第26話 鬼ごっこ開始

「──終わったぁぁぁぁ!!!」


椅子の背もたれに寄りかかるように倒れ込む。

夕食後、総出でやり始めた回復薬の加工は、日付が変わる直前でどうにか全て加工し終わった。

……まぁ何本かはライアンが吹っ飛ばしてたけど……

終わったあと、加工済みの回復薬の飴をビンにまとめてみれば、ひとつのビンに約十個入ったので、ビン十本分を一本にまとめることが出来た。

おぉ、これはかなり荷物が減らせたんじゃねぇの?!

これに一番喜んでいたのはライアンで、終わったあとに手がちぎれるんじゃないかと思うほど、ブンブンと握手をされた。


「ハヤテ、ありがとう!これで俺のカバンが回復薬まみれにならなくて済むよ!」

「あ、そうか。ライアン回復魔法使えないから回復薬持ち歩いてるんだっけ?」

「そうなんだよ!たまに、使おうと思ったらビンが割れてることもあって、どうにかしなきゃなってずっと思ってたんだ」


ご機嫌なライアンは早速ビン詰めの各種回復薬の飴をカバンに詰め込んでいた。

俺も明日用に魔力回復薬の飴を一本分もらっていくかと物色していると、ヘンリー先生が回復飴の確認が終わったのか戻ってきた。


「すごいよ、大発見!やっぱり加工すると眠気や魔力酔いの副作用は出ないみたいだね。そう考えると、副作用の元になる成分は、薬草から回復薬に生成時の過程において抽出される──」

「いやー!ありがとうヘンリー!」


専門的な事を熱く語り始めたヘンリー先生の肩を叩き、お礼で無理やり会話を止める力技を使う隊長。ナイス。


「てことは、この形だったら何本分かまとめて摂取しても大丈夫なんだな?」

「副作用については問題ないと思う。ただ、効果が発揮されるスピードは元の回復薬の方が早いから、非常時には液体を先に摂取して、追加で加工済みを摂取するのが効果的かな。だからやっぱり何本かは元の回復薬も持ち歩くのがベストだと思う」


まぁ液体と飴だったら液体の方が飲むのは早いもんなー。じゃあ後で液体のももらってこよう。


「ハヤテ、はいこれ」


後ろからにゅっと手が伸び、赤と青の液体入りビンが渡される。顔をあげれば、ロバートが回復薬を持ってきてくれていた。


「とりあえずスタミナ回復薬と魔力回復薬の加工前の一本づつ。明日持ってって」

「おーサンキュー!」


有難く受け取り、計三本を手に持つ。

……これ、どう持っていこう……


「ロバート、これ入れられるカバンってないかな?」

「あ、多分装備室にちょうどいいのあると思う。帰る前に寄ってこっか」


そう言って隊長の方へ向かうロバート。


「じゃあ隊長、俺とハヤテ、今日は上がります。明日戻ったらハヤテの結果、ご報告するっす」

「おう、おつかれ!」

「ハヤテ、装備室行こう」

「了解!じゃーお先です!」


食堂を後にし装備室へ向かうと、ロバートは壁にかけられているレザー製のベルト型バッグを何個か持ってきた。


「好きなの使っていいよー」


お言葉に甘えて色々見させてもらうと、俺がいつも持ち歩いていたボディバッグと同じくらいの大きさのバッグを手に取る。

大きさは大体二十五センチくらいで、中は回復薬のビンが五本個別に収納出来るようになっていた。

ベルトで腰に固定するタイプだったけど、少しベルト部分が長かったので、背中に斜め掛けも出来そう。

これなら背中に固定して動きやすそうだし、使い勝手も悪くなさそうなので、このバッグを貸してもらった。

家に帰る前に台所に寄って、明日の昼飯代わりのパンと、ついでにポケットに入れっぱなしだった風呂掃除に使った虎杖フォローピアをバッグへ突っ込むと、そのままロバートの家に向かう。


「明日、どれくらい走れるか楽しみだな」

「まぁ、実際半周出来れば上出来じゃないかな?一周回れるようになるまでは当分の間魔力アップのトレーニングになると思うけど。普通の人はまず、風の魔力の使い方で時間かかるから、一周出来るまで半年くらいかかるんだけどね」

「え、半年?!」

「そ。半年。風の魔力纏って走るのって、実は難しいんだよ。バランス力から鍛えないと、風を纏った瞬間すぐ吹っ飛ばされるのがオチだしね。その点ハヤテはそこはクリアしてるから」


いや、買い被りすぎじゃね?!明日すぐバテたらめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……

とりあえず最低半周できるように頑張ろう……

家に着き、お互いの部屋に別れて寝る準備をする。


「じゃ、ハヤテ、明日頑張ろうねー!おやすみー」

「おう、よろしく!おやすみー!」


寝巻きに着替え、布団へ潜ると色々あった今日の疲れが一気に来たのか、すぐに夢の世界へと落ちるのだった。



──ピピピ……


昨日の朝も聞いた鳥の声で目覚めると、外が明るくなり始めていた。

今日は寝ぼけることも無く、スッキリと目が覚めたので、そのまま起きて準備をする。

着替えは動きやすさ重視から、元々俺が着てた服の上に胸当てを付けることにした。

部屋の外に出てリビングへ出ると、ロバートはまだ起きていなかったので、昨日貰った魔魚レモラの魔石を一個使い、顔を洗う。

そのまま、水筒がわりになるかなとその魔石をポケットに突っ込んだ。

俺が、もう出発出来るぞという所まで準備が完了したところで、ロバートも準備万端な状態で部屋から出てくる。


「おはよう!今日は早いね!」

「ちょうど目が覚めたからそのまま準備しといたんだ。いつでも行けるぜ!」

「よし、じゃあ顔洗ったら出発しよっか」


サッとロバートは洗顔を済ませ、二人で森へ出発した。


「とりあえず昨日行ったところの川を渡ったら全力疾走開始するね。なるべく止まらずに走りたいから頑張って着いてきて。どうしてもダメだと思ったり、何かあった時は声掛けてね」

「了解!」

「あとはー、もし万が一俺を捕まえることが出来たら一周回れなくても、即巡回隊に入れると思うからそっちも頑張ってみて」

「いや、そっちの方が無理だろ?!」


更にハードルを上げてくるロバートと連れ立って歩き、昨日の原っぱに着くと、軽く準備運動をしてロバートとアイコンタクトを交わす。


「準備はおっけー?」

「おう、バッチリ!」

「じゃあ、出発!」


──ヒュッ……


風となったロバートの後を追い、俺も風を纏って走り出した。

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