第30話 存在価値

降り注いできた掃除屋ラートゥスに、一瞬で溶かされる……なんてごめんだァァァ!!

思わず、水を撒いていた虎杖フォローピア掃除屋ラートゥスに向け、全力で水を出した。


──ピシュウゥゥゥっ!!


掃除屋ラートゥスに向けて勢いよく放たれた水は、先端が針のように細くなりその尖った先が俺の頭上から落ちてきた掃除屋ラートゥスのちょうどど真ん中、核の部分を貫通した。


ぼとっ。


そのまま地面に落下した掃除屋ラートゥスはぴくりとも動かない。

そして核の色が黒から灰色に徐々に変わっていった。


「ハヤテ!大丈夫か?!」


駆けつけたマシュー先輩が、足元の掃除屋ラートゥスを見つけ、おもむろに手に取った。

何度か分裂を繰り返し、原付バイクサイズからクッションくらいの大きさに縮んではいたが、まだ両手で抱えるサイズで、それはつまり、まだ人なんかあっという間に溶かせるサイズなわけで……


「ちょぉっ!何やってるの?!マシュー先輩が溶けちゃう!!」


慌てて駆け寄り掃除屋ラートゥスをマシュー先輩からひっぺがす。


「わぁぁ!俺も触っちまったー!腕溶けるーー!」


掃除屋ラートゥスを地面に叩きつけ両手をブンブン振り、どうにか掃除屋ラートゥスの粘液を振り払おうとする。


「落ち着けって!腕、溶けてねぇだろ」


パニックになった俺の腕をガシッと掴むと、マシュー先輩が

その腕を俺の顔の前で振って見せた。


「……腕……ある」

「だろ?俺も溶けてねぇ。さっきの掃除屋ラートゥスは生命活動止まってんだよ。核の色、変わっただろ?」


足元に叩きつけた掃除屋ラートゥスをもう一度見ると、やはり核の色が黒から灰色になっていた。


「核の色が薄くなると、もう掃除屋ラートゥスは生命活動停止してんだよ。そうなると一気に、溶かす力が落ちる。その証拠に短い間なら触れるし、少し硬くなるんだ」


素手は勇気がなかったので、試しに手に持っていた虎杖フォローピアでつついてみると、先程まで半分水のようだった掃除屋ラートゥスはグミのように少し弾力がついていた。


「な?ところで、まだ周りにはいっぱい掃除屋ラートゥスがいるワケだが……さっきそいつ倒したみたいに他のやつも倒せるか?」

「あ!そうだった……試してみる」


そういえばパニックになって一瞬忘れてたけど俺の周りにいっぱい分裂体が落ちてきてたんだった。

幸いなことに先程まで撒いていた水のおかげか、落ちてきた掃除屋ラートゥスは遠くまで動くことができず周りをウロウロしていた。

そのうちの一体に狙いを定め、虎杖フォローピアからさっきと同じように勢いよく高水圧の水を出す。

先程は無意識だったが、今回は意識して先端を細く尖らせてみた。


──ピシュウゥゥゥっ!!


狙い通り水は掃除屋ラートゥスを貫通し、核の色が薄く灰色へと変化していく。

貫通したあとの水は勢いが無くなるのか、ただの水となって周りに水溜まりを作っていた。


「すげーな、それ!そしたらハヤテ、この辺りの掃除屋ラートゥスお前に任せた!頼むな!」


そう言って元の担当場所へ戻るマシュー先輩を見送り、俺は自分に任された範囲の掃除屋ラートゥスを一体づつ確実に仕留めていった。

転々と地面に転がる掃除屋ラートゥスが十体を超えた頃、隊長を初め、他のみんなが俺の所へ集まりだした。


「なんだ?ここの掃除屋ラートゥス、どうやって倒した?」

「燃やさずに倒せるのか?なら俺も倒す時山火事心配しなくて済むんだけど」

「ライアン!あんたほんともう少し魔力調整特訓して!アタシ結局あんたのつけた火の消火係になってたじゃないの!ハヤテちょっと聞いてよ、ライアンってば……あら、そういえばこの掃除屋ラートゥスどうしたの?」


ジェシカが転がってる一体をつつく。


「あー、この辺のは俺が倒したんだけど……あと少しまだ残ってるかも」

「お、ここに一体いるな。ハヤテ、ちょっとこいつ頼んでいいか?」


隊長に言われ、同じようにその掃除屋ラートゥスも水で貫く。


「え、水?」

「なるほどな、またハヤテの凄技か……とりあえずこの辺見回るか」


みんなで周りを捜索しようとしたところでマシュー先輩が帰ってくる。


「あ、隊長!この辺りは捜索終わりましたよーっと。おそらく殲滅出来てるか、逃げても数体って感じなので森に影響出る心配はなさそうです」

「ご苦労さま。んじゃとりあえず……」


ガシッ。


隊長に肩に手を回され首が締まる。


「ぐえ」

「ハヤテー!詳しく話を聞こうかー!!」


わかったから!話すんで、腕の力を抜いてくださーーーい!!


隊長の腕から抜け出し、俺は、水撒きしてたら上から掃除屋ラートゥスが降ってきたこと。思わず水をかけたこと。その際高水圧の水が出て掃除屋ラートゥスを貫いたことなどをイチから説明した。


「燃やさなくても倒せるのは大発見だな。これなら魔石も取り出せるし、本体も残る」

掃除屋ラートゥスの魔石って何かに使えるんですか?」


みんながやたらと燃えなかったことを絶賛するので、掃除屋ラートゥスの魔石はそんなに価値があるんだろうか?


「なんだハヤテ知らなかったのか。掃除屋ラートゥスは森にも必要な存在だが俺たちの生活にもなくてはならない存在だぞ」

「本体も核もどっちも使い道があるのよ。二つとも、ハヤテも毎日見てるでしょ?」

「へ?」


ちらっと水饅頭ラートゥスを見てみる。うーん、見覚えないけどな……


掃除屋ラートゥスは基本的に燃やして倒すから、灰しか残らないのよ。その灰はお皿や服を洗う時使ってるでしょ?」

「え、あれがそう?!」


そういえば、しつこい汚れのある皿とか服を洗う時、なんか粉を入れるんだよ。単純にそういう洗剤なんだと思ってたんだけどあれが掃除屋ラートゥスの灰?!


「で、たまに燃え残りの本体が残る時がある。それは湯浴みの時に使うだろ?」

「まさかあの泡立たない石鹸?!」


詰所の外の露天風呂を使うようになってから、ライアンとも何度か顔を合わせ、その時に借りた石鹸が凄く洗い上がりがサッパリして気に入ったから、わけてもらったんだけど……あれも掃除屋ラートゥス?!


「それに、一日に何度も世話になる場所にもあるじゃねぇか。トイレの桶にも掃除屋ラートゥスの核使ってんだよ。核一個で何ヶ月かは排泄物の処理出来るからな」


……まさかのトイレでも掃除屋ラートゥス……?

「終わったあとここに魔力流して」ってロバートに言われて桶についてた魔石に魔力流してたけど……

いつも魔力流すと、桶の底に敷き詰められてる灰みたいのになるからそういう水洗トイレみたいなもんなんだと思ってた。

あれ掃除屋ラートゥスの核で分解されてたのか……

じゃあもしかして底に敷かれてるのは掃除屋ラートゥスの灰なのかな?


「核も本体もなかなか残らないから在庫減ってたけど、ここら辺の集めたら結構在庫潤うわ!これ、みんなで持って帰りましょ!」


思わぬ収穫にみんなウキウキで掃除屋ラートゥス集め始め、揃いも揃ってサンタのように麻袋に掃除屋ラートゥスを詰めて、家路へと戻るのだった。


掃除屋ラートゥス……すげぇな……!

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