第11話 お肉最高


いい匂いシリーズの薬草を持って、詰所の食堂に戻るとテーブルには誰もいない。


「あれ、みんなどこ行った?」


視界を巡らせてみると台所の方から何やら人の気配がする。

……いやでも、あの台所にあの人数は入らないよな……?

まさかと思いつつ覗きに行くと、台所はぎゅうぎゅう詰めだった。

ちょ、みんな何してるの?!


「えっと葉っぱ持ってきたんですけどー、何してるんです?」

「お!ハヤテ戻ったか!よしじゃあ肉焼く準備だ!!」

「これどうやって焼く?!」

「ねぇちょっと!アタシ動けないんだけど!」

「おーい!オレ、ナイフ持ってるから寄らないでー!」


……カオスだ……

下手に近寄れず一歩引いて見ていると、少し冷静さを取り戻したみんなが少しずつ台所から出てきた。


「いやー、悪い悪い!久々の肉でテンション上がってたわ」


ハッサンがそう言い場所を開けてくれる。いや、場所空けられても……だから俺、料理は出来ないんだって!

手に薬草を握りしめて突っ立っていると、ニコラスが手を差し出す。


「その薬草使うんだろ?どうすればいい?」


……ダンディー!!


「えっと、うちで親がやってるの見てただけなんで細かいことはよくわかんないんですけど……」


と、とりあえず薬草をニコラスに渡す。


「本当は玉ねぎに肉を漬けたら何時間か浸け置きするみたいなんですけど、『これやると肉が柔らかくなって高級感増すのよ!』って言ってただけなのでとりあえずある程度漬けたら大丈夫だと思います。肉は普通に塩コショウして焼いて、その時に一緒にこの薬草を入れると肉の臭みが消えて美味しくなる……って言ってました」


へぇ、とニコラスは手に持った薬草を見て、


「これ入れるだけで味そんなに変わるのか。よし!じゃあ焼いてみるか!薬草の量分かるか?」

「いや、いつも家にあるやつ適当にちぎってただけっぽいので好みなんだと思います……」

「てことはあまり入れすぎても良くねぇな?まぁ物は試しだ、これくらいづつ入れとくか!」


ワイルドダンディーなニコラスは手際よく肉をどんどん焼いていく。

あまりの手際良さに俺は手持ち無沙汰になってしまった。ふと横を見ると大きめの鍋とじゃがいもが目に入ったので使っていいか聞くと、ニコラスは無言で頷いた。

鍋にじゃがいもと水を……水……

こちらを凝視しているロバートと目が合った。にっこり笑って無言で手招きをする。


「ロバート、水ちょーだい」

「そのために呼んだの?!ここに水の魔石置いてあるのに」


ここ、と指さされた先に色々な石が紐でくくられて壁に掛けられている。

昔小学校で見た固形石鹸みたい……

そのうちの一つを取ると、はい、と渡される。


「これ握ってウォーター使ってごらん」


言われた通り握りしめ「水よウォーター」と唱えると、自力で唱えた時は指先から滴る程度だった水が勢いよくジャバジャバ出てきた。

あまりの勢いに足元に水たまりが出来る。


「わぁ、何やってんの?!」

「ごめん、てかなんか勢いすごくて!」

「そりゃ魔石使えば誰でも同じだけ属性魔法使えるからね。使ったことない?」

「ない……」


蛇口のないシンクのようなところへ一旦手を避難させ、足元の水たまりを何とかしようとすると、ロバートが右手でそれを制止し、


「片付けは俺がやっておくからソレ、準備しちゃっていいよ」


と鍋を指差す。

じゃぁ、と鍋を手にしたところでもうひとつ聞きたいことがあったんだった。


「ロバート、ちなみに……」


振り返った先にロバートの姿は既になく、仕方なく肉焼きマシーンと化しているニコラスに尋ねた。


「あの……火ってどうやってつけるんですか?」

「なんだハヤテ。母親の料理作るとこは見てたのに魔石使うところは見てなかったのか?さては家の手伝い全然してなかったな?」


何故か思ってもみない方向から攻撃を食らったが、事実なので黙秘しておく。

そんな俺を見て、ふっ、と笑ったニコラスは


「火はこうつけるんだ、見てろ」


と実践してくれる。

台の真ん中に組み込まれている魔石へ指を置き、「爆ぜろブラスト」と唱えた。すると魔石を中心に円形に火が広がる。火のつき方は日本で見たコンロと同じようだ。

ありがとうございます、とお礼を言い、鍋を火にかける。中へじゃがいもを皮ごと人数分放り込むと再び水の魔石を握りしめ水を出した。

大体イモの半分くらいまで水を入れると塩を適当に混ぜ、そのまま沸騰するまで待った。

確かこれで皮が割れるまでふかせば、ふかし芋っぽいのできたはず……みんなで昔BBQに行った時に「こんなん水も塩もテキトーだー!」って北斗が作ったやつが美味しかったから……


またまたセンチメンタルな気分になりつつふかし芋を作っていると、ちょうど芋がいい感じになったところで肉も焼き終わったようだ。


「よし、出来たぞー!各自取りにこーい!」


ニコラスがそう声を掛けると一斉にみんな皿を持って台所に駆け込んできた。

こ……怖い……


「順番に持ってけよ!あ、隊長もちゃんと並んで!」


さりげなく一番初めに割り込もうとしていた隊長はアッサリ不正が見つかり最後尾へ並び直される。「肉が遠のくー……」とか聞こえるけど、聞こえない。

各自が持ってきた皿に、ニコラスが肉、俺が芋を一個づつ順番に載せていく。

そして並んでいる人たちの中で唯一知らない顔の人が前に来た。

あ、この人って……


「あの……ライアンさんですよね?俺……」


自己紹介しようとするとライアンさんはニカっと白い歯を見せて笑った。


「話は聞いてるよ、今日から入ったハヤテだよね?俺ライアン、よろしく!なんか色々面白いことするんでしょ?どんな人かなと思ってたら早速、肉と一緒に薬草食べるとか言い出したからめっちゃツボったわー」


ライアンさんは、これ味わって食べるね、と言い残し食堂へ戻っていく。

……また誰か俺のこと変な紹介の仕方したな!?


「よし、あとは俺たちの分だけだな。それ持って向こうに戻ろう」


全員に行き渡ったことを確認して食堂のさっき座っていた席へ戻ると、


「あ!俺食べてる途中だった!」


テーブルの上には食べかけのグラタンやスープが置きっぱなしだった。一緒に席を立ったはずのロバートはすでに食べ終わっている。まだ食べたかったんだけど冷めちゃったかなあ……


「ハヤテおかえりー!じゃあ早速食べよ食べよ!」


言い終わると同時にみんな一斉に肉へかぶりつく。


「え、なにこれ、うま!」

「塩胡椒に薬草足しただけなのに臭みがなくなって美味しくなってる!」

「これ大発見じゃない!?」


肉を口にしたみんなは口々に「うまいうまい」を連発し、あっという間に皿の上の肉と芋は消えていく。

勢いに圧倒されていると、


「ハヤテ?食べないの?」


ロバートが気遣わしげに声をかけてくるが、俺はなんとなく察している……目線が肉に行ってるからな……


「食べるからあげないよ?てかグラタンとか冷めちゃったのあっためたいんだけどどうしたらいい?」

「温め直すの?はい」


ふわ、とグラタンとスープに湯気が立つ。あ、爆ぜろブラストか!

なるほど、やっぱり魔法練習しよう……

ありがとう、と肉を半分だけわけてやるとロバートの目の輝きが増した。

さて、それでは異世界料理実食パート2と行きますか!


「いただきます」


ナイフで肉を細かくし、口へ運ぶ。塩胡椒とハーブだけのシンプルな味付けが逆に肉の旨味を引き出してるー!


「肉……最高……」


グラタンとスープも胃の中へ消え、満足感に満たされていると、各々いつもの自分の席と思われる場所で食べていたみんなが俺のテーブルの周りへ集まってきた。


「改めて、ハヤテよろしくな!初日から大活躍してくれて嬉しいぜ!」


俺の隣の空いている席へ座ると、隊長は手をグーにしてこちらへ突き出す。……これはあれか?グータッチ?

合ってるかわからず、そーっとこちらも拳を作り、拳を合わせる。

隊長ニッコニコだから多分合ってるかな?

ス、と後ろから左手が出てきた。上を見上げればライアンが立っている。その手にもグータッチをしておく。


「肉、美味かった!ありがとな!ハッサンなんか半分泣きながら食ってたよ」


おい、話盛るなよ!と言う抗議の声がどこからともなく聞こえる。


「皆さんの口に合ってよかったです。俺もさっきたまたまヘンリー先生に薬草色々見せてもらわなかったら忘れてたと思うんで」

「あの薬草、もっとたくさん育てようぜ!肉焼く時オレ入れたい」


マシュー先輩はハーブがかなり気に入ったようで終始ごきげんだ。俺と目が合いニコニコしている。

……いや、ニヤニヤしている……?

そしてとうとう吹き出した。

なんでさっきから俺と目が合うとそんな爆笑するわけ!?

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