第5話 初恋の人③

「好きです。付き合ってください」

 

 中学2年生。夏。

 学校で『恋結びの大樹』の木陰で告白されたのを、今でも鮮明に覚えている。

 そして私が「今はそいうのよくわからないから、時間が経ってまだ好きだったら告白して」と、言ったのも覚えている。


 あれから時が経ち。高校一年生の春。

 たまたま五十嵐くんと隣の席になり、ふと自分が恋に落ちていたことに気づいた。

 明確に、いつ好きになったのかなんてわからない。

 無意識に目で追っちゃったり、暇なとき五十嵐くんのことを考えてしまう。

 他の女の子と喋ってるのを見ると、心がチクチクして辛かったり。悲しかったり。


 いつかまた、私に告白してくるんじゃないかと勝手に思っていたのだが。


「私、五十嵐くんのこと好きだよ」


 まさか私の方から今の気持ちを伝えることになるなんて、思ってもなかった。

 

 そんな大事件があったのは昨日。


 ちなみにその後、五十嵐くんがダッシュで逃げちゃったので特に進展はない。


「ゔ〜」


 私は大事件を思い出し、恥ずかしさに悶えベットに飛び込んだ。


 今日が土曜日で良かった……。

 こんな普段と違う姿を見られたら、もっともっと恥ずかしくておかしくなっちゃう。

 

 五十嵐くんも私に身バレして、恥ずかしかったのかな。


「あっ新しい動画上がってる」


 気分転換にルックトックを見ていたら、『りくちゃん』の動画が周ってきた。


 上がってからまだ10分しか経ってないのに、再生数が1Kを超えている。


 今、ネットは『りくちゃん』についてのことで大盛り上がりしてる。

 元モデルの誰々なんじゃないかとか、現アイドルの誰々なんじゃないかとか。昨日の夜、そこで話題に上がった本人が直接否定して更に盛り上がりを増した。

 

 そんな中動画を出したってことは、五十嵐くん有名になりたいのかな。


「やだやだ」


 有名なったら、私みたいに五十嵐くんのことを好きになる人が現れちゃうかもしれない。 

 好きになる人が現れなくても、私以外の女の子と喋る機会が増えるのはやだ。

 

 でも、五十嵐くんのしたいことを止める権利なんてないし……。


「どうしたらいいんだろう」


 とりあえず新しく上がった動画でも見ようかな。



「…………」


 十数秒の動画を見終えた私は、どこか物足りなさを感じて放心状態になってしまった。


 五十嵐くんが上げた動画は、今ルックトックで流行ってるもの。

 動きは悪くなく、これを見た人は[かっこいい!]とか[素敵!]コメントするんだろうなぁ〜と、容易に想像できた。


 でも、この物足りなさはそういうものじゃない。

 

「らしくないのかな」


 SNSで拡散されている『りくちゃん』はイケメンで、かっこよくて、画面映えする男の人って感じ。

 けどこの新しい動画は、セクシーな感じの人に合うもの。


 流行ってるもののチョイスを間違ってる。


 私だったらもっと『五十嵐くん』と『りくちゃん』の良さを出せる流行りの動画、知ってるのに。

 

「あ」


 そうだ。


 私がこういう五十嵐くんの間違いを補う関係になれば、今以上に親密な関係になれるんじゃ……。

 

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