異世界行ったら……

片馳 琉花

第1章 緑珠守護団 編

第1話 それは突然に……


「おっはよー!はっやてー!!」


どすん!


欠伸を噛み殺しながらまだ半分寝ぼけつつ通学路を歩いていると、後ろからいきなり体当たりを食らう。

こっの……!


「おっはよー!じゃねーわ、バカ!いきなり体当たりとか殺す気か!」


振り返り、反撃の拳を振り上げるとひらりと避けられ俺の拳は空を切る。


「おい北斗!避けるなよ!」

「いや何言ってんの、避けるでしょ……疾風はやても体当たり食らいたくなかったら避けてみなー!」

「お前らうるさい!」


ガン!ゴン!

と俺と北斗の頭に拳骨が落ちる。


「朝から通学路で暴れない!他の人達に迷惑だろ!」


五月に入り、桜から新緑の並木へと変わった川沿いの土手の通学路を俺と北斗、拳骨を食らわした祐介の三人で並んで歩く。

確かに周りを見れば幅の狭い土手の上は他の生徒も沢山いてあと少しで他の人にぶつかるところだった。

あっぶねー……


「祐介、わりー。てかおはよー」

「おう、はよー。てかなんでそんな2人とも朝からテンションたけーの?昨日のテストの点、そんなに良かったのか?」

「祐介、おれと疾風はやてが点数ごときでテンション変わると思う?」

「そーそー!俺は点数気にしねーな。座右の銘は『人生楽しんだもん勝ち!』」


戦隊ポーズのようなものを取り、祐介をビシっと指差す。

三人でわちゃわちゃ喋っていると、うるさかったのか前を歩いているさっきぶつかりそうになった男子生徒がこちらを振り返った。

メガネと長い前髪で顔がよく見えないが、何となく不機嫌そうなオーラを感じ取る。そして、俺が見ていることに気づくとふいっと顔を逸らし早足にその場を去っていった。


「やっべ、うるさすぎて怒らしちゃったかな?てかあんなやついたっけ?」


コミュ力強めの、入学式から一ヶ月で友達百人できるかなをほんとに実現してそうな北斗に尋ねると、


「あー、あいつね。隣のクラスの……忍者」

『忍者?!』


俺と祐介の声が仲良くハモった。


北斗曰く、別の高校に行っていたが引きこもりが原因で留年しそこを退学して、うちの高校に入り直した人で、クラスメイトと話さないどころか存在感も皆無で、気づくと気配もなく背後に立っていたりするらしい。そのあまりの気配の消しっぷりに周りは陰で彼のことをこう呼んでいるという。しかも名前が『服部はっとり しのぶ』。


「だから『忍者』……」


高校生にもなってそれはあまりに恥ずかしいあだ名じゃね?

って普通なら思うところだけど……俺も『忍-SHiNoBi-』名乗ってるしなぁ……


「そいや疾風はやて、今日の練習どうする?」


忍者とあだ名される男子生徒の話題は膨らむことはなく、北斗が振った話題へと移っていった。


「ジム行こうかと思ってたけど今日意外とメンバー集まれそうなんだよ。だから公園にしよーぜ」

「お、マジ?なら久々に動画も撮ろうぜ!何気に再生数伸びてるんだよ、パルクール集団:チーム『忍-SHiNoBi-』!新作投稿するからチャンネル登録よろしくぅー!」


そう言いながら北斗は「おはよ」と声をかけてきたクラスメートに突撃していく。そしてそのまま「先に行ってるー!あとで時間と集合場所グループチャットよろー!」と嵐のように去ってしまった。


「相変わらずコミュお化けだな。てか北斗言ってたのマジ?俺らの再生数伸びてんの?」

「あー、俺も北斗に前それ聞いて見てみたら結構伸びてた。一番人気は疾風はやてのやってたパルクール紹介動画だったぜ?大会練習用に撮ってたスピードとフリースタイル動画編集したやつ」

「え!?俺それ初耳なんだけど!」

「バズったら一気に有名人になれるんじゃねーの?てか、あれ?なんか予鈴鳴ってね?急げ!」

「あ、ちょ!祐介待てって!」


遠くで微かに聴こえる予鈴に向かって走り出した裕介を、俺は慌てて追いかけた。


放課後、公園に集まった俺たちはいつも通り練習したり新作動画を撮ったりしていた。

この動画キッカケでパルクールに興味持ってくれる人増えたらいいなー。

俺がパルクールを始めたのは小学校5年生の時。小学校に上がる時、習い事を色々見学に行っていた際に体操教室にいた少し年上のにーちゃんの動きに憧れてその体操教室に通っていた。にーちゃんは才能があったらしく途中でもっと大きな教室に移っていったけど、俺はその教室でそのまま習い、その後入ってきた北斗・祐介と仲良くなった。

5年になった時、何気なく3人で体操の技の動画を見ていた時にオススメで流れてきた一本の動画。街中の塀や壁の障害物をものともせずこの身一つで全力で駆け抜けていく疾走感溢れるそのパルクールの動画に俺たちは一瞬で魅せられてしまった。

そこからは体操教室を辞め、独学でパルクールを始めた俺たちはチーム『忍-SHiNoBi-』と名乗って同じパルクール好き同士で集まりたまに大会に出たりして充実なパルクールライフを送っている。

大会で優勝経験も持つ俺たちは次の大会でもいい成績を残せるようこうして時間の許す限り集まって日々練習に明け暮れているのだ。


休憩中小腹が空いた俺は「ちょっとコンビニ行ってくるー」とチームメイトに告げる。


「あ!そしたらついでに俺の分のミネラルウォーター買ってきてくんね?」

「おっけ!」


おつかいも頼まれ、近くのコンビニへ向かう。

水と、軽く食べられそうなサンドイッチやおやつを手にレジへ並ぶと前に並んでいたのは朝話題になった『忍者』こと服部だった。

猫背気味でややポッチャリだが、背筋を伸ばせばもしかして俺より背が高いんじゃねーかなー?となんとなく見ているとこちらをチラッと見た服部の目が驚きに見開かれた。


「──……!!……うしろっ……!!」

「え?」


振り返ると目の前に大型トラックが飛び込んできた。

──文字通りコンビニのガラスを突き破って。

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