハヤテも渡しちゃって」


そう言ってジェシカは俺の分もロバートに押し付ける。


「ちょ、だからこれ何ー?!」

「さっき駆除した掃除屋ラートゥスよ」

掃除屋ラートゥス?!こんなに沢山……しかも原型留めてる。どうしたの、コレ」


ジェシカがちらりとこっちを見て、肩を竦めた。


「ハヤテのいつものよ」

「あぁ、ハヤテのいつものか……」


少し遠い目で俺を見るロバート。

ちょっと、なんか納得するのやめてくれない?!


「持って帰るのはいいんだけど、ジェシカはどうするの?」

「アタシはハヤテを緑珠の祠へ案内してくるわ」

「え、緑珠の祠へ行くの?いいなぁ」


羨ましそうな声を上げるロバート。

緑珠見るの好きだって言ってたもんな。

にしても、帰りに緑珠を見に行こうって言ってたのジェシカ覚えてたんだ。

実はちょっと楽しみだったんだよな。掃除屋ラートゥスの一件で延期になったかと思ってた。

わくわくしていると、ライアンがロバートの抱えていた俺とジェシカの分の麻袋をひょい、と持ち上げる。


「御者は俺が変わるから、ロバートも祠に一緒に行ってこいよ」

「え、いいの?!」

「あんまりソフィア待たせたら可哀想だろ。てかソフィアどこだ?」


そういえば一緒に街に買い物に行くって言ってたよな?

御者台にはソフィアさんの姿は見当たらない。


「あー、さっき少し寝るって言って荷台の方に移ったんだ。荷物に埋もれてると思う」


そう言って荷台の幕を持ち上げると、荷台の中には街で仕入れてきた品物や野菜に埋もれて、クッションを抱えて爆睡しているソフィアさんの姿が発見された。

起こさないよう、そっとみんなの掃除屋ラートゥス袋を荷台に積み込む。あぁ、完全に麻袋に埋もれてしまった……

起きたらびっくりするだろうな……


「じゃあ俺先に帰るわ。ついでに掃除屋ラートゥスの本体から核取り出して整理しとくよ。あと一人乗って帰れるけどどうする?」

「あー、そしたら俺とライアンは並んで御者台乗れねぇからマシュー乗って帰っとけ」

「え、隊長いいんすか?」

「おう。俺も緑珠の祠の辺りちょっと見てくるわ」

「あざっす!」


確かにライアンもガタイいいから隊長と二人で御者台には乗れないよな……あと馬が可哀想……


「じゃあお先にー!ハヤテ、緑珠の祠楽しんでこいよー!」


そんな感じでライアンとマシュー先輩は一足先に詰所へ帰っていった。


「じゃ、アタシ達は緑珠の祠へ行きましょうか!」

「よし、出発!」


ジェシカとロバートはそう言い、スタスタと歩き出す。俺と隊長も後に続いた。


「隊長、祠ってここから遠いんですか?」

「いやー、ここからならそこまででもねぇな。そうか、ハヤテはまだ行ったことなかったのか」

「そうなんですよ。だからさっきジェシカに帰りに連れて行ってもらう約束してて。緑珠ってどんなものなんですか?」

「緑珠はなー、これくらいの大きさで……」


そう言って隊長は手でハンドボールくらいの大きさを作る。


「んで、木から生えてる」

「木から生えてる!?」


思ってもみなかった緑珠の姿に思わず声を上げた。


「え、木になってるんですか……?緑珠の木?」


頭の中に、リンゴのように木になっている緑珠の姿を想像する。

すると隊長が、いやいや、と手を振った。


「あー、言い方が悪かったな。この森で昔、守護の木って大きな木があったんだけどよ、枯れちまってな。その時切り倒した切り株にいつの間にか出来てたんだと。見た目は……んー、木と鉱石が融合してる感じだな」

「へぇ、琥珀みたいなもんかな」

「コハク?」

「木の樹液が石みたいに固まった宝石を俺の故郷ではそう呼んでて……」

「なるほどな、じゃあそんな感じなのかもな。守護の木の聖なる力が流れて固まって宝珠になったんじゃないかって言われてるからなぁ」


切り株になってる宝珠かぁ。

どんな風になってるのか、見るのがますます楽しみになってきた!

しばらく歩き続けた時、突然周りの空気が変わった。

澄んだような、深呼吸したら身体の中から浄化されるような、清々しい空気に。

もしかして……


「ほらハヤテ、もうすぐ着くわよ」


ジェシカの視線の先には苔に覆われた、石造りの階段が長く頭上に伸びていた。


「さぁ、頑張って登りましょ!!」


上の方には霞がかかり、一番上が見えない。

この先に、緑珠の祠が……


俺はわくわくを隠しきれず、階段に足をかけた。

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