第18話 池の主
池の淵から、蓮の葉っぱみたいな所を相棒でつつく。
棒の先が茎を引っ掛けたみたいで、引っ張ってみるとズルズルと出てきた。
うわ、まじで長い……なんかホースみたいだな。
あ!ちょっといいこと思い出した!これ何本か持って帰ろう。
ヘンリー先生のリュックサックを探しつつ、形の良さそうな
この池は透明度が高いが、先程から色々つついたり茎を引っ張ったりしているため、この辺りは少し濁ってしまった。
よく見えない足元を確認しようと身体の向きを変えた瞬間、また、くい、と引っ張られる。
頭をよぎったのは、子供の頃に観た怖い話。
──……水辺を歩いていると、突然無数の手が伸びてきて、足首を掴むと一気に水の中へと引きずり込まれたんです……!
「ゥワァァァーーー!!!」
「ハヤテ?!」
背筋がゾッとして思わず叫ぶ。
と同時に何かに引っ張られ、水中へ連れ込まれた。
流されまいともがいていると、離さなかった棒の先を、叫び声を聞いて駆けつけたロバートとヘンリー先生が掴む。
足の先の何かは、未だに池の奥へと俺を連れて進んでいこうとしていた。
二人がかりで岸辺へどうにか上げてもらい、掴まれた足を見てみるとかなりデカめの魚が二匹、俺のズボンの裾へくっついていた。
……え、ナニコレ?
「あー、やっぱ
何かツボったのか、ぷっ、と吹き出すロバート。
こちとら死にかけたのに笑われるのは腑に落ちないが、助けて貰った手前、水に流してやることにする。
「ロバート、ヘンリー先生、助けてくれてサンキュ」
「どういたしまして。でもヘンリーせんせー、やっぱこれ
「リュックサックは別にいいんだけどマジックバックだけはどうにか回収したいんだよねぇ。多分もう団では買ってもらえないだろうし」
二人で真剣に話し始めたところ申し訳ないんですけどー。
「ねぇ、それより、これ、どうにか、して……っ!!」
俺の両足の先には、未だにズボンの裾にくっついて、びちびちと跳ねる二匹の
止めてー!!
「もうダメーー!!」と涙を流して爆笑するロバートと、目に涙を浮かべつつも必死で笑いを堪えるヘンリー先生の手によって
「うぅ、腰が痛い……」
「はい、魔力調整の練習!腰に回復魔法を掛けましょう!目指せ魔力量アップ」
ロバートに言われ、そう言えば回復魔法なんて便利なものがあったんだった、と思い出す。
「
腰に手を当て、魔力を巡らす。じんわり温まる腰。
……あ!光らないように調整!!!……をし忘れて、見事に俺の腰は光ったのだった……
「昨日のお尻光らす事件といい、
ぐいっぐいっ。
涙目のロバートに聞かれるものの、そんなんこっちが聞きたいわー!
ぐいっぐいっ。
「しかも今度は何やってるの……?」
ぐいっぐいっ。
さっきから両足にくっついた
なんちゅー力だよ……
これはもうナイフでズボンの裾切るしかねぇかな?
腰からナイフを取りだし、裾を切ろうとすると「待った!」とロバートに止められた。
「切らなくても外せるから。ちょっとこっち来て」
と、水の中へじゃぶじゃぶと入っていくロバート。
両手に
「
すぽんっ。
吸盤が簡単に外れた。え、マジで?
「
「めっちゃ簡単に外れた……俺さっきめっちゃ苦労してたのに……てかこれ、どうする?」
「どうしようか?持って帰って食べる?」
「え、これ食えんの?!」
そこそこの大きさあるし、もし美味いならラッキーだ。
「あ、でも持って帰るのはやっぱダメだ。氷もマジックバックもない」
「ヘンリー先生のマジックバッグ見つけて入れてもらえば?」
「薬草と
確かに……。
「そしたら魔石だけ貰っとくか」
そう言ってロバートが
うわ、ほんとに中から魔石出てきた……
「それ、どんな魔石?」
捌いているロバートに聞いてみると、
「これは水の魔石。1個で大体湯浴み1回分かな?あ、ハヤテにこれあげるー」
と、手のひらに二個、魔石を握らされた。
1回分しか使えないのかー。でも台所にぶら下がってたやつ何度も使えてたような?
「台所の魔石?あれはもっとレアな魔物から取れてるやつだから。群れてる魔物からとれた魔石は大体使い捨て。レア個体とか亜種なら結構いい魔石持ってるんだけどねー」
「じゃあ団で使ってるのって結構いい魔石だったんだな」
「俺らが巡回で討伐したヤツから取れて、あえて売らないで使ってるやつだからそこそこいい状態じゃないかな?売ったらいい値段になると思うよ。価値があるから売るより自分たちで使ってる、って感じかな」
へぇ、あの魔石凄かったんだなー。大事に使わせてもらおう。
なんて話をしながら、ロバートが捌き終わった
慌てて二人で岸から離れる。
──……ザァァァァっ!!
水上バイクが旋回した時のように、派手な水しぶきが上がり、こちらにかかる。
「うわっ!!!」
水しぶきの合間から見えたのは、小型ボートくらいの大きさの魚だった。一瞬見えた顔にはヒゲがあり、ナマズの仲間?と思ったが鋭いヒレも見えたので違うのかな?
その鋭いヒレに、俺たちがさっきからずっと探していた、ヘンリー先生のリュックサックが引っかかっていた。
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