第2話 気がつけばそこは
ドン!!
吹っ飛ばされ全身に走る、痛みを通り越した激しい衝撃。
あ、俺終わった……まだまだこれからたくさん大会出たかったのに。もっともっとパルクールやりたかったな……──
全く動けない身体に死を身近に感じた俺が走馬灯を見始めた時、
「おい!お前生きてるか!?息はあるか!?」
上から声がかかる。
生きてるよ、今は、だけど。でも多分今から救急車とか呼んでも間に合わないだろうな。そう思いながら俺は意識を手放……す訳にはいかない。まだ俺にはやり残したことがたくさんあるんだ!最後の力を振り絞って叫んだ。
「生……きてる!!」
「あ!まだ息あるか!?よかった!生きてれば回復魔法でどうにかなる!俺の魔力じゃ全快には届かないかもだけど回復したらとにかく走れ!!」
……
聞きなれない、いやある意味聞きなれた言葉に疑問を抱いた一瞬の間に全身が暖かい光に包まれ身体が動くようになった。
起き上がるとそこは森の中。
???
情報が処理しきれず呆けていると再び声がかかる。
「全力で走れ!!!!」
そこからは現状把握は後回しにしてとにかく全力で走った。後ろから不穏な気配を纏った巨大なナニカが追いかけてくる気がするが気にせず走る。森の中は木や岩が往く手を阻み走りにくかったがパルクールの応用ですぐコツを掴み、声をかけてくれた人の後を追いかけたものの追いつくことはできずついていくのがやっとだった。こんな訳のわからない状況でこの人まで見失ったら途方に暮れるのが目に見えている。ひたすら走り続けそうしてどうにか森を抜けたところでとうとう俺は力尽きて倒れた。
「う……?」
目を開けてみるとどうやらベッドに寝かされている様だ。筋肉痛のような痛みはあるもののあの全身を覆っていた痛みはない。
てか……ここどこだ?病院というよりログハウスのような木製の小屋の中みたいだ。
靴のまま寝かされていたのでそのままベッドを降り窓から外を覗くと目に見える範囲に点々とログハウスが建っている。……なんだ、ここ……キャンプ場?
いや……目を背けている、事実確認をしなければいけない案件がひとつある。
聞きなれないけどよく聞く単語。跳ね飛ばされて全く動かなかったのに動くようになった身体。コンビニにいたはずの俺が市街地ではあり得ない森の中にいたこと。
導き出されるその
ガチャ。
扉が開いて顔を出す金髪碧眼の、見慣れないデザインの服を着たハリウッドスターの様なイケメン。
「あ、目を覚ましたんだね。倒れたのが森の外で良かったよー。森の中だったら多分俺気づかなくて置いてっちゃってたからさー」
キラキラ笑顔の外国人イケメンから紡がれる流暢な日本語。
だけど……なんで……
「なんで口の動きと言葉が合ってないんだよー!!!!」
俺の心の叫びは実際に口から飛び出していたようでイケメンは俺に話しかけた時の笑顔のままそっと後ろ足で下がっていき
ぱたん。
扉を閉めた。
その後、慌てて後を追い『起きたばかりで寝ぼけていた』と謝り倒しどうにか改めて自己紹介することに成功した。
イケメンはロバートと名乗り森で俺を助けてくれた人物で、森を出て力尽きた俺を自分の家まで運んでくれたらしい。
そこまで聞き出したものの心の扉はまだ若干開かれておらず視線を合わせてもらえない。解せぬ。
ドンドン!
微妙な空気が流れる中、玄関のドアを叩く音がした。
「おい、ロバート。俺だ。少年の具合はどうだー?」
「あ、隊長!今開けます。少年……ハヤテも今目を覚ましました」
ドアをくぐり現れた隊長と呼ばれた人は燃えるような赤い髪に緑の瞳を持ったゴリゴリのマッチョだった。腕、俺のふくらはぎくらいあるんじゃないか……?
突然現れた筋肉に恐れ慄いているとマッチョは俺が座っていた椅子の向かいへドカッと腰を下ろすと二カッと白い歯を見せ笑った。
「俺はジェイド。緑珠守護団の一応隊長だ。ハヤテと言ったか。お前
そう言って俺のシャツの裾を手に取り繁々と眺めている。
俺が着ている服はパルクールの練習の時好んでよく着ている服で動きやすさ重視のどこにでもあるロンTとパンツだ。
「見たことない生地だなー」「高そうだなー」「靴も革のブーツじゃねーんだな」と俺の服に興味津々のジェイドさんを見て、俺は認めたくないけど受け入れなければならない事実と向き合うことにした。
やはり口の動きと耳に聞こえる言葉が合っていない。
そう、それはまるで映画の吹き替えをリアルで体感しているようなありえないことだった。
思いつくことはただひとつ、そんなありえないことがありえる世界。
最近ネットでよく聞くコレがまさか自分の身に起きるとは……
実際起きるとは全く思ってなかったけども!
でも跳ねられた時のあの痛みは本物だった。あれが夢だとは思わない。
『人生楽しんだもん勝ち!』
どこで聞いたんだったか、小さい頃から座右の銘として掲げてきた言葉。この言葉を胸に俺はここで生きていく決意をした。せっかく生き延びた人生、楽しまなきゃだよな!
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