第6話 初恋の人④

 バズってから一週間が経った。

 

 2本目の動画を投稿してから3本目、4本目、5本目と1日1本を目標に動画を投稿している。数本は不評な動画もあったが、それが逆にSNSを盛り上げる要因になった。


 動画は全部右肩上がり。

 SNSのアカウントを作ったこともあって、毎夜動画を投稿するとトレンドに乗るほど知名度が増している。


 『ウサイケ』

 それがファンの中で俺の呼び名になった。誰が言い出したのか知らないが、『噂のイケメン』を略して『ウサイケ』らしい。

 アカウント名の『りくちゃん』の文字が一つもないのはどうなのか……と思ったけど、別の名前で認知されるほど有名になったって思うと嬉しい。


 そう。それもこれも全部、陽キャをわからせるため。

 いつか誰もが知る有名人になって正体を明かすんだ。


 と、そう決意して一週間毎日動画を投稿していたのだが。


「はぁー……」

 

 今日は腰が重い。

 いつもは動画を撮って投稿してる時間帯だが、中々エゴサから抜け出せない。


 正直陽キャをわからせるってだけで、俺とは真逆の陽の世界に飛び込み、モチベーションを維持し続けるのは至難の業。 

 九条さに気持ちを伝えられたあの日から、避けられてる気がしてるのも相まってやる気が出ない。

 

 もっと頑固たる目標があればこんなブレずに動画を投稿し続けられるんだけど……。


 まず九条さんの方をどうにかしないと考えが進まないな。


「よし」


 俺は意を決して電話をかけた。


 プルル……プル。


 すぐ繋がった。


〔…………〕


 どんな風に話しかければ良いんだろう。


「よ、よっ。電話するの久しぶり」


〔………………〕


 緊張し過ぎて変な感じになっちゃった。


 無言でいられると怖いんですけど……。


〔ウサイケ〕 


「ちょっ! まじで恥ずい」


〔なんで恥ずかしいの。私的には噂のイケメン、『ウサイケ』って呼び名結構好きだよ。こんなすごい略し方したの、一体誰なんだろうなぁー〕


 やけに棒読みだな。


「まさか九条さんが流行らせたんじゃないよね?」


〔………………好きなものを投稿するのがSNS。好きな人をバズらせるのがSNS〕


 電話越しでも、数秒の沈黙のときニヤニヤしてたんだろうなってわかるくらい声が浮ついてる。


 冗談で言ったつもりが、どうやら本当に九条さんが流行らせたらしい。


 偶然バズった俺とは違い、SNSの使い方上手くてすごいな。 


〔まぁそんなことはおいといて……。急に電話してきてどうしたの?〕


 質問されてから一息つき。


「実は聞きたいことがあるんだけど。九条さん、最近俺のこと避けてる?」


〔珍しく直球で聞いてくるね〕


「あ、いやごめん。気になっちゃって別のこと考えられなくて」


〔一人でずっと私のこと考えてくれてるって思うと、すごい嬉しっ。ちょうど電話来る前、私も五十嵐くんのこと考えてたよ〕


 九条さんの言葉はいちいち心臓に悪いんだよ……。


〔でも、たしかに学校で五十嵐くんのこと避けてたよ。逆にあんな大事件があったのに、普段通り接してたほうがおかしくない?〕


「た、たしかに」


〔でしょ? まぁけどただ避けてただけじゃなくて、ちょっと距離をおいたら五十嵐くんがどんな風に見えるのか気になって避けてたの。ちなみに結果はウサイケだよ〕 

 

 なんでそう思ったの、なんて恥ずかしいこと聞けるはずもなく。


「なるほど……。色々スッキリしたわ。ありがと」


〔いやいや。こっちこそ何も言わずに距離取ってごめんね〕


 その後俺たちは当たり障りのない会話をして、電話を終えた。


「ふぅ」


 ちなみに全然スッキリしてない。

 逆に頭の中が九条さんで埋め尽くされて、他のことが何も考えられない。


「ちょっとアニメでも見よ……」


 結局その日は動画を上げることなく、眠りについた。







「おはよう。五十嵐くん」


「……おはよ」


 まともに目を見れず、素っ気ない挨拶。


 それは二人が元の関係に戻れないことを意味していた。





『あとがき』

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