第4話 初恋の子②

 君たちは言いたくないことを問い詰められたとき。

 どんなことを思うだろうか?


 俺の場合は、全部話してスッキリしたくなった。


「ふぅーん。やっぱりあの動画に映ってたの、五十嵐くんのキーホルダーだったんだ」


「そ、そうだけど」


 中学1年生ぶりに九条さんの部屋に入り、色々思うところがあるが、今はそれどころじゃない。

 

 家族以外で一番身近な人に身バレしてしまった。


 別人のような姿の動画を見て、どんなことを思ったんだろう?


 怖くてベットの上に腰を下ろした九条さんを見上げられない。


「ふふっ。そんな怖がらないで。別に私、気持ち悪いだとかそういうこと思ってないし、五十嵐くんが『りくちゃん』だなんてこと拡散しないから安心して」


「……本当?」


「本当本当。一応聞くんだけど、このこと私しか知らないんだよね?」


「知らない」


「ふへへぇ〜。じゃあ私と五十嵐くんだけの秘密だね」


 突然人差し指を俺の唇に当ててきて、一瞬時間が止まった。


「秘密っ」


「………………うん」

 

 なんでそんなあざといこと平然とできるんだ。

 こんなの、ドギマギしないほうが難しい。


 やけにあっさり身バレしたけど、果たして親の帰りが遅い家に強引に連れ込んだ理由はこれだけなのだろうか?


 流石に憶測がすぎるかもしれない。

 けど、人差し指を俺の唇に当ててきてから一切九条さんが俺と目を合わせてきてない。それに加え、短い間隔で前髪を何度も弄ってる。

 

 本当に憶測じゃないかもな……。 


「お、お茶でも持ってこよっ」


 熟考してる俺をよそに、九条さんはそう言って部屋から逃げるように出ていった。


「別の目的があるかも」


 俺の予想通り、なにかあるのかもしれないけど。

 こんなことばっかり考えてたら一向に前に進めない。


 いや待てよ。


 今は誰の邪魔が入らない。誰かの目を気にする必要もない。

 もしかして未練がある初恋に区切りをつけるのに絶好の機会なんじゃないか?

 

「ごめーん。麦茶じゃなくてジャスミン茶しかないんだけど、五十嵐くんって飲めたっけ?」


「飲める飲める」


「おっよかった」


 元の様子に戻った九条さんに言うのは気が引けるけど……。

 そんなこと思ってたら、いつまで経っても色々理由をつけて逃げてしまいそう。


「俺、九条さんが初恋だったよ」


 コツン、とコップをテーブルに置いた九条さんはその体勢で固まった。


 今更何を言ってるんだろう、と思ってそう。

 瞼を大きく開き、口が半開きになり。いつもの九条さんからは想像がつかない、愕然とした顔をしている。


「ビックリするよね。ごめん。……俺の中でけじめみたいなものだから、あんま気にしないで」


 できるだけ爽やかな笑顔を作り、軽い感じを出しているが。

 九条さんはまだ固まってる。

 

「…………それってどういうこと」


 数秒の沈黙を破った九条さんの声はどこか魂が抜けたかのように聞こえた。


「好きな人でもできたの?」


「え。いやそういうんじゃなくて。さっきも言ったけど、けじめ的なやつ」


「じゃあ私のこと嫌いになったの?」


「そんなわけ……ないじゃん」


「ならそんな事言わないでよ」


 九条さんの顔がちょっと怖い。

 なんで俺、こんな問い詰められてるんだろう?

 そんなおかしなこと言ったつもりないんだけど。


「見捨てられたって勘違いしちゃうじゃん」


「見捨て、られた?」


「うん」


 一度告白してフラれて、俺たちは元の普通の友達に戻ったんじゃないのか?


 何かが噛み合ってない。


「私ずぅーっと、いつもう一回告白されるのかなって思ってるもん」


「……へ? 俺のことフッたじゃん」


「告白を断りはしたけど、あのとき「今はそいうのよくわからないから、時間が経ってまだ好きだったら告白して」って言ったけど……。もしかして覚えてなかったの?」


「……」


 完全に覚えてなかった。



「私、五十嵐くんのこと好きだよ」

 

「なっ」


「へへ。さっきの仕返しっ」

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