第27話 特訓の成果
──ザッ……ザザッ……
木々の隙間を縫って走るロバートを見失わないよう、目を離さず追いかける。
これ、結構集中力使うぞ……?
ロバートを視界に入れながら、周りの木や岩にぶつからないよう飛び越えつつ、風の魔力の調整と自分の残りの魔力の確認。
一度に行うタスクが多すぎるけど、ひとつでも疎かにしたらすぐダメになる。
全て平等に気を配りながら、しばらく走ると目眩がしてきたので、ポケットから魔力回復飴を取り出し口に含んだ。
よかった、予め何個かポケットに入れておいて……
動きながらカバンから出すなんて、今の俺には絶対無理だ!
常に限界ギリギリの橋を渡りながら、ロバートを追いかけていると、時々振り返りこちらの様子を気にしているのがわかる。
くそー、余裕あるなー!いつか絶対追い抜いてやる!
ロバートとの縮まらない距離にヤキモキしつつ、五個目の飴の効力が薄れてきたところで六個目を取り出そうとポケットに手を入れると、バラでポケットに入れていた分は使い切ってしまったようだった。
……仕方ない、カバンから出すか……
──この一瞬の気の緩みで周囲の様子を疎かにしたせいか、突然現れた倒木を避けることが出来ず、物の見事に激突して気を失う。こうして鬼ごっこは呆気なく幕を閉じたのだった……
「おーい、ハヤテー。だいじょうぶー??」
「んあ……」
既に回復魔法を掛けてくれたのか、身体は心地よい温もりに包まれ激突の痛みは残っていない。
「あー!油断したー!」
「残念だったねー。でも結構ついてこれてたよ」
悔しがる俺を見てロバートは、心底感心した表情をしている。
「半分には届いたかな?」
「半分も何も、あと三分の一で一周できてたよ。ハヤテ、回復薬のやつ何個食べた?」
「三分の一?!そんな走れてたのか!飴は五個目の効果が切れかけたとこで脱落した感じ」
「なるほどねー」
そう言いながら、ロバートは俺がぶつかった倒木に腰掛ける。
「うーん、副作用なければ回復薬いくらでも使えるから摂取さえ出来ればいつまででも走れるかー。そしたらハヤテ、使用数三個までで一周出来るように頑張ろう!」
「え、三個?!」
「いざと言う時に回復薬、残しとかなきゃでしょ?」
確かに数に限りがあるものを使いまくるのはあまり良くないか。
そしたらもっと魔力の底ギリギリの所を見極めるようにして使わなきゃな。
「てことで、ここから三個でどれくらい行けるか、また走ってみよっか!」
思ったより脳筋だったロバートが、もう一周の提案をしてくる。望むところだ、こっちもどれくらいまで行けるか試してやるぜ!
──結果は半周だった。
半分かぁ……もう少し行きたかったけどな。
「上出来だよ。これから毎日、三個でどれくらいまで走れるか確かめるのを日課にしよう」
「走り込みか、よし!絶対一周出来るようになってやる!」
「んで、帰ってから魔力量の底上げを兼ねて、回復薬加工も頑張ろうね」
「お……おう!」
思ったよりスパルタだったロバートの元、俺は毎日この課題をこなしていき、無事三個で一周出来るようになったのは三ヶ月後のことだった。
「──やっ……たぁぁぁぁーー……」
ドサッとその場に大の字に寝転がる。
長かったけどようやく一周できたー!
「おめでとうハヤテ!これで明日から巡回隊に混ざれるよ」
「マジ?」
「マジマジ。帰ったら隊長に相談しよう」
「よっしゃぁ!」
その日はウキウキで詰所に戻り、隊長から正式に、次の日から巡回隊のメンバーに加入することを伝えられた。
「やったな、ハヤテ。三ヶ月でここまで成長したなら大したもんだ」
「いやー、ロバートが付きっきりで特訓してくれたおかげです」
そんなことないよー、とロバートは謙遜していたが、一人だったらこの短期間では一周できるほど力はついてなかったと思う。感謝感謝。
心の中でロバートを拝んでいると、隊長がひとつ向こうのテーブルにいたジェシカとマシューを呼んだ。
「明日はこの二人が巡回予定だからそこに混ぜてもらってくれ」
「お、ハヤテようやく正式に加入か?」
「やった、アタシ楽しみにしてたのよ。明日はよろしくね、ハヤテ」
「二人とも宜しく!」
二人と軽く握手を交わし、「じゃ、明日!」と言って家へ帰る。
「ロバート三ヶ月つきっきりで特訓付き合ってくれてありがとな。巡回混ざれなかったからつまらなかっただろ?」
「いやいや、ハヤテといるの楽しいから全く問題ないよー。目を離すとすぐ新しいこと始めるしさー。詰所の湯船を整備したりとか。今までみんな湯浴みはただ汚れ落とすだけって認識だったけど、設備整えたらめちゃくちゃ快適なんだもん」
「だろ?風呂は一日の汚れだけじゃなくて疲れも取る場所なんだよ!快適に過ごさなきゃ」
俺は特訓の合間に、気になっていた野ざらしの詰所の露天風呂を少しづつ改良していった。そして先日いい感じに仕上がったばかりだ。
雨ざらしだった湯船の上に屋根を設置して、雨でも入れるようにしたりとか。
意外とみんな露天風呂が気に入ったみたいで、積極的に手伝ってくれたから想像以上にいい感じの風呂になった。
毎日温泉に浸かれる幸せ……
「あと、俺的にハヤテの提案で気に入ってるのはコレ!」
びろっ、とロバートはズボンのポケットを引っ張り出す。
そう、ここの服は肌触りは申し分なかったんだけど、なんせポケットがない!
昔から、スマホとか小銭をポケットにすぐ突っ込んでた俺は、ここの服のズボンのポケットの無さに耐えられなかった。
なので、隊長に頼んで俺の支給品の服を王都から取り寄せる時に、ポケットの説明をしてつけてもらった。そしたらそれが他のメンバーにも好評で、なんと全団員の服に正式に採用されることになったらしい。
ポケット、あるのとないのじゃ便利さが違うよな。
「次は何を思いつくんだろうってみんな思ってるよ」
「いや、俺別に発明王とかじゃないからな?そういやロバートは明日何してるんだ?」
俺のお守りを外れたロバートって、普段何してるんだろ、と疑問だったので尋ねてみる。
「俺?俺は明日ソフィアさんが隣町に買い出しに行くからその護衛兼荷物持ち」
「へぇ、隣町かー」
そういや俺
街とか王都とか、見てみたいなー。
「その買い出し、次に行く時とか俺もついてって大丈夫かな?」
「人手はあった方が助かるから、巡回メンバーに入ってない時なら大丈夫だと思うよ」
「やった!そしたら明日ソフィアさんに次回よろしくって伝えておいてくれよ」
どのくらいの頻度で出かけるのかわからないけど、行くんだったらついて行きたい。一人でとかはちょっと無理だもんな。
「おっけー。ハヤテ、街が気になる?」
「おう、街とか王都とか、見た事ないからちょっと気になる」
「わかった!じゃあ次に街とか王都とか行く時は声かけるから一緒に行こうね」
「サンキュー!」
案内役を買って出てくれたロバートに感謝する。
そしておやすみ、と言い合いお互いの寝室へわかれた。
街も気になるけど、明日は初の森の巡回。
どんなことをするのか、初仕事に胸を踊らせつつ俺は布団の中で目を閉じるのだった。
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