第15話 はじめてのおでかけ
「いやー、いつもあのパンって固くて途中でお腹いっぱいになってたんだけど、温めたら柔らかくなったからいくらでも入りそうでさ」
お腹をさすりつつ満足げなロバートと共にパパッと皿を片付け、森に出かけるなら装備しないと、と詰所の一部屋へ連れて行かれた。
中には鎧や革製の胸当て、武器などが置いてある。
「ハヤテはナイフのほうがいいよね?動きやすいほうがいいでしょ?ナイフだとこれとかだけど」
「結構種類あるんだな」
ナイフといっても大小様々で、形もそれぞれ特徴があるようだった。
「使っていく内に手に馴染むものが出てくると思うから、その時までのつなぎでこれ持ってて」
ロバートが選んでくれたのは軽めのものだった。確かに大きいと重くて腰から下げると違和感がありそうだ。これならいつもポケットに入れてたスマホより少し重いくらいなので慣れるのが早そう。
「それ、ベルトに通してね。あとは……この胸当てがいいか。はいこれ。これなら軽いけどそこそこ防御もあるから」
渡されたのは革で出来た胸当てだった。脇腹のところがベルトになってるからここで留めるのかな?試行錯誤しながら胸当てをつける。特に何も言われないから合ってたみたいだ。
「もうそろそろ行くかい?」
色々装備を見ていると、先に準備の終わったヘンリー先生が顔を出した。
大きめのリュックを背負い、採取用の器具のようなものがリュックの側面に刺さって収納されている。
「うん、そろそろ出れるよー!じゃ、行こっか!」
詰所を出て駐屯地の端まで行くとここを囲むように木が植えられていた。
「あれは?」
指さすとヘンリー先生が教えてくれる。
「あれは獣避けの木だよ。魔物はここまでこないけど、たまに動物たちが中まで入って畑荒らしたりするから入りにくくしてるんだ」
「へぇ。なんかこの木、見たことあるんだよなぁ……」
近寄り葉っぱを1枚むしって匂いを嗅いでみる。
……やっぱりこの匂い……
「
「これもヘンリー先生の『いい匂いだけど使い道がわからないシリーズ』だったりする?」
むしった葉っぱをクルクルしながら聞いてみると、ヘンリー先生は眉毛を下げた。
「えぇ……何その名前……でも確かに使い道がわからなくて。いい匂いだったから食べてみたけど苦くてねぇ。お茶に入れてみたけどそれもダメ」
苦さを思い出したのか、うぇー、と舌を出すヘンリー先生。
んー……
「多分だけど、それむしってそのまま使ったでしょ?」
「え、そうだよ?」
「この木……ってか葉っぱ、使うならガッツリ乾燥させてから使うやつだと思いますよ」
「え!?」
「うちでも育ててて、部屋ん中に乾燥させた葉っぱ置いてあったから」
そう、多分これローリエだかなんだかって葉っぱの木だ。たまに家の手伝いと称して母ちゃんに庭からむしってくるよう言われて、取ってきた時と同じ匂いがする。
「ちゃんと乾燥させないと、まっずいのよ!」って言って、いつでも使えるように常に部屋の中で乾燥させてたんだよなぁ。
「ハ……ハヤテくん……もしかして何に使うか知ってるのかい?」
「うちではビーフシチューとかポトフとかによく入れてたけど。あとハーブティー?にしても美味しいって親がよく飲んでました」
がしっ!!
無言で腕を掴まれる。ヘンリー先生の目がキラッキラに輝いてるけど無言で腕を掴んでくる。
なになになに?!だから怖いんだって!
「そういえば、ハヤテ昨日ヘンリーせんせーの使い道がわかってなかった葉っぱ、料理に使ってたよね」
ばっ、とロバートの方を向くヘンリー先生。意識はそっちに行ったけど手は離してくれない……
でもそうだった、勝手に使っちゃったんだった。
一言言っておくか?
「その話詳しく!!」
説明聞くまで離さないぞ、という固い意思が汲み取れたので俺とロバートで昨日の出来事を先生に話した。
肉に使ったハーブは詰所の裏で育ててるようで、それを聞いたらマシュー先輩が根こそぎ使いそうだ。その前に増やした方がいいよ、と提案をしておく。
「へぇ、
「
「もしかして僕の保管してる薬草、ハヤテくんなら生かせるかな」
いつもの変な勢いじゃなく、真剣な表情でこちらを見るヘンリー先生。
「いやー、俺も葉っぱ見て種類とかまではよく分からないんですけど匂いがあれば、何に使ってたかは何となくなら分かるかも?でもどこまで正確かは保証出来ないです!」
「それでもいいよ、もし良かったら僕の保管してる薬草全部好きに使っていいから!」
ガッチリ掴まれた両手をぶんぶん振り、よろしくね、と言ってようやく俺の手は解放された。
使い道、覚えてるかなぁ……
そんな話をしながら駐屯地の先の草原地帯を歩いていると、段々と周りに木が増え始め、少し先に小さな川が流れているのが見えた。
そこを渡った先にはこんもりした森が見えている。
結構大きい森なんだなー……
「君たちはどの辺まで行く予定なんだい?僕はこの辺りで採取しようと思ってるんだけど」
「今日はハヤテの様子見だからこの辺に俺達も居るよ。川の手前位で少し魔法の訓練してくるね」
「そうか」
これ、とヘンリー先生が親指ほどの筒を差し出す。なんだこれ?
「警報笛、渡しとくね。何かあったら鳴らして。もし鳴ったらすぐに離れられるよう準備するから。こちらが鳴らしたら申し訳ないけど戻ってきて欲しい」
「了解!」
じゃあまた後で、とヘンリー先生と別れ俺達は川の方へ向かう。
「この辺りの川は浅いから、向こうに渡るにはその辺の石を飛び越えていくんだ。少し上流に行くと結構魚が獲れるポイントがあるんだよ!今度は魚獲りに行こうね」
「へぇ、魚」
魚釣りかー、俺やった事ないんだよな。
友達で、趣味でバス釣りしてるけど釣れたら楽しい、釣れないと楽しくない!って当たり前のこと言ってる奴いたな。
ふ、と思い出し笑いをしながら歩いていると、川の横の開けた場所に着いた。
「ではハヤテ!全力で身体、動かそっか!!」
くるっと振り向いたロバートは、身体を動かすのが楽しくて仕方ない、と言っているのがわかるほど笑顔だった。
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