第6話 売れること

 成川涼晴は私と同い年の二十四歳になる年。

 特別人気があるわけでは無いし、売れているわけではないと言うか、なんというか……。いつもは大体チョイ役なのに、今回私が初めて会ったのはかなりの大きい仕事だったと思う。悪役だったとはいえ、出番が多かった。なんというか……

「親の気持ち……」

独り言を呟きながら会場に入る。今度は一人で成川くんのイベントに参加した。 

 普段は舞台の稽古をしながら、モデルの仕事をしているようだ。顔も綺麗だがスタイルも完璧だと思う。そして何より顔が良い。

 成川くんはイベントの時によく着るという黒の衣装を着ていたのだが、黒のスーツがよく似合っていた。背が高く顔が小さいからこそ、何でも様になるのだろう。顔は小さい方が好き!と言う女性は多いはずだし、きっとそういうことだと思われる。

 自分が本格的にファンになってて、気付いてしまったのだけれど、彼はかなりの天然だと思う。たまに何を言っているか分からなくなることがある。そしてたまーにドジだ。

イベントが始まり司会者の男性が話し始める。司会の方も一度、舞台の雑誌に載ってた人だったので知っている。

「えーとですね、今回はですね、皆さんお楽しみ頂けましたでしょうか?」

そう言って笑いを取ると観客も笑ってくれる。その後

「成川さんから一言お願いします」

とマイクを渡した。彼は一瞬戸惑ったがすぐに

「今日は来てくれてありがとう」

と言って、爽やかな笑顔を見せる。それから少し間があってから続けて

「あの、僕には弟がいるんだけどね、今度誕生日なんだよ。だから何かプレゼントをしたいと思っていてね。でも、なかなか思い付かなくてね。誰か良い案をくれないかな?」

そう言った。

突然の話の展開について行けず、周りの人はざわざわして笑いながら困惑していたが、彼は全く気にせずにニコニコして答えを待っていた。でも、私はそれが可愛いと思った。

 その後の握手会で

「お!日菜乃さん!来てくれたんだ!」

可愛い犬みたいに嬉しそうな顔をしてくれたものだから、胸がきゅんとなった。そして、そんな私の反応を見た彼が、またさらに喜んでくれるものだから可愛くて仕方がなかった。私はすっかり彼にメロメロだ。そんなことを感じながら握手をする。手は温かく柔らかで、優しかった。

「誕生日プレゼント、何か手作りしてみたらどうですか?」

その提案にも、笑顔で

「ありがとう!何か考える!」

売れて人気になったら、彼が遠い存在になるような気がするけど、売れることが生活のため、幸せならば応援したいなと思った。

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