第17話 魔魚
俺とロバートが慌ててヘンリー先生と別れた場所へ戻ると、そこには誰の姿もなかった。
──ピリリリ……
もう一度笛の音が鳴る。
どうやら道から逸れた林の奥にいるみたいだ。
「この先、池があって道が少しぬかるんでることが多いんだ。滑らないよう足元気をつけて」
足を取られないよう慎重に進んでいくと、ロバートの言っていた池が見えた。
池と言うより、小さな湖のようなその
「ヘンリーせんせー、大丈夫?!」
慌てて駆け寄ると、ヘンリー先生は眉毛を下げて笑った。
「ごめんね、呼び出して……」
「何があったの?」
助け起こしながら事情を聞くと、ヘンリー先生はバツが悪そうに口を開いた。
「さっき水際の薬草を採取してたんだけど、底だと思って足を着いた先がネルムボの上でね。そのまま足に絡まって水の中に沈んじゃったんだ」
サラッと危ない目に遭っていた……てかネルムボ?魔物?
「ネルムボってどんな魔物ですか?」
水の中に引きずり込む魔物とか怖えぇな、と思って聞いてみれば、あれだよ、と池を指さされた。
池の水際には蓮の葉っぱのようなものが水面から生えている。
あー、あれ水弾くからちっちゃい頃、よく傘にして遊んでたなー。あれがネルムボ?
「あの葉っぱの茎は水の中ですごく長くて、とぐろを巻いて密集してるんだ。足で触ると底みたいなんだけど、体重かけると一気に水の中に沈んじゃう」
「もー、ヘンリーせんせー!気をつけてっていつも言ってるのに!」
ごめんごめん、と謝るヘンリー先生。さては常習犯だな?
でも今ここにいるってことは自ら脱出出来たってことだから、笛を鳴らす理由はないよな。
「魔物に襲われたわけじゃないんですね?」
「いや、それが……」
ちら、と池を見るヘンリー先生。
「転んだ時にマジックバックを池の中に落としてしまって……」
マジックバック?!
ってよく聞く、未来の猫型ロボットのポケットみたいに何でもたくさん入るやつ?!
え、俺も欲しい!
……けど、ヘンリー先生ここに来る時でっかいリュックサック背負ってたような?
「マジックバックあるのに、あんなに大きなリュックサック背負ってたんですか?」
聞いてみると、
「ああ、僕の持ってるマジックバックは空間拡張タイプじゃなくて、状態固定タイプだから。採取して育てたい苗とか、鮮度落としたくない薬草を持ち帰るのに使ってるんだ。中に入れておくと、入れた時のままの状態で持ち運びできるから。でもそのカバンの容量は変わらないからそこに入る分だけなんだけど。そのバッグをリュックサックに入れてたからかさばっちゃって……」
との事。時間停止するやつ……!それも凄い!……
「それを池に取りに行くのに人手が欲しかったんですね」
納得していると、少し険しい顔になったヘンリー先生が
ロバートを見る。
「……さっき取りに行こうと思ったんだけど、
「
二人、真面目な顔で相談し始めた。
レモラとシルルス……また謎の単語が……
今度こそ魔物っぽいな。
「……ハヤテ」
ロバートが水際で、ちょいちょいと手招きをする。
そっと近寄って、ロバートの指差す先を見てみると、何かが水面で跳ねていた。
「あそこで跳ねてるのが
「群れると強くなるとか?」
ロバートはあごに手を当て考える仕草をする。
「うーん……
ふーん、コバンザメみたいなもんか。じゃあもしかしたらその『主』ってのがいる可能性があるんだな、この池……
「その主って危険なのか?」
「この池だと、くっついてるのは多分
こんな奴がいる池の荷物を取るってことか。そりゃ確かに一人でやったら危ない。
「ヘンリー先生、荷物どのへんにありそう?」
「さっき足を取られたのが、あのネルムボの辺りだからその辺だとは思うけど」
「なんか棒みたいのあったら楽かな?」
周囲を見渡すと、木の枝のようなものが地面から生えているのが見えた。あれ使えそう!
近寄って見てみるとそこそこ頑丈で、長さもちょうどいい。
ロバートに選んでもらったナイフで、その植物の根元を刈り取る。
思ったより軽くて、茎を覗いて納得した。
空洞になっている。なのにこんなに丈夫なのかー!
軽く手に握ってみると……
……なんだろう、この手に馴染む感覚……
あ、あれだ。秋の遠足とかで山登りする時、ついつい拾いたくなる山登りの相棒、マイ木の枝!
お約束でそのまま振ってみると、その感触すら気持ちがいい。
これに決めた!
お気に入りの棒を手に、二人の元へ戻る。
「水の中のバッグ探すのにちょうどいい、木の棒みたいの見つけたー」
二人に俺の相棒を自慢する。
「あ、
「え、これ薬草?!」
「そう、切り傷に効く薬になるよ。あとは好みだけど食べられるし」
「まじ?」
しげしげと手の中の棒を見る。……優秀な相棒を手に入れてしまった……
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