第3話 初恋の子①
「盛り上がってるかぁああああ!!!!」
「「いぇ〜い!!!」」
「いえーい」
俺は今。クラスの陽キャに属する人達と一緒にカラオケに来てる。
といっても、俺は急遽行けなくなった人の人数合わせなんだけど。
部屋の隅っこで1人丸椅子に座って、リズムに合わせてタンバリンを叩くのが俺の仕事だ。
正直今すぐ適当言って抜けたいけど、俺の心を繋ぎ止めているのは目の前のソファに座ってる九条さんの存在が大きい。というか、九条さん目当てでここにいる。
いい加減、未練たらたらな初恋をどうにかしたいんだけどやめらんねぇんだ……。
「おいタンバリン。手止まってるぞ」
「あっはい。すいません」
なんで同級生にペコペコ頭を下げないといけなんだろう……。
今は疑問に思うだけ無駄だ。
この前ルックトックに投稿した2本目の動画もバズって、いよいよSNSがお祭り騒ぎになり始めてるし、あんなやつに構ってるだけ無駄。
あっ今、良い目標思いついた。
もっともっとネットで認知されて有名になって、この陽キャをわからせよう。
わからせたときの爽快感を想像しただけで頭がおかしくなりそうだ。
「だからタンバリン止まってるっつってるだろ!」
「す、すいません」
「そんなにタンバリンが気に入ってるのなら、自分で叩けば良いんじゃない?」
俺の手からタンバリンを取り上げ、庇ってくれたのは他でもない九条さん。
背中しか見えないけど、声が暗くて優しいお姉さんの顔をしてないことくらい想像がつく。
「はいどうぞ。場を盛り上げるのは、バカみたいな顔のあなたにピッタリな仕事ね」
「はぁ!?」
陽キャは九条さんの煽りに激高して立ち上がったが、すぐタンバリンを受け取って大人しく座り直した。
余程九条さんのことが怖かったんだろう。陽キャだけでなく、部屋にいる他の人たちの顔も真っ青になってる。
たまに俺はこういう人たちに絡まれて、苦しい思いをするときがある。でも、毎回今日みたいに全部九条さんが救ってくれる。
正面、感謝しかないんだけど……。
なんで助けてくれるのか、いまいちわならない。
俺って告白を断られたんだよな?
冷静になって思い返すと、告白する前ってここまで距離近くなかったような気がする……。
俺と九条さんはあの後カラオケから出て、行く宛もなくぶらぶら歩いていた。
「五十嵐くん。しっかり嫌なことは嫌だって言わないとダメなんだよ?」
「あぁうん。さっきは助けてくれてありがとう」
「もー……これが何回目なのか忘れちゃうくらい庇ってるよ。全く私がいないとダメなんだから」
ニコッと抱擁力のある母性の塊のような顔を向けられた。
普段、俺にはよくこういう顔を向けてくるけど、他の人に向けてるのは見たことない。
「っ」
なんか変に意識してしまい、歩くスピードが少し速くなってしまった。
が、それは後ろから手を掴まれ止められる。
「ご、めん。歩くの速くなっちゃった」
「いや止めたのはそうじゃなくて……。確認したいことがあるの」
「え。なに?」
やけに真剣な声だ。
「去年、私の誕生日にくれた犬のキーホルダーって、応募で当たったやつでこの世に2つしかないんだよね?」
「ない……けど」
俺の言葉を聞いた九条さんはどこか嬉しそうな顔をしながら、ポケットから犬のキーホルダーを取り出した。
「今朝たまたまルックトックでバズってる動画見たら、これと同じものを持ってる人がいたの」
「…………へぇ」
まずい。バレたら俺の高校生活が終わる。
「なんで私に秘密にしようとするの?」
「なんのこと言ってるのかさっぱりわかんない」
「いいよ。五十嵐くんがその気なら、強引な方法で口を割らせるんだから」
九条さんは強引に俺の体を引き寄せ、体を密着させてきた。
体の感触が伝わってきて、反射的に離そうとしたが力が強くて離せない。
「う、あ、う」
心が落ち着く九条さんの匂いに脳がやられてたところ、追い打ちをかけるように。
耳元に口を寄せられ。
「私の家、行こっか」
小声で喋られ吐息が耳にかかってきたが、男としての防波堤を考え、なんとか正気を保てていたのだが……。
「実は今日親が帰ってくるの遅くなるの」
その言葉が決め手となり、完全に思考が停止した。
「さっ色々教えてもらおぉーっと」
ウキウキな九条さんに密着されたまま、俺は家に連れ込まれてしまった。
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