第3話 生きるために


「ロバートさん!改めまして命を救っていただきありがとうございました!」


ここで新たに生きる決意をした俺は改めて命の恩人に頭を下げた。あそこでロバートさんに回復魔法をかけて貰えなければあの森で命が尽きていただろう。

そういえばあの時何故かいきなり走らされたのはなんでだ?


「あの、ところで回復魔法かけてもらったあと全力で走らされたのはなんでですか?」


この世界は魔法をかけた後走らないと効かないんだろうか?


その答えをくれたのはロバートさんではなくジェイドさんだった。


「ハヤテ、気づいてなかったのか?それともぶっ飛ばされた衝撃で記憶飛んでるのか?お前さんなんで森にいたかは知らないが森の主スフェーンに体当たりくらって死にかけてたんだよ。森の主スフェーンも岩に頭ぶつけて気を失いかけてたけど、俺らがハヤテ見つけてなかったらあの後すぐに踏み潰されてトドメ刺されてたとこだぞ」

「え?!」

「俺らは元々森の主スフェーンを探しに森に入ってたんだよ。手分けして探してたらドカーンってすげー音がしたから俺とロバートでそっち向かったんだ。そしたらちょうど宙を舞って地面に叩きつけられるハヤテと岩にぶつかってフラフラしてる森の主スフェーンが目に入ってな。ロバートは回復魔法使えるし、生きてりゃどうにか動けるようになるだろうと思って回復してもらったんだ。魔法かけてる間に森の主スフェーンが正気に戻り始めたからロバートに囮やってもらって、俺らは追いつかれないようバラバラに逃げるつもりで『走れ』って言ったんだよ」


そして隊長がだんだん笑いだした。


「そしたらまさかお前さん囮やってるロバートの後ついてくだろ?!森の主スフェーンはそっち追っかけてくし、俺も慌てて戻って後追ったけど追いつけないし。あの時は焦ったぜー!ロバートだけなら逃げ切れるけどお前さんは絶対追いつかれてられると思ったからなー。ロバートお前少し手を抜いて走ってやったのか?」

「いやいや!俺まさかついてきてると思わなかったから全力で走ってたんスよ!よっしゃー!森を抜けたー!って思って振り返ったら森の入口にハヤテが倒れてて……俺と同じスピードで走れるなんてすげーっす」


あの時のことを思い出したのか、ロバートさんの心の扉は開かれたようで今は俺にキラキラの笑顔を向けている。


「俺、逃げ足だけは誰にも追い付かれない自信あったのに俺の唯一の自慢がなくなってしまうー!ってちょっとショックだったけど嬉しさが勝ったんだよな。なぁ、ハヤテ。それだけ身体能力高ければどっかの団所属してるんだろ?俺たちの団に転属しないか?」


団?


「あれ?ホントに森の主スフェーンに吹っ飛ばされて記憶なくなってる?」


ロバートさんが不安げに俺の顔を覗き込む。

記憶がなくなってるというか、この世界がどんなとこか全くわかんないんだよなぁ。わからないままだとこれからの生活に支障が出そうだし、この二人なら聞いたら教えてくれそうだし教えてもらおうかな。

そう思い立ち、そろーっと手を上げる。


「あのー……ちょっと色々わからないことがありまして、そもそも森の主スフェーン?とか団とかなんですか……?」


ロバートさんとジェイドさんが目を合わせ、再び俺を見ると二人揃ってまるで残念な子を見る顔になった。解せぬ。

そこから子供に伝えるように丁寧に色々教わった。(ロバートさんに至ってはしゃがんで目線を合わせてきた)


曰く、やはりここは剣と魔法の世界。科学?ナニソレ美味しいの?レベルで機械的なものの話は通じない。

火をつけたり水を出したりは魔法か生活魔石と呼ばれる魔法を貯めておける小さな石のカケラを使う。

魔石は鉱石として発掘するか魔物と呼ばれる魔力を内包した生物の体内から採れるらしい。なんとドラゴンとかもいるらしく、ドラゴン!?と心の中でこっそり恐れおののいておいた。

そんな魔石も普通は大きくても小石サイズらしく、大きいものはほとんどないらしいんだけど、世界各地に『宝珠』と呼ばれる稀に見つかるデカい魔石があって、その宝珠を発見された場所に置いておくことによってこの世界の魔力が安定してるんだってさ。


「もしその宝珠が動かされたりしたらどうなるんですか?」

「まぁ故意に動かすバカをやるやつはいないが、過去に洪水で流された時は宝珠があった辺りを中心に瘴気が溢れて疫病が流行ったな。この辺りみたいな森の中だと植物が枯れたり動物が死んだり……後共通してるのは天変地異が起きたりするな。要するに世界がヤバい事になる」


ジェイドさんはそう言うと眉間に皺が寄り苦々しい表情になった。その時のことを思い出したのかもしれない。その表情をチラリと見たロバートさんも何か思いつつ、でもその表情を隠すように明るい笑顔で言葉を繋いだ。


「そーゆーことにならないよう、宝珠が発生したらそこから動かされないよう宝珠の周りを守って管理するのが俺らみたいな各地の宝珠の守護団。宝珠は発生した場所によって色が違うから大体その色にかけた守護団名をつけるかな。この辺りの宝珠は緑だから俺たちの所属してる守護団は緑珠守護団と言う名前。ここの宝珠、すっごい綺麗な緑なんだよ。見てるだけで回復魔法かかってるみたいなあったかい気分になるんだ」


そう言うロバートさんの表情はまるで温泉に浸かっている時みたいなリラックスした顔だった。確かに死にかけてた時かけてもらったアレ、めっちゃあったかくて気持ちよかったな……

てか回復魔法……そう!回復魔法!!

あれ使えたらいいよな。魔法とか全男子の夢だと思う。俺でも使える様になるのかな?


「ロバートさん、俺に回復魔法使ってくれましたよね?あれ、俺でも使える様になりますか?」

「回復魔法?まあ魔力の相性にもよると思うけど使えるんじゃないか?そんなこと聞くってことはもしかして自分の属性とかも忘れちゃった感じかー……」


属性どころか魔法について全く知りません……とは言えず日本人の必殺技、愛想笑いで誤魔化す俺。なんとなく察して子供を見るような生温い目で微笑むロバートさん。……ヤメテ……そんな目で見ないで……

そしてロバートさんはおもむろに引き攣った愛想笑いの俺の両肩を掴むと、力強く言い放った。


「よし!わかった!さっきもちょっと言ったけどやっぱりハヤテうちの団に入ろう!?魔法とか他にも色々忘れちゃってることあるなら丁寧に教えるし、俺がちゃんと面倒見るからさ!ねぇ、隊長、ハヤテうちの団所属にしてもいいっすよね!?」


ちょっとロバートさん!?何その『拾った犬うちで飼ってもいいでしょ、おかあさーん!おれちゃんと散歩行くから!おねがーい』的なノリ!


「そうだなぁ……頭がちょっとアレそうだけどロバートについていける身体能力は欲しいよな」


ちょっとジェイドさん!?ぼかしてるようで全然隠れてないんですけど!?アレってどーゆーコトですかね!?


心の中のツッコミの嵐が止まらない間に二人の中で俺がここの団に入ることが決定したらしい。まぁ確かにここを出て一人でどうにかしろと言われたら野垂れ死ぬ未来しか見えないので俺の選択肢は一択なんだけれども。


「あの……じゃぁ……お世話になります!」


若干のペット感が否めないのが気になるけど……

苦笑いの俺へジェイドさんは握手をするように右手を差し出した。

そして爆弾を投下する。


「よし!ようこそハヤテ、我が緑珠守護団へ!なら早速首輪作るか!」


え!?やっぱり俺、ペット枠なのー!?

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