第10話 おいしい夕食


食堂へ入ると、ふわりといい匂いが鼻を掠める。

あ、マシュー先輩とジェシカ姐……兄……ジェシカがいる。二人は既に食べ始めているようでテーブルの上には皿が載っていた。ちらりとこちらを見たジェシカと目が合ったので軽く片手を上げ挨拶をしておく。

ロバートは、おいで、と俺を奥へ連れて行った。


「夕飯は基本的にソフィアさんが作ってくれるんだ。ここに作っていってくれるから食べる分だけ自分で持ってって食べる。たくさん作ってくれるけど、遅くなるとみんな食べられちゃってなくなっちゃうことがあるから、ご飯できたらすぐ食べるのがオススメだよ。朝と昼は各自で用意してね。食材はこっち」


案内された先はさっきお茶を淹れた時の部屋だった。


「野菜はここ。パンはこっち。肉はなかなか新鮮なのは届かないから干し肉ね」


食材の場所を教わり、大体聞き終わったところで、じゃあ俺たちもご飯食べよう!と食堂へ戻る。

ソフィアさんが作ってくれたという今日の夕飯は、匂いから推測するとポテトグラタンとコンソメスープ、それとロールパンみたいなパンだった。よかった、食べ物の感覚は俺とズレてなさそう!食べ物、大事だよな。

まだ湯気のたつそれらをお盆のような物に載せロバートの後をついていく。

座った席はジェシカとマシュー先輩のいるテーブルだった。

まあそりゃそうか。他の人たちみんな出掛けてるって言ってたもんな。

では、異世界料理いざ実食!!


「いただきまーす」


両手を合わせ親指と人差し指にフォークを挟み、いただきますをしてからグラタンをひとすくい。はふはふしながら口へ入れると、口一杯にグラタンソースのクリーミーなコクのある味が広がる。続いて口にしたポテトもしっかり火が通っていてホクホクだ。美味いー!

パンは少し硬そうだったのでどう食べようかなと思っていたらロバートがスープに浸して食べていたので、少し行儀悪いかな?と思いつつ真似をする。

スープを吸ったパンは、スープに溶け込んだ野菜の旨味も吸って美味しさが倍になっていた。

食べやすくなった上、うまさ増すとか……神か!

全ての料理を余すことなく堪能していると、出掛けていた隊長たちが戻ってきた。


「いやー、腹減ったなー。隊長無茶振りばっかするんですもん」

「あんなのが無茶だなんて言ってたら仕事にならないだろ。それよりハッサン、外のやつ運ぶの手伝ってやってくれ」

「了解ー!」


ハッサンに何やら指示を出した隊長は、視線を送っている俺らに気づくと、「おう、ただいま」と片手を上げた。


「隊長おかえりなさい。なんすか?外のやつって。俺も手伝います?」


再び外へ出ていったハッサンを見てロバートが尋ねる。


「いや、あいつらだけで大丈夫だろ。実はさっき用事あるって言ったろ?それな、森に暴れ牛が出たって言ってたから様子見に行こうと思ってたんだよ。んで、出ようと思った矢先、たまたまここにいたライアンと、ここに戻ってきたあの二人、ちょうどいいから森に連れて行ったんだ」

「暴れ牛出たんだ、そりゃ急ぎの案件でしたね」

「全くだよ。しかも宝珠のあたりうろついてたらしいからな」

「最近森の主スフェーンもうろついてるし、やっぱり巡回強化したほうがいいっすよ」


隊長は腕を組みながら頷き、


「だよな。近いうち巡回ルート変更するぞ。んでその暴れ牛の群れを見つけたからとりあえず今日のところは散らしたんだがその内の一頭が氷穴の中に入っちまってな。そいつは討伐してきた。ちょうど氷もあるからしばらく保つぞ」


くい、とあごで外を指す。


「肉!」


隊長の言葉にロバートは目を輝かせてドアの外へ飛び出して行った。

肉?

そっとあとをついていきドアから外を見ると大きな木製の台車に乗っかった肉の塊と毛皮、それと大きな氷が目に入る。

でっか!

アレ、このドア入るのかな?


「──で、とりあえず毛皮とかは素材室運ぶだろ?問題は肉だよな。やっぱこのままだとでかいからもっと小分けに解体して、置き場所減らすために今日少し食べようぜ!」

「でも今日ソフィア帰ってるしまた戻ってもらうの悪いだろ?それともおれたちで作るか?そのまま焼くくらいしか出来ないし味付け塩胡椒だけだぞ?」

「シンプルでいいじゃん、せっかく肉あるなら食いたいよ、俺も!」


肉食いたい組ハッサン・ロバートを常識人ニコラスが諭している。

でも確かにあのままじゃ中には入らないから結局解体しなきゃなのかな?

ドアの隙間から外の様子を窺っているとロバートと目が合う。


「あ!ハヤテ!もしかして料理できたりしない!?」

「できません」


キッパリお断りを入れる。期待に満ちているところ申し訳ないけど、俺も料理は何かを焼くくらいしかできない。せいぜい卵を焼くくらい。料理はそもそも味付けがわからない。大さじ1とか何:何の割合で混ぜて……とか意味がわからない。料理は味付けイノチだろ、大雑把な性格の俺にはできない気がする。

……あ、でも待てよ?確かさっきヘンリー先生のところでアレ見たような……


「ねえロバート、ヘンリー先生のところにあった薬草って使ってもいいのかな?」

「へ!?薬草!?いきなり何のこと!?まあとりあえずあの部屋にあるものは守護団のものだから変なことに使わなければ大丈夫だけど……」

「そしたら塩胡椒と一緒にそこにあった葉っぱ入れればいいじゃん。確かハーブって料理にも使えるよな?」


うちの母ちゃんがハーブマニアで、うちでも何種類か育ててたし、ホームセンターに行くとガーデニングのハーブコーナーから動かなかったんだよなー。

んで、さっきヘンリー先生のとこにあった葉っぱ、名前はわからないけどよく肉焼くときに入れてた気がする。


「え、薬草入れるのか!?肉が不味くなっちまうよ?!」


ハッサンが驚愕の表情を浮かべている横で、ロバートが真剣な口調で口を開く。


「……でも、ハヤテだよ?今日、何か行動を起こすたびに色々やらかしてたハヤテだよ?やってみる価値はあるんじゃ……」

「……確かに……一理あるな……」


ちょっと、聞こえてますけど……


「ハヤテ、薬草の種類わかる?」

「名前はわからないけど置いてある場所はさっき見たからわかる」

「じゃあ一緒に取りに行こう。みんなは解体した肉、中に運んで食べやすい大きさに切っておいて」


あ、それなら……

とひとつ提案をする。

さっきグラタンに入ってたからどっかにあるはず。


「玉ねぎがもしまだ余ってたら、すりおろした玉ねぎにその肉つけておいてください」

「了解」


ハッサンたちに後を託し、俺とロバートはヘンリー先生の調合室へ向かう。

部屋へ入ると中は薄暗くなっていた。これ、灯りはどうつけるんだろ?

入り口で戸惑ってると後ろからロバートが手を伸ばし、「灯りよ灯れライティング」と唱えた。すると壁に備え付けられたランタンのようなものに灯りが灯り部屋が明るくなる。

魔法、便利だなー。

これも後で教えてもらおう、と思いつつ、調剤室の棚へ向かう。確かさっきヘンリー先生がウキウキで説明してくれた「いい香りがする」シリーズの中にあったような……

引き出しをゴソゴソしてみるとお目当てのハーブを見つけた。匂いを嗅いでみるとやっぱり母ちゃんが肉を焼く時いつも入れていたハーブの匂いがする。


「あったよー」


肉の量がわからなかったのでとりあえず片手で掴めるだけ掴み、ロバートに見せる。


「あ、これヘンリーせんせーが、『森に生えてていい匂いだからとりあえず摘んできて育ててるけど用途不明』って言ってる、とりあえず育ててみたシリーズじゃん」


何そのシリーズ。シリーズってことはまだ色々あるの?ちょっと気になるじゃん。


「これで本当に肉が美味くなったら、育ててたヘンリーせんせーも感激するよー」

「まじ?また弟子勧誘来たらどうしよー」

「その時は『ハヤテは俺の弟子!』って阻止する!」

「何だよ、それー!」


くだらない会話をしながら俺たちは調剤室を出て、肉楽しみだなーと言いつつ、詰所へ戻るのだった。







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