第23話 知識は力
たっぷり温泉を堪能し、満足した俺は逆上せる前に湯船から上がる。
やっぱ温泉いいよな、ちょっとめんどくさいけど俺毎日ここで入っていこうかな……
ロバートの家だと魔石必要だし。
そうロバートに提案すると、
「俺もそうしようかな。ここ、俺が入った時からあったんだけど誰も使ってなくてさ。湯船でお湯に浸かるのこんなに気持ちいいとは思わなかったから。これ知っちゃうと家の湯浴み室じゃ物足りないよな」
「オレもそうしようかなー。しかもなんか回復魔法かかってる時みたいな、温かい感じがしねぇ?」
と、ロバートとマシュー先輩も温泉が気に入ったみたいだ。
「温泉は色々身体にいい成分が入ってるみたいだから湯冷めもしにくいし、疲れも取れるって聞いたよ」
「え、ハヤテ、それホントか?なら俺も森に巡回行った時はこっちに入るようにすっかなー?」
温泉の効果に心惹かれたのか、ライアンも常連になりそうな予感だ。
みんな使うならやっぱもっと使いやすくしたいよなー。
今度棚とか置かせてもらおう。目隠しと脱衣所、欲しい!
着替え終わり、みんなでぞろぞろと食堂へ向かう。
そういえば、昼飯食べてなくない?
気づいたら急にお腹が減ってくる。
台所を覗くと、ソフィアさんがちょうど夕飯を作っているところだった。
「あら、どうしたの?」
「いや、お昼食べ損ねててお腹すいたからなにか食べようかなと……」
「そうだったの。ただあと少しで夕食出来るわよ?」
「じゃあ、軽くパンを貰っていきます」
パンひとつでもお腹に入れておけば夕飯まで我慢出来るはず。そう思ってパンをひとつソフィアさんに出してもらった。
ロバートも「あ、じゃあ俺も!」と二個パンを出してもらっている。
「ライアンとマシューは?」
「オレは夕飯たくさん食うからいいや」
「俺も」
「そう?」
二人は大丈夫と言うので、俺とロバートでパンを食べることにした。
「あ、またパン温めようか?」
ロバートが電子レンジを買って出てくれたけど、『魔法は慣れたらイメージ』っていうの、パンでも試したいなぁ。
「ありがと。でも俺自分でちょっとやってみる!」
もらったパンを手に電子レンジで温めるイメージで、魔力をパンに流す。
ほわ。
ちょっと魔力調整が上手くいかなかったみたいで、電子レンジで温めすぎた少し硬めのパンになってしまったけど、これも練習すればその内上手く出来そう!
やっぱ魔力、使えるとこはどんどん使って慣れた方が良さそうだなぁ……
パンをもぎゅもぎゅ頬張って、魔力調整の練習方法を考えてみる。
「え、お前らそれなにやってんの?」
ロバートと二人でパンを温めて食べているとマシュー先輩が眉を寄せて怪訝そうにきいてくる。
パン食べてるだけですけど?
何が疑問かわからなくてどう答えようかと思っているとロバートがドヤ顔で答えていた。
「これもハヤテの大発見!パンは温めると無限に食える!」
いや、食えねーよ……ロバートだけだよ。
俺の心の中のツッコミをよそに、マシュー先輩とライアンがロバートの持ってる二個目のパンを奪おうと三人でパンの攻防戦をしていると、隊長とジェシカが帰ってきた。
「お、お前らちょうど全員揃ってるな。夕飯前に今後の巡回について会議するぞ」
「全員?ハッサンとニコラスいないっすけど」
「ハッサンは買い出し、ニコラスは報告で二人とも王都に行ってもらったから今日はこれで全員なんだ」
「ニコラスが報告?あぁ、ケイレブ
あれ?また新しい人の名前?
「ケイレブって……?」
「あ、ハヤテとは入れ違いだったか。
そうして隊長の周りにみんなで座り直し、会議が始まった。
「今日ジェシカと森を一回りしてみたんだが、やっぱり様子がいつもと違うな。魔物たちがいつもと違うところにいることが多かった」
「森の外を
ジェシカが首をすくめる。
「宝珠の近くにもかなり魔物が増えててな。あと
「やっぱ宝珠の辺り、巡回強化してく方向のがいいっすよね」
ロバートが隊長に確認すると隊長は、あぁ、と頷いた。
「ロバートはとりあえず明日、ハヤテがどれくらいまで動けそうか森で確認してきてくれ。場合によっては巡回隊に入ってもらう」
「了解っす!」
……うん。
とりあえず何か異変が起きてるのは伝わってきた。そして俺の手すら必要なほど大変な事態なのも。
ただ基本的なことが全くわからん!
「ロバート、俺地理とかが全然わかんなくて……森の大きさとかわかる地図とかねぇの?」
せめて森の全体像が知りたいと、ロバートに地図を見せてもらおうとすると、
「あ、そうか!ごめんハヤテ。その辺まだ教えてなかったよな。ちょっと待ってて」
と、席を立ってどこかへ行ってしまった。
あれ、今一応会議中だと思うんだけど勝手に離れて大丈夫なのか?と、周りを見れば、最重要事項のすり合わせはいつの間にか終わったらしくみんな雑談モードに入っていた。
「おまたせっ」
すぐに戻って来たロバートが、
ドサドサっ。
と、持っていた本をテーブルの上に置いた。
そこから一枚の紙を取り出し、テーブルの上に広げていく。
そして中心部分を指差した。
「これが地図。えっと……で、この中央にあるのが王都。今ニコラスとハッサンが向かってるとこだね。俺たち守護団の本隊が、ここにある。守護団の仕組みってまだ教えてなかったよね?」
多分まだ聞いてない気がしたので頷いておく。
「一応、俺達の大元の所属は国の騎士団で、
「あ、なるほど。ちょっと疑問に思ってたんだよ」
なんでかな、とうっすら思ってた疑問が解消された。てか正式名称仰々しいなぁ。
「
あぁ、単身赴任の出張みたいなもんか。
なるほどなー。
……って、あれ?家族がいない?ロバート、俺とそんなに歳が変わらなそうだけど……
聞くに聞けずにいると、
「あ、俺親いないから」
それを察したのか特に気にすることも無くロバートは答えた。
「ほら、前に言ったでしょ。宝珠動かしちゃうと災害起きたり疫病流行るって。俺の村も疫病でやられちゃってさ。俺はどうにか回復したんだけど家族はダメだったんだよね」
「……他の村の人達は……?」
「んー、何人かは回復したけど結局村としてはやって行けなくなって散り散りになったかな。俺はその頃まだ十歳のガキだったし、他に行く宛がなくて路頭に迷いそうになってたんだけど……たまたま近くを巡回してた宝珠騎士団に拾われて、そのまま王都に連れてってもらったんだ」
あまりに辛い過去をあっけらかんと話すロバート。明るく振舞ってるけどいつもより下がった眉が、どうにかその辛さを乗り越えたことを物語っていた。
十歳で親もいなくて、知らない場所で生きていくなんて、相当辛かっただろう。
「まぁ、宝珠の災害は仕方ないとはいえ、なんで俺が……とは思ったけどね。だからこそ俺みたいなのを増やさないためにも宝珠は守っていかないと!」
ガッツポーズを取り、笑顔で前を向いて生きていくロバートの姿を見て、俺も早く
そのためにはやっぱり知識が足りない。
「宝珠って
「とりあえずわかってる限りで6つ。王都にあるのは光珠。守ってるのは俺らの本隊の王立騎士団。あとは、ここが蒼珠」
指したのは、海の真ん中にある島だ。
「で、ここは紅珠。ここが俺らの緑珠」
紅珠はどうやら火山帯の山の中にあるようだ。
そして
そしてこの森と同じくらいの砂漠がある。
「この辺りの砂漠地帯に黄珠があって、あとはこの大陸に黒珠」
黒珠のあると言う大陸は地図上黒く塗られ、地形がほとんど分からなかった。
「黒珠だけは守護団が居ないんだ。なんせこの大陸に行けないから守りようがないんだよ」
「大陸に行けない?」
「そう。何か特殊な結界みたいのがあるらしくて、下手に近寄ると波に飲まれちゃうって聞いたよ」
ん?
「誰も行けないなら、なんで黒珠があるってわかるんだ?」
俺の疑問に答えるべく、数冊の本に手を伸ばすロバート。
「昔の文献見ると、一昔前まではあの大陸と交流があったみたいなんだ。その時に黒珠を見た人がいる。ただ、ある時を境に闇に閉ざされてしまったらしい。多分その時に黒珠になにかあったんだと思うけど」
えぇ、大丈夫?魔王とかいない?
「王都にある本隊がさ、光珠の守りをしつつ、黒珠のもとへどうにか行けないか色々やってると思うんだよね。もし黒珠気になるなら王都の本隊に紹介状出せるからね」
「いや、行かないし!」
逆に近寄りたくないんですけど……
俺がお断りを入れるとロバートは安堵の表情を浮かべた。
「よかったー、せっかくハヤテ
「俺、まだ
「恩返しだなんて……!俺たちもハヤテが来て、毎回驚くことやってくれるから前より楽しく過ごせてるよ。だからそんなに気にしなくていいよ」
バン!と、ロバートは俺の背中を叩く。
「いってぇー!」
思ったより痛かったことに段々おかしくなってきて、俺が笑い出すとつられてロバートも笑い、なぜか二人で爆笑し始めてしまった。
「おう、お前ら楽しそうだな」
ずし、と俺の肩が急に重くなる。見上げてみれば俺の後ろに隊長が立っていた。
痛い痛い、潰れるー!
「隊長、ハヤテ潰れてるっす!」
「おー、悪い悪い!力加減がわからなくてよ」
いや、絶対わざとだった……
「隊長、とりあえず明日俺とハヤテで森を一周してくるっす。多分ハヤテならできそうな気もするんですけど一応。もし一周できれば巡回に混ぜても大丈夫だと思うんで」
「そうだな、それで頼む。俺たちは緑珠確認した後、
「了解っす。じゃぁ……」
くるっと、こちらを向きロバートが声高に言い放った。
「ハヤテ、明日は森を走って一周するよ!」
へ!?
森ってさっき地図で見ためちゃくちゃデカいやつだろ?
それを馬じゃなくて走って一周!?
「走ってって……あの森だろ?あの馬で何日もかかりそうな……」
「そりゃ普通に行ったら何日もかかるよ。だけど今日川でやったみたいに風魔法纏って走れば何倍も違うから。ただハヤテの体力と技術面は心配ないとして、問題は魔力なんだよなぁ。魔力回復薬何本持っていけば足りるかな……たくさん持ってくと走りづらいよね?」
「あぁ、俺の魔力量、カスカスだもんな……」
「本当はもっとゆっくり増やしていってあげたかったんだけどねぇ」
うーん、と二人で考えてみるも一晩で魔力は増えないし、結局魔力回復薬に頼らなきゃいけないのは目に見えてる。
マジックバッグみたいに無限にものを入れられるバッグがあればいいけど、ここにはないみたいだし。
なんとか小さくできねぇかな?
頭の中で、回復薬をおにぎりのように、ギュッギュッ、と握っている妄想をしていて、ふと思った。
ギュッと圧縮……?
とりあえず試してみるか?
「なぁロバート。今魔力回復薬持ってない?」
「いやー、俺必要な時ヘンリーせんせーのとこもらいに行くから持ち歩いてないんだよね」
「じゃあもらってくる!」
「あ、待って」
席を立った俺の手を掴んで待ったをかけると、ロバートは向こうの席で談笑をしていたライアンへ声をかける。
「ライアン、魔力回復薬ちょうだい」
「魔力回復薬?いいけど何すんだ?」
腰に下げていた小さいカバンから魔力回復薬を出すと、ほいっ、とこちらへ投げる。
それをキャッチし、ロバートは俺に手渡した。
「はい、回復薬。それどうするの?」
「ちょっと実験。あ、これ失敗して無駄にしたら怒られる?」
「何やったかにもよるけど、まぁ最悪ヘンリー先生の手伝いすれば大丈夫だと思うよ」
それくらいならいくらでも手伝うぜ!
なら、と、魔力回復薬のビンを両手で包み、火の魔力を身体に巡らす。
イメージは、魔力回復薬の水分の蒸発。
ビンの中で水分のみ蒸発させ、回復薬の成分のみ凝縮させていく。
しばらく意識を集中させ、手の中のビンを見てみると……
──カラン。
ビンの中に青い塊が出来上がっていた。
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