第4話 首輪を手に入れた


とりあえず首輪はジェイドさんのその場の冗談……という訳ではなかった。


「じゃあ用意するからとりあえず俺の家に移動するか」


そう言って席を立ったジェイドさんの後ろを俺とロバートさんでついて行く。外に出るとやはり小ぶりなログハウスが点々と建っていて村というか集落みたいな感じだった。あ、畑っぽいの耕してる人がいる……自給自足?

キョロキョロしている事に気づいたロバートさんが「なんか気になるものでもあった?」と聞いてくれる。面倒を見る、という先程の言葉は本気だったみたいだ。


「さっき畑を耕してる人がいましたけど、ここは村みたいな感じですか?」

「畑?あー、あれか!うーん、村と言うより俺たち緑珠守護団の駐屯地って感じかなー?団員が交代で大体二.三ヶ月位の間隔で家とこっちを行ったり来たりしてる感じ。一応食料は定期的に届くけど万が一のために最低限の食料は育ててるんだ。そういえばハヤテは家どの辺り?みんなみたいに交代勤務にする?それとも、俺と隊長はこっちメインだからほぼここに住んでるみたいなもんなんだけどハヤテもそうする?」


家、かぁ。ここ以外行くとこないし、ここに住まわせてもらった方がいいかな?この世界の常識とかほとんどわからないし、正直今はロバートさんとジェイドさん以外の人とうまくやれる自信ないし。北斗だったら得意のコミュ力ですぐ全員と仲良くなれそうだけど。あ、祐介に借りたマンガ返すの忘れてた。あれ、前から返せって言われてたんだよなー。前からといえばチームみんなで焼肉行こうって話あったよな。結局まだ行けてないけど。……行きたかったな……それと買い物頼まれてたんだった。水も買い忘れてたな……


……ひとつ思い出すと、芋づる式に友達との思い出が溢れてくる。後から後悔しないよう常に楽しく前向きに生きてきたつもりだったけど、何気ない日常の中でもやり残したことって出てくるもんなんだな。


急に黙り込んだ俺の頭をぽん、と撫でる手。ロバートさんだ。


「ハヤテにはまだ色々教えることがあるから当分ここに住もうか。俺が面倒見るって言ったしな。俺の家、使ってない部屋あるからとりあえずそこにおいでよ。ね?」


頭の上の手の温もりがじんわり胸に染みてきた。俺マジでこの人に感謝しかないよ。


「よろしくお願いします」

「任しといて!」


そして少し歩いて、他と比べてややしっかりした作りのログハウスの前で立ち止まると


「さて、とりあえず隊長の家着いたからまずは首輪作ろう!」


と、にこやかな笑顔を向けるのだった。

え、首輪ってマジな話なの!?

そのまま家の中へと連れていかれる。入ってすぐの部屋はとても大きくて一般的な家とは少し違うようだ。


「隊長が戻ってくるまで適当にその辺の椅子に座ってて!俺、お茶入れてくるからちょっと待っててな」


お茶!?それってもしかしてお湯を沸かす魔法が見れるチャンスってことじゃない?俺はロバートさんについていく事にした。


「お湯沸かすとこ見てていい?」

「いいけどなんも面白いことしないよ?」


二人でキッチンのような部屋へ着くとロバートさんは木でできたヤカンくらいの大きさのふたのない急須のような容れ物を取り出し、カウンターへ置いた。その急須もどきへカウンターにあった鉢植えの葉っぱをちぎって数枚中へ入れる。


「来たれウォーター


ポコッ、と急須もどきから水が湧き上がる音がする。おお……!


「……爆ぜろブラスト


ボコッ、と急須もどきの水から湯気が立ってお湯になる。ふおおお……!


「ふっ……そんなテンション上がるような面白いことしてないけど喜んでもらえてよかったよ。じゃあ棚からコップ3つ持ってきてくれる?さっきのところへ戻ろう」


言葉に出さなかったのに何故かテンションが上がってたのがバレていた。何故だ……

言われた通りコップを取り出し、先ほどの部屋へ戻る。それにしても……


「あの、ジェイドさんってここで何人と住んでるんですか?家めっちゃデカくないですか?」


そう、この家めっちゃでかい。今向かってる最初の部屋だけでも教室くらいの広さがあった。


「ここは隊長の家っていうか緑珠守護団の詰所みたいな感じかなぁ?さっきの部屋は普段は団員の食堂として使ってるけど緊急時には会議で使ったりするよ。ここに団で管理しなきゃいけないものとかあるから隊長プラス何人かが交代で詰めてるんだ。今隊長はその管理倉庫に置いてあるものを取りに行ってるからもうすぐ戻ってくると思うんだけど……」

「お待たせ。おー、お茶入れてくれてたのか。サンキュー!」


ロバートさんが言い終わると同時にジェイドさんが戻ってきた。手に箱を持ってるけどそれがまさか……首輪!?


「とりあえず魔力の登録するか!」


箱の中には親指の爪くらいの大きさの緑色の石が何個か入っていた。そこから一粒つまみ出すとジェイドさんは俺に手渡した。これをどうしろと?


「それはここの緑の宝珠のカケラだ。宝珠の周りにたまに落ちてるんだよ。緑珠守護団ウチの団員たちは緑珠のカケラそれに自分の魔力入れてアムレートゥムお守りにして肌身離さず持ち歩く。どこにつけてもいいけど大体みんな首につけてるな」


ほら、とジェイドさんが服の襟をずらして首元を見せてくれる。そこには今俺がもらった石とちょっと色が違う似たような石のはまったチョーカーの様なものをつけていた。首輪ってそういうのかぁ……よかった、ペット的なやつじゃなくて……!

予想と違ったことに安堵していると、ジェイドさんはちょんちょんと石を指差した。


「その石に魔力を入れると、その人の魔力に反応して少し色が変わる。全く同じ魔力のやつはいないからその石はそいつだけのものになる。その石の魔力を国に登録すれば、身分証代わりってワケだ。各地の関所抜ける時とか必要になるから、ソレなくすなよ?もう一回作ればいいけど作れる場所は宝珠の守護団のとこだけだから急いでる時不便だぞ」

「俺、一回それやってみんなに置いて行かれたことあるんだよ。慌てて再発行してみんなを追い掛けたんだ。あの時は俺足早くてよかったって実感した……てかハヤテ、石も初めて見る?てことはまだどこの団にも所属してなかったんだね。初めてなら魔力の込め方、もしかしてわからなかったりする?」


素直に頷く俺。するとロバートさんが俺の背中に手を当てた。


「一旦ちょっと石を置いて、胸の前で手を組んでもらっていい?組んだら背中の俺の手に意識を集中してみて。少し俺の魔力流してみるけど、これわかるかな?」


背中に置かれた手の温もりとは別に、死にかけてた時にかけてもらった回復魔法のような温かいものが流れてくるのがわかる。


「今この魔力を背中から右腕、左腕、また背中ってぐるっと回るように流してみるから意識で追ってみて」


意識を集中してみると、言われた通り背中から右手、左手、また背中とぐるっと回っているのがわかる。何周かするうち、ロバートさんが初めに流したものとは違う流れがあることに気がついた。


「魔力の流れは掴んだみたいだね。そしたら俺の魔力は徐々に減らしていくからね。でも意識はぐるぐる回すの続けてて」


そう言われた後、背中の温もりが徐々に離れていく。完全に背中の手が離れたところでロバートさんは先ほど俺が一旦机に置いた緑珠のカケラを摘むと、胸の前で組んでる俺の手を少し開きそこにカケラをねじ込んだ。

しばらくそうしていると、組んだ指の間から少しづつ光が漏れ出した。緑のような青のような淡い光が。


「そろそろ大丈夫かな。手、開いてみて」


集中していたため強く握りしめていた手をそっと開くと、先程まで緑一色だった石はミントグリーンとターコイズブルーの合わさった色合いになっていた。

おお、思ったより綺麗!

つか、俺にも魔力あったんだ……しかもこんな綺麗な色……嬉しいっ!


「はい、これでハヤテのアムレートゥムお守り完成!どこにつける?」


ロバートさんがジェイドさんの持ってきた箱の中からチョーカーやブレスレットなど色々な素材を取り出す。すると、魔力を込めている間ずっと生温い目で見守っていたジェイドさんがチョーカー素材を指差す。


「俺は断然首輪をオススメするぜ。アムレートゥムお守りは着けてるところを特に守ってくれる加護があるんだが、手とか足とか千切れても息がありゃ回復魔法でどうとでもなるが、首が千切れたら一瞬で死んじまうからな!」


全開の笑顔で物騒なことを言うジェイドさんの意見に、俺は全力で乗っかった。


「じゃあ、首で!!」


こうして俺は、強力なアムレートゥムお守りと言う名の首輪を手に入れたのだった。

てか、首輪じゃなくてチョーカーって呼ぼうよ!!






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